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第六章
246:オイゲンの願い その2
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(カワナさんをどこに送り込むか……)
オイゲンは自身の秘書メイ・カワナを「タブーなきエンジニア集団」に協力させる方法を考えている。そのためには彼女を「タブーなきエンジニア集団」に送り込む必要がある。
彼の知る限り「タブーなきエンジニア集団」の幹部の中で、現在もっともECN社の近くにいるのがサクライである。
同じハモネスの市内であるし、ECN社本社から歩いて三〇分程度の距離だ。
しかし、オイゲンはメイをサクライのところに送り込むつもりはない。
サクライの占拠したOP社治安改革センターまでの道は、OP社による監視が非常に厳しい場所である。オイゲンはメイを危険に曝したくはない。
また、メイがサクライを知らないことも理由の一つである。
セス達が北へ向けて旅立った際、彼女はセス達と多少会話ができたが、まったく知らない相手と会話ができるほど彼女の対人恐怖症が改善されたとは思えない。
サクライと会わせたところでコミュニケーションが取れるかどうか、確証が持てない。
ウォーリーとエリックのいるインデストも候補から外した。
場所が遠すぎるし、OP社治安改革部隊の攻撃を直接受ける場所だ。危険が大きすぎる。
(モトムラ君が適任だと思ったのだが……)
オイゲンにとって、人当たりの柔らかいエリックがインデストにいるのは痛かった。
メイがウォーリーと会話がしにくいと感じたなら、エリックを仲介させることを考えていたからだ。
オイゲンは「タブーなきエンジニア集団」の幹部の中でもっともメイが話をしやすいのはエリックと予想していた。
人当たりが柔らかいし、外見も大人しそうに見える。
実際に厳しいことをあまり言わない人間であるし、落ち着いた人間であるからメイも相手にしやすいだろうと思われる。
しかし、エリックがインデストにいる以上、彼の仲介を望むのは厳しそうだ。
もっともエリックは仲間内では毒舌家として知られており、オイゲンの見立ては必ずしも正しくない。
最後に残されたのがミヤハラのいるジンである。
この都市には巨大医療機関メディットがある。OP社もメディットへ行く人間を規制してはいないので、人の出入りも割と自由である。
また、ECN社のあるハモネスからなら鉄道で三〇分弱であり、距離もそう遠くない。
ミヤハラはオイゲンのもっとも親しい友人でもあり、信頼もしている。
オイゲンが引っかかっていることといえば、メイがミヤハラを怖がっている節があることだ。
外見がややいかつく、口数がそれほど多くないのが原因だと思われるが、怒らせなければ実際のミヤハラはそれほど怖い人間でもない。
エリックの次に温厚な人間だとオイゲンは思うのだが、なかなか理解はされないようだ。
ひとたび怒れば、圧倒的な威圧感で襲いかかってくるが、彼の怒りのスイッチを押すのはかなり難しい。
(……何とかカワナさんを説得してミヤハラのところに行ってもらうしかないか)
オイゲンはそう結論を出した。
秘書のメイだけではなく、オイゲン自身の去就も考えなければならない。
彼がOP社治安改革部隊に同行することは避けられそうもない。
後任についてはOP社から公式な指示はないが、既に決まっているようだ。
前にも派遣されてキノシタに追い返されたウノであれば、社内の環境が劇的に変わることはないだろう。
下手に動けば再びキノシタに追い返されるであろうから、今度はウノも慎重になるであろう。今度追い返されればハドリから厳罰が下る可能性があるからだ。
誰であろうと代わりの社長が入りECN社が維持されるのであれば、社長としての自分は用済みとなる。
そこでオイゲンが考えたのは、インデストで「タブーなきエンジニア集団」と争っている混乱にまぎれてどこかに隠れることであった。
戦闘中に行方不明になることはよくあることだ。
死んだと思われればそれに越したことは無いし、OP社にも行方不明になったオイゲンを無理に捜索するよりも他にやることがあるだろうと考えたからだ。
OP社が、すなわちハドリがオイゲンを人質に「タブーなきエンジニア集団」に降伏を迫る可能性も考えたが、これは可能性が低いと思われた。
オイゲンのやり方に愛想を尽かして出て行った相手だ。今さらオイゲンが人質として機能するとは考えにくい。
オイゲンを人質にするなら、ハドリはオイゲンが行方をくらます隙を与えてくれないだろう。だが、今回はあまりその心配はしなくてよいようだ、とオイゲンは楽観的に考えた。
ならば、戦いにまぎれて行方をくらまし、ほとぼりが冷めるまでどこかに潜伏するのがベストだろう、とオイゲンは思う。
ほとぼりが冷めた後は、別の人間として新しい人生を送ってもいいかな、と彼は考えている。エクザローム第二の巨大企業の社長という席は、彼にとっては窮屈でしかなかった。
また、彼自身他の誰にも話したことはないが、他にも背負っている業がある。
彼自身の責任ではないかも知れないが、他にこの業を背負うべき者はないのだ。
オイゲンは、この業からも解放されたかった。だからこそ、別の人間として新しい人生を送る、という逃げ道に魅力を感じていた。
オイゲンは自身の秘書メイ・カワナを「タブーなきエンジニア集団」に協力させる方法を考えている。そのためには彼女を「タブーなきエンジニア集団」に送り込む必要がある。
彼の知る限り「タブーなきエンジニア集団」の幹部の中で、現在もっともECN社の近くにいるのがサクライである。
同じハモネスの市内であるし、ECN社本社から歩いて三〇分程度の距離だ。
しかし、オイゲンはメイをサクライのところに送り込むつもりはない。
サクライの占拠したOP社治安改革センターまでの道は、OP社による監視が非常に厳しい場所である。オイゲンはメイを危険に曝したくはない。
また、メイがサクライを知らないことも理由の一つである。
セス達が北へ向けて旅立った際、彼女はセス達と多少会話ができたが、まったく知らない相手と会話ができるほど彼女の対人恐怖症が改善されたとは思えない。
サクライと会わせたところでコミュニケーションが取れるかどうか、確証が持てない。
ウォーリーとエリックのいるインデストも候補から外した。
場所が遠すぎるし、OP社治安改革部隊の攻撃を直接受ける場所だ。危険が大きすぎる。
(モトムラ君が適任だと思ったのだが……)
オイゲンにとって、人当たりの柔らかいエリックがインデストにいるのは痛かった。
メイがウォーリーと会話がしにくいと感じたなら、エリックを仲介させることを考えていたからだ。
オイゲンは「タブーなきエンジニア集団」の幹部の中でもっともメイが話をしやすいのはエリックと予想していた。
人当たりが柔らかいし、外見も大人しそうに見える。
実際に厳しいことをあまり言わない人間であるし、落ち着いた人間であるからメイも相手にしやすいだろうと思われる。
しかし、エリックがインデストにいる以上、彼の仲介を望むのは厳しそうだ。
もっともエリックは仲間内では毒舌家として知られており、オイゲンの見立ては必ずしも正しくない。
最後に残されたのがミヤハラのいるジンである。
この都市には巨大医療機関メディットがある。OP社もメディットへ行く人間を規制してはいないので、人の出入りも割と自由である。
また、ECN社のあるハモネスからなら鉄道で三〇分弱であり、距離もそう遠くない。
ミヤハラはオイゲンのもっとも親しい友人でもあり、信頼もしている。
オイゲンが引っかかっていることといえば、メイがミヤハラを怖がっている節があることだ。
外見がややいかつく、口数がそれほど多くないのが原因だと思われるが、怒らせなければ実際のミヤハラはそれほど怖い人間でもない。
エリックの次に温厚な人間だとオイゲンは思うのだが、なかなか理解はされないようだ。
ひとたび怒れば、圧倒的な威圧感で襲いかかってくるが、彼の怒りのスイッチを押すのはかなり難しい。
(……何とかカワナさんを説得してミヤハラのところに行ってもらうしかないか)
オイゲンはそう結論を出した。
秘書のメイだけではなく、オイゲン自身の去就も考えなければならない。
彼がOP社治安改革部隊に同行することは避けられそうもない。
後任についてはOP社から公式な指示はないが、既に決まっているようだ。
前にも派遣されてキノシタに追い返されたウノであれば、社内の環境が劇的に変わることはないだろう。
下手に動けば再びキノシタに追い返されるであろうから、今度はウノも慎重になるであろう。今度追い返されればハドリから厳罰が下る可能性があるからだ。
誰であろうと代わりの社長が入りECN社が維持されるのであれば、社長としての自分は用済みとなる。
そこでオイゲンが考えたのは、インデストで「タブーなきエンジニア集団」と争っている混乱にまぎれてどこかに隠れることであった。
戦闘中に行方不明になることはよくあることだ。
死んだと思われればそれに越したことは無いし、OP社にも行方不明になったオイゲンを無理に捜索するよりも他にやることがあるだろうと考えたからだ。
OP社が、すなわちハドリがオイゲンを人質に「タブーなきエンジニア集団」に降伏を迫る可能性も考えたが、これは可能性が低いと思われた。
オイゲンのやり方に愛想を尽かして出て行った相手だ。今さらオイゲンが人質として機能するとは考えにくい。
オイゲンを人質にするなら、ハドリはオイゲンが行方をくらます隙を与えてくれないだろう。だが、今回はあまりその心配はしなくてよいようだ、とオイゲンは楽観的に考えた。
ならば、戦いにまぎれて行方をくらまし、ほとぼりが冷めるまでどこかに潜伏するのがベストだろう、とオイゲンは思う。
ほとぼりが冷めた後は、別の人間として新しい人生を送ってもいいかな、と彼は考えている。エクザローム第二の巨大企業の社長という席は、彼にとっては窮屈でしかなかった。
また、彼自身他の誰にも話したことはないが、他にも背負っている業がある。
彼自身の責任ではないかも知れないが、他にこの業を背負うべき者はないのだ。
オイゲンは、この業からも解放されたかった。だからこそ、別の人間として新しい人生を送る、という逃げ道に魅力を感じていた。
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