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第六章
254:ユニヴァースが得たもの その1
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突然セスの口から発されたインデストへ行こうという言葉にモリタが首を横に振った。
「ECN社は『タブーなきエンジニア集団』の活動に反対しているんだよ。バイトとは言え、社の方針に反する行動を取るのはまずいよ」
「そうだな……さすがにECN社に迷惑がかかるな、それは……」
モリタの意見にロビーも賛成した。
少なくとも、ECN社に対して義理を欠く行為は避けるべきだ、ということである。
二人の答えにセスが露骨に落胆した様子を見せる。
「わかったよ……でも、ウォーリー・トワさんが自分の兄かどうかの事実は確認したいんだ……
父親らしき人の年齢も一致しているようだし、記録ディスクの作成者がウォーリー・トワさんの母親らしい人だ。ならばその人は僕の母にもなるだろうから。
この地の歴史を知ることで、それぞれの事件や人々が繋がって、ようやく僕の兄らしい人にたどり着いた。今は最後の確認だけが残されている段階で、それが終わってはじめて僕の中で一つの流れになるんだ。でも、どうしたらいいかな?」
セスの言葉にロビーは首を捻って考え込んだ。セスの言葉がやや支離滅裂気味だったからかもしれない。
ロビーとしてはセスの主張も理解できる。
本心としては、何とかしてやりたい。セスに残された時間は決して多くないのだ。
一方でECN社、特にオイゲンの立場が悪くなることも考えなければならない。
ECN社は必ずしもあてになる協力者ではなかったが、社の協力がなければ現在の状況に到達することはできなかった。
また、インデストへ行くことの危険も考慮しなければならない。
セスの病状は小康状態にあるが、必要な情報が得られた今、一旦メディットへ足を運び、チェックを受ける必要がある。このチェックなしに、遠方のインデストへ行くのは危険が大きすぎる。
現在のインデストの情勢も悪い。「タブーなきエンジニア集団」とOP社グループ労働者組合が手を組んでいる一方で、OP社本社がこの動きに対抗姿勢を見せている。
フジミ・タウンの賊は始末されたが、事後処理のため多くのOP社治安改革部隊が残されているのも懸念材料だ。
どう考えても一般市民がインデストに移動するのは危険が大きすぎる。セスはその上身体的にも不安がある。
「必要な情報が集まったら、一度メディットへ行ったらどうだ? そこで医者に話を聞いてからでも遅くないだろう。薬もそろそろ手持ちが無くなるんだからな」
ロビーの結論にセスはうなずいたが、モリタの顔色を窺っている。
モリタも一旦メディットへ行くのには賛成のようだ。
「社長さんにも確認してみるよ」
セスはオイゲンから指定された専用回線を使って連絡を取った。
「……迎えをよこすから連絡をとりながら本社に戻ってきてくれ、だってさ。
道が悪いだろうからって気を遣ってくれたんだろうな。人が増え過ぎてもかえって邪魔になると思うんだけどね。何か他の意図があるかもしれない。それを察してこっちも行動を起こした方がいいかな。OP社が治安改革活動をやるようになってから、別の意味で物騒になったから……できる人たちの考えは理解を超えているよ」
セスが饒舌にオイゲンの答えを説明した。彼が饒舌なのは、半分くらいの確率で精神状態が良くないときだ。今回はこれに該当するだろう。
ロビーとモリタは顔を見合わせながらもECN社の本社に戻ることを承知した。二人とも本社に戻ることを基本路線としていたから、オイゲンからの答えに異論があるはずもなかった。
セス達のやり取りを聞いていたユニヴァースは情報端末に登録されている情報を自分のコンピュータにコピーした。
この仕事を請ける際に、予めオイゲンから必要に応じて情報のコピーをとることの許可は得ていたので、問題のない行為である。
ユニヴァースはかつてポータル・シティ海岸エリアの自治組織で書記官をしていたことがある。
その間にこの地で発生した事柄を記録していたが、どうしても情報の集まらないものがあった。それが「フジミの大虐殺」に関する情報である。
彼は知的好奇心からそれらの情報を求めたのだが、そうやすやすと手に入るものではなかった。
主だった関係者が事件直後に亡くなっていることも影響している。また、陰謀にあたるものの常として、情報は狭い範囲に集中しており、それらのほとんどが隠蔽されていることもユニヴァースが情報を得られない原因となっていた。
ユニヴァースはこうした未知の情報を得るため、人里離れた場所に住み込んだ。
「はじまりの丘」を選んだのには訳がある。
都市部は集合住宅が多く、人間関係が何かと煩わしい。
ユニヴァースとしては人間関係に煩わされるのが鬱陶しかったから、できるだけ人と関わりを持たない場所に住みたかった。
また、彼の知的好奇心は「フジミの大虐殺」に関する情報にとどまらず、「ルナ・ヘヴンス」の不時着の背景などエクザロームで発生したすべての事実であった。
その情報源である「ルナ・ヘヴンス」の不時着地点の近くに住むのは、合理性があるのだ。
この地は他に住む者もなく、他人に煩わされることも少ない。
土地も比較的広く使えるので、農作物を育てれば自給自足の生活も可能なのだ。
どうしても金が必要なときは、「ルナ・ヘヴンス」の残骸を集め、部品業者やリサイクル業者に売って金を作った。
「はじまりの丘」はユニヴァースにとって、自らの活動を行うのに最適の場所だったのである。
「ECN社は『タブーなきエンジニア集団』の活動に反対しているんだよ。バイトとは言え、社の方針に反する行動を取るのはまずいよ」
「そうだな……さすがにECN社に迷惑がかかるな、それは……」
モリタの意見にロビーも賛成した。
少なくとも、ECN社に対して義理を欠く行為は避けるべきだ、ということである。
二人の答えにセスが露骨に落胆した様子を見せる。
「わかったよ……でも、ウォーリー・トワさんが自分の兄かどうかの事実は確認したいんだ……
父親らしき人の年齢も一致しているようだし、記録ディスクの作成者がウォーリー・トワさんの母親らしい人だ。ならばその人は僕の母にもなるだろうから。
この地の歴史を知ることで、それぞれの事件や人々が繋がって、ようやく僕の兄らしい人にたどり着いた。今は最後の確認だけが残されている段階で、それが終わってはじめて僕の中で一つの流れになるんだ。でも、どうしたらいいかな?」
セスの言葉にロビーは首を捻って考え込んだ。セスの言葉がやや支離滅裂気味だったからかもしれない。
ロビーとしてはセスの主張も理解できる。
本心としては、何とかしてやりたい。セスに残された時間は決して多くないのだ。
一方でECN社、特にオイゲンの立場が悪くなることも考えなければならない。
ECN社は必ずしもあてになる協力者ではなかったが、社の協力がなければ現在の状況に到達することはできなかった。
また、インデストへ行くことの危険も考慮しなければならない。
セスの病状は小康状態にあるが、必要な情報が得られた今、一旦メディットへ足を運び、チェックを受ける必要がある。このチェックなしに、遠方のインデストへ行くのは危険が大きすぎる。
現在のインデストの情勢も悪い。「タブーなきエンジニア集団」とOP社グループ労働者組合が手を組んでいる一方で、OP社本社がこの動きに対抗姿勢を見せている。
フジミ・タウンの賊は始末されたが、事後処理のため多くのOP社治安改革部隊が残されているのも懸念材料だ。
どう考えても一般市民がインデストに移動するのは危険が大きすぎる。セスはその上身体的にも不安がある。
「必要な情報が集まったら、一度メディットへ行ったらどうだ? そこで医者に話を聞いてからでも遅くないだろう。薬もそろそろ手持ちが無くなるんだからな」
ロビーの結論にセスはうなずいたが、モリタの顔色を窺っている。
モリタも一旦メディットへ行くのには賛成のようだ。
「社長さんにも確認してみるよ」
セスはオイゲンから指定された専用回線を使って連絡を取った。
「……迎えをよこすから連絡をとりながら本社に戻ってきてくれ、だってさ。
道が悪いだろうからって気を遣ってくれたんだろうな。人が増え過ぎてもかえって邪魔になると思うんだけどね。何か他の意図があるかもしれない。それを察してこっちも行動を起こした方がいいかな。OP社が治安改革活動をやるようになってから、別の意味で物騒になったから……できる人たちの考えは理解を超えているよ」
セスが饒舌にオイゲンの答えを説明した。彼が饒舌なのは、半分くらいの確率で精神状態が良くないときだ。今回はこれに該当するだろう。
ロビーとモリタは顔を見合わせながらもECN社の本社に戻ることを承知した。二人とも本社に戻ることを基本路線としていたから、オイゲンからの答えに異論があるはずもなかった。
セス達のやり取りを聞いていたユニヴァースは情報端末に登録されている情報を自分のコンピュータにコピーした。
この仕事を請ける際に、予めオイゲンから必要に応じて情報のコピーをとることの許可は得ていたので、問題のない行為である。
ユニヴァースはかつてポータル・シティ海岸エリアの自治組織で書記官をしていたことがある。
その間にこの地で発生した事柄を記録していたが、どうしても情報の集まらないものがあった。それが「フジミの大虐殺」に関する情報である。
彼は知的好奇心からそれらの情報を求めたのだが、そうやすやすと手に入るものではなかった。
主だった関係者が事件直後に亡くなっていることも影響している。また、陰謀にあたるものの常として、情報は狭い範囲に集中しており、それらのほとんどが隠蔽されていることもユニヴァースが情報を得られない原因となっていた。
ユニヴァースはこうした未知の情報を得るため、人里離れた場所に住み込んだ。
「はじまりの丘」を選んだのには訳がある。
都市部は集合住宅が多く、人間関係が何かと煩わしい。
ユニヴァースとしては人間関係に煩わされるのが鬱陶しかったから、できるだけ人と関わりを持たない場所に住みたかった。
また、彼の知的好奇心は「フジミの大虐殺」に関する情報にとどまらず、「ルナ・ヘヴンス」の不時着の背景などエクザロームで発生したすべての事実であった。
その情報源である「ルナ・ヘヴンス」の不時着地点の近くに住むのは、合理性があるのだ。
この地は他に住む者もなく、他人に煩わされることも少ない。
土地も比較的広く使えるので、農作物を育てれば自給自足の生活も可能なのだ。
どうしても金が必要なときは、「ルナ・ヘヴンス」の残骸を集め、部品業者やリサイクル業者に売って金を作った。
「はじまりの丘」はユニヴァースにとって、自らの活動を行うのに最適の場所だったのである。
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