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第六章

257:殺害予告

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 セスがハモネスに向けて出発してから五日後、LH五一年三月一日のことである。
 セス達は「はじまりの丘」からハモネスに向かう街道を進んでいる。

 一方、セスが捜し求める人物は現在もハモネスから三〇〇キロメートル以上離れた地に留まっている。
 このとき彼の姿はインデスト市内某所の一室に仲間とともにあった。

 バタバタバタとせわしない足音が部屋に近づいてきた。
 そしてバタン、と乱暴にドアが開かれる音がした。
「マネージャー、大変なことになりました!」
 エリック・モトムラが息を切らせて部屋の中に入ってきたのだった。
 どうも度胸と落ち着きに欠けるんだよな、と思いながらウォーリー・トワが手を挙げた。
 エリックも「タブーなきエンジニア集団」の幹部の一員であるが他の幹部、ノリオ・ミヤハラやアツシ・サクライと比較するとどこか頼りないようにウォーリーには思われた。

「とにかく落ち着け。それで、どうした?」
「はあ」
 ウォーリーの言葉にエリックも手を挙げて応えたが、その表情はやや硬い。
 ウォーリーに促されエリックが報告を始める。
「OP社、ハドリの目的は『タブーなきエンジニア集団』やOP社グループ労働者組合の屈服ではなく、ウォーリー・トワとサン・アカシの殺害にある、とのことです!」
 報告を終えたエリックの顔は青ざめていたが、ウォーリーは至って冷静だ。
「……ハドリの奴が俺を殺したところで何か利益あるのか? それに俺はハドリのやっていることには反対しているが、命を奪われるほどのことはしていないぜ」
 ウォーリーが何を言っているのだと言わんばかりに呆れた顔を見せた。
 その直後、OP社グループ労働者組合代表のサン・アカシも会話に加わってくる。
 それまでは部屋の奥の方で書類を整理していたのだが、二人の方に椅子ごと移動してきたのだ。

「トワさんや私を殺害してどうしようというのでしょうね? ハドリ社長お得意のガセ情報じゃないですか?」
「だといいのですけど……」
 エリックは不安そうな表情を隠さないまま、携帯端末を広げて画面を示した。
 彼が独自にOP社の通信を傍受して記録したらしい。
 その情報にウォーリーの殺害をほのめかす内容があるというのだ。

「この部分です!」
 エリックが該当部分を指でなぞった。
 どうやら幹部向けの通達文のようだ。
「どれどれ……面白いことを言ってくれるじゃないか……」
 ウォーリーが画面に目を向けた。
 そこに表示されていたのは
「『タブーなきエンジニア集団』と労働者組合を名乗る連中の幹部を拘束せよ」
 という意味の文面であった。ハドリの名前で発表されているので、彼からの命令であることには間違いなさそうではあるが……

「……これのどこが俺やアカシの殺害を意味するんだ?」
 ウォーリーが不思議そうに聞いてきた。あからさまに拍子抜けした顔を見せている。
「今までOP社がやってきたことを考えてください! OP社に逆らって組織の幹部が拘束された場合、彼らが助かったケースがあるでしょうか?!」
 エリックは悲痛な表情で訴えかけた。
 しかし、ウォーリーもアカシも気楽なものだ。
「エリック、俺達はOP社の連中を傷つけたり殺害したりはしていないぞ。今までハドリに殺された連中とはそこが違う」
「そうですよ、モトムラ君。『エクザローム防衛隊』の類と我々は違います。ハドリ社長にも体裁があるでしょうから、仮に我々が拘束されたとしても殺害などできないはずです」
「アカシ、それは甘いな。俺達がハドリに捕まるようなヘマはしない、ということだ。そこを間違ってもらっちゃ困る」
「そうでしたね、すみません」
 ウォーリーとアカシが顔を見合わせて笑い出した。ハドリ何するものぞ、と言わんばかりである。
 ウォーリーとアカシの会話にエリックは開いた口がふさがらなかったが、とにかく気をつけてくださいよ、と忠告することは忘れなかった。

「……エリックも心配性だな。まあ、気をつけることとしよう。ところで、アカシのところが通信環境が整わずに困っているみたいなんだ。ちょっとひとっ走り行ってくれないか?」
 ウォーリーの依頼にエリックはわかりましたと答えて、アカシに連れられて出て行った。

 ミヤハラやサクライなどと比較すると、エリックは腰が軽いのがいいところだとウォーリーは思う。
 だが、胆力に欠けるのが難点だ。仕事などで修羅場は経験しているはずなのだが、どうも慣れるには時間がかかるようでそれがもどかしい。
 ウォーリーはエリックが置いていった携帯端末に目をやった。
 後でウォーリーが情報を見る必要が出たときのことを考えて、エリックが意図的に残していったようだ。
 (まったく、変なところで気を遣う奴だな……
 神経質すぎるというか……)
 ウォーリーはエリックの残した端末を手に取り、画面を覗いてみた。
 お世辞にも情報が整理されているとはいえなかったが、この点についてはウォーリーも五十歩百歩であるからお互い様だ。
 勿論、百歩の方がウォーリーであるのは異論のないところだ。
 ウォーリーに同じ指摘をしても苦笑しながら同意したに違いない。
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