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第七章
282:オイゲンからの提案
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オイゲンの指示でロビーがモリタと、オオイダがコナカと連絡を取った。
両者とも都合はつくとのことであったので、オイゲンの指示でポータル・シティ東駅で待ち合わせることとなった。
オイゲン、ロビー、カネサキ、オオイダの四人はジンの駅へと向かった。
「社長さん、全員集めてどうするんだ……?」
駅への移動の途中、ロビーが訝し気にオイゲンに尋ねた。
「あ……後で話すよ。行き先は隣のポータル東駅だ」
ジン駅で四人は列車に乗り、隣のポータル・シティ東駅で下車した。そこでコナカとモリタを待つ。
三〇分ほどして駅の改札前で四人はコナカ、モリタと合流した。
そして、オイゲンの案内で小さな寿司屋に到着した。
一階はカウンター席が六つあるだけだ。
「社長、六人だったな? 上に用意してあるから」
オイゲンの顔なじみの店らしく、入るやいなや上の階の個室へと案内された。
「社長さんともなると、ランチでもいいもの食べているのね……
今度からお昼は社長に同行しようかしら」
上の階へと向かう途中、オオイダがそうつぶやくとオイゲンとロビーが苦笑した。
ロビーは一時期、毎日のようにオイゲンと一緒に昼食に行っていたから、普段のオイゲンの昼食がECN社の普通の社員と大差ないことを知っているのだ。
個室にあるテーブルの上には大きな寿司桶が置かれていた。
オオイダなどは今にも手を伸ばしたいといった様子でうずうずしている。
実際にオオイダがそろりそろりを手を伸ばすふりをすると、カネサキがぺしゃりとその手を叩いた。
「何よ、フリだけじゃない!」
オオイダが不満そうな顔を見せた。
「あのね……」
カネサキがジト目でオオイダを睨んだ。
「さて、ここに集まってもらった理由ですが、今後のことで皆さんにお話ししたいことがあります……」
皆が座ったのを確認してからオイゲンがいつにない真剣な顔で全員に語りかけた。
ごくり、と唾を飲む音も聞こえる。
「あ、そこまで緊張しなくてもいいです。せっかくお寿司があるのだから、つまみながらで……」
オイゲンとコナカを除く全員の手がさっと寿司桶に伸びた。
オイゲンとコナカは出遅れた格好である。
「それで……話って何よ、社長」
カネサキが自分の皿に一通りの寿司を持ってきてから、オイゲンの方を向いた。
自分の好きなネタは他人には渡さない、という意思が見て取れるな、とロビーは思った。
「……タカミ君、インデストへ行くつもりなのかな?」
オイゲンが朴訥とした話しぶりで問いかけた。
ロビーは力強くうなずく。当然だと言わんばかりだ。
するとオイゲンは両手を広げながら全員に静かに語りかける。
「……私から一つ提案させてください。受け入れるかどうかは皆さんの判断にお任せします。ただし、このことは他言無用でお願いします」
「何よ、社長。急にかしこまっちゃって」
オオイダが寿司をほおばりながらオイゲンに怪訝な顔を向けた。かなり行儀が悪い。
「オオイダ、社長のおごりとはいえ行儀悪いよ」
「そういうカネサキだって、自分のお皿に取りたい放題じゃないの!」
カネサキとオオイダがじゃれ合っているところをまあまあとオイゲンが二人を分ける。
食べ方そのものはカネサキの方が上品に見えるが、オイゲンからすればどっちもどっちだ。それを咎める気も彼にはないのだが。
「タカミ君、行き先をジンに変えるというのはどうかな?
インデストは遠いし危険が伴うけど、ジンは近いし危険も大きくない」
オイゲンの言葉に彼を除く全員が怪訝な表情を見せた。インデストとジンは距離も方向も異なるし、モリタとコナカ以外のメンバーはつい先ほどまでジンに滞在していたのだ。
インデストはともかくジンはわざわざ宣言するほどの行き先ではない。
「何でジンなんだよ? ウォーリー・トワがいるのはインデストじゃないか」
ロビーの顔には馬鹿な提案をしないでくれ、という色がありありと見てとれる。
オイゲンはロビーの顔を見て手を振りながら声のトーンを落として話を続ける。
「……ジンはOP社のコントロールが及びませんし、『タブーなきエンジニア集団』の幹部も滞在しています。ミヤハラという男がいるから、彼を頼ってみたらどうですか? 僕の友人だから、名前を出せば何か手を打ってくれるでしょう」
オイゲンの話に皆が静まり返った。
少しの沈黙の後、ロビーが最初に口を開いた。
「……『タブーなきエンジニア集団』に走れ、ってことか……社長さんはどうするんだ?」
ロビーがいつにない真剣な顔をしている。
「僕や他の従業員にも立場があるので、協力はできません……
ただ、止めることもしません。心苦しいですが、今後クルス君に協力したい人は会社に辞表を出していただきたいと思います。ここにいる五人とクルス君が候補だと思うので、今日集まっていただいたのですが……」
オイゲンは社長としても人間としても失格だな、と思った。
特に従業員をだしにしたあたりは、社長として責任放棄の誹りを受けてしかるべきものであろう。自分の立場を引き合いに出すあたりは、自分の人としての欠陥だと思わざるを得ない。
しかし、非難の声をあげた者はいなかった。
「……それで、行くの?」
カネサキが唐突にロビーに尋ねた。
皆の視線がロビーの方に集まった。
両者とも都合はつくとのことであったので、オイゲンの指示でポータル・シティ東駅で待ち合わせることとなった。
オイゲン、ロビー、カネサキ、オオイダの四人はジンの駅へと向かった。
「社長さん、全員集めてどうするんだ……?」
駅への移動の途中、ロビーが訝し気にオイゲンに尋ねた。
「あ……後で話すよ。行き先は隣のポータル東駅だ」
ジン駅で四人は列車に乗り、隣のポータル・シティ東駅で下車した。そこでコナカとモリタを待つ。
三〇分ほどして駅の改札前で四人はコナカ、モリタと合流した。
そして、オイゲンの案内で小さな寿司屋に到着した。
一階はカウンター席が六つあるだけだ。
「社長、六人だったな? 上に用意してあるから」
オイゲンの顔なじみの店らしく、入るやいなや上の階の個室へと案内された。
「社長さんともなると、ランチでもいいもの食べているのね……
今度からお昼は社長に同行しようかしら」
上の階へと向かう途中、オオイダがそうつぶやくとオイゲンとロビーが苦笑した。
ロビーは一時期、毎日のようにオイゲンと一緒に昼食に行っていたから、普段のオイゲンの昼食がECN社の普通の社員と大差ないことを知っているのだ。
個室にあるテーブルの上には大きな寿司桶が置かれていた。
オオイダなどは今にも手を伸ばしたいといった様子でうずうずしている。
実際にオオイダがそろりそろりを手を伸ばすふりをすると、カネサキがぺしゃりとその手を叩いた。
「何よ、フリだけじゃない!」
オオイダが不満そうな顔を見せた。
「あのね……」
カネサキがジト目でオオイダを睨んだ。
「さて、ここに集まってもらった理由ですが、今後のことで皆さんにお話ししたいことがあります……」
皆が座ったのを確認してからオイゲンがいつにない真剣な顔で全員に語りかけた。
ごくり、と唾を飲む音も聞こえる。
「あ、そこまで緊張しなくてもいいです。せっかくお寿司があるのだから、つまみながらで……」
オイゲンとコナカを除く全員の手がさっと寿司桶に伸びた。
オイゲンとコナカは出遅れた格好である。
「それで……話って何よ、社長」
カネサキが自分の皿に一通りの寿司を持ってきてから、オイゲンの方を向いた。
自分の好きなネタは他人には渡さない、という意思が見て取れるな、とロビーは思った。
「……タカミ君、インデストへ行くつもりなのかな?」
オイゲンが朴訥とした話しぶりで問いかけた。
ロビーは力強くうなずく。当然だと言わんばかりだ。
するとオイゲンは両手を広げながら全員に静かに語りかける。
「……私から一つ提案させてください。受け入れるかどうかは皆さんの判断にお任せします。ただし、このことは他言無用でお願いします」
「何よ、社長。急にかしこまっちゃって」
オオイダが寿司をほおばりながらオイゲンに怪訝な顔を向けた。かなり行儀が悪い。
「オオイダ、社長のおごりとはいえ行儀悪いよ」
「そういうカネサキだって、自分のお皿に取りたい放題じゃないの!」
カネサキとオオイダがじゃれ合っているところをまあまあとオイゲンが二人を分ける。
食べ方そのものはカネサキの方が上品に見えるが、オイゲンからすればどっちもどっちだ。それを咎める気も彼にはないのだが。
「タカミ君、行き先をジンに変えるというのはどうかな?
インデストは遠いし危険が伴うけど、ジンは近いし危険も大きくない」
オイゲンの言葉に彼を除く全員が怪訝な表情を見せた。インデストとジンは距離も方向も異なるし、モリタとコナカ以外のメンバーはつい先ほどまでジンに滞在していたのだ。
インデストはともかくジンはわざわざ宣言するほどの行き先ではない。
「何でジンなんだよ? ウォーリー・トワがいるのはインデストじゃないか」
ロビーの顔には馬鹿な提案をしないでくれ、という色がありありと見てとれる。
オイゲンはロビーの顔を見て手を振りながら声のトーンを落として話を続ける。
「……ジンはOP社のコントロールが及びませんし、『タブーなきエンジニア集団』の幹部も滞在しています。ミヤハラという男がいるから、彼を頼ってみたらどうですか? 僕の友人だから、名前を出せば何か手を打ってくれるでしょう」
オイゲンの話に皆が静まり返った。
少しの沈黙の後、ロビーが最初に口を開いた。
「……『タブーなきエンジニア集団』に走れ、ってことか……社長さんはどうするんだ?」
ロビーがいつにない真剣な顔をしている。
「僕や他の従業員にも立場があるので、協力はできません……
ただ、止めることもしません。心苦しいですが、今後クルス君に協力したい人は会社に辞表を出していただきたいと思います。ここにいる五人とクルス君が候補だと思うので、今日集まっていただいたのですが……」
オイゲンは社長としても人間としても失格だな、と思った。
特に従業員をだしにしたあたりは、社長として責任放棄の誹りを受けてしかるべきものであろう。自分の立場を引き合いに出すあたりは、自分の人としての欠陥だと思わざるを得ない。
しかし、非難の声をあげた者はいなかった。
「……それで、行くの?」
カネサキが唐突にロビーに尋ねた。
皆の視線がロビーの方に集まった。
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