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第七章
289:妥協点
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「……情報ならあります」
ヤマガタの依頼にユニヴァースは最低限未満の答えを返した。
情報は持っているが、それを提供するかどうかはこちらが決めることだ。そうと言わんばかりにユニヴァースの双眸がヤマガタを見据えている。
ヤマガタは判断するための情報が足らないのだろうと判断し、状況を説明する。
「……ご存知だと思いますが弊社では先日、フジミ・タウンの賊を処断しました。ですが、『フジミの大虐殺』については、まだ完全な情報を得られていないのです」
ユニヴァースの目が一瞬光ったようにヤマガタには感じられた。「完全な情報を得られていない」という部分を聞き逃さなかったのだ。そして、ユニヴァースがヤマガタを詰問する。
「正確な情報なしに処断したというのですか?」
「あ、いえ……」
ユニヴァースの指摘にヤマガタが口ごもる。図星だからだ。
ヤマガタ自身、ハドリの武断的なやり方には必ずしも賛同できていない。
ただ、ハドリの方法より確実に優れた方法も持ち合わせていなかった。
OP社治安改革部隊が攻撃した相手が「フジミの大虐殺」で無抵抗の住民を殺害した者たちであるという決定的な証拠をOP社は未だ得ていない。
だが、証拠はなくとも彼らが犯人であるのはほぼ確実であり、ヤマガタもそれを疑ってはいなかった。否定する材料が皆無だったからだ。
だから、ハドリに従うしかなかった。たとえ、反対意見を述べてもそれを受け入れるハドリではないとヤマガタには思えるのだが。
「正確な情報が無いことを知っていたのなら、何を根拠に処断されたのですか?」
ユニヴァースが質問を繰り返した。ユニヴァースは自覚していないかもしれないが、彼の態度は確実にヤマガタを追い詰めている。
「……インデストと本社を結ぶ弊社の輸送チームが彼らに襲撃されています。そして、襲撃者はフジミ・タウンの者であることが明らかになっています。この証拠は弊社で保有しています」
「それと『フジミの大虐殺』との関係は?」
ユニヴァースが的確にヤマガタを追い込んでいく。
ユニヴァースの質問はヤマガタにとって答えにくいのだ。そもそも自分が信じもしていないことを雄弁に語れるような人物ではない。嘘がつけないのだ。
「……正直な話、真相は社長の心ひとつです。ただ、私もフジミ・タウンの賊は処断する必要があると常々考えていました。一三年前の悲劇は繰り返すべきではないのです」
ヤマガタは逃げた。質問には答えず、OP社の立場を強調した。
ヤマガタの好む方法ではないが、理屈で戦ってもユニヴァースには勝てそうもない。
「要するに会社の無知がフジミ・タウンの者を処断したということですね? OP社の過失、ということになります」
ユニヴァースの指摘はストレートすぎる、とヤマガタは思う。
確かに言っていることは誤っていないのだが、もう少し言いようがあるようにも思われる。しかし、そう考えるのも自分の側に過失があるからだ、ともヤマガタは思う。
「過失ですが、一三年前の犯人を処断したことは間違っていません。犯罪者を処断する権限をもち、それに伴う義務を負っている以上、弊社がそれをやらなければならないのです」
「それでも過失は過失です」
ユニヴァースとヤマガタとの間に重苦しい空気が流れる。
エアコンの暖かい風がヤマガタの汗で濡れたシャツにまとわりつく。
しばし無言の時が流れた後、ヤマガタが口を開いた。
「弊社としても、まだ処断が終わっていない者を正しく処断するためにも一つでも多くの情報が欲しいのです。あなたの情報を必要としています。残念ながら、私の知る限りこうした事実について、島内にあなた以上の知識を持つ人物が思いつきません」
「……いいでしょう。『フジミの大虐殺』に関する情報を提供しましょう。判断は、そちらでやってください」
ついにユニヴァースが折れた。
ユニヴァースはヤマガタに記録チップを持ってこさせると、自らの情報端末を用いて「フジミの大虐殺」に関する情報をコピーした。
ユニヴァースが折れたのは、これ以上ヤマガタの頼みを断れば次に出てくるのはハドリであろうという読みがあったからである。
「フジミの大虐殺」の犯人と思われる者達を正確な情報なしで処断したことについて、ヤマガタはOP社の過失と認めた。
これは彼に認められた最大限の譲歩だと思われる。これ以上の譲歩の権限をヤマガタは持たされていないはずだ。ならば次に交渉の場に登場するのはハドリである可能性が高い。
ハドリが出てくれば、ユニヴァースの持っているすべてを強引に根こそぎ持っていくであろう。こちらが相手にしなくても、無理矢理相手にされるに違いない。
それに研究生活を邪魔されるのは煩わしい。だから、先に折れておいたのだ。
データのコピーなど大した手間ではないのだから。
情報が登録された記録チップを受け取ると、ヤマガタはユニヴァースに少し言い難そうに切り出してきた。
「弊社の社長からの話なのですが……
情報担当の幹部として弊社に勤めてみるつもりはありませんか?」
「宮仕えをするつもりはありません」
ユニヴァースの答えは簡潔だった。
ヤマガタの依頼にユニヴァースは最低限未満の答えを返した。
情報は持っているが、それを提供するかどうかはこちらが決めることだ。そうと言わんばかりにユニヴァースの双眸がヤマガタを見据えている。
ヤマガタは判断するための情報が足らないのだろうと判断し、状況を説明する。
「……ご存知だと思いますが弊社では先日、フジミ・タウンの賊を処断しました。ですが、『フジミの大虐殺』については、まだ完全な情報を得られていないのです」
ユニヴァースの目が一瞬光ったようにヤマガタには感じられた。「完全な情報を得られていない」という部分を聞き逃さなかったのだ。そして、ユニヴァースがヤマガタを詰問する。
「正確な情報なしに処断したというのですか?」
「あ、いえ……」
ユニヴァースの指摘にヤマガタが口ごもる。図星だからだ。
ヤマガタ自身、ハドリの武断的なやり方には必ずしも賛同できていない。
ただ、ハドリの方法より確実に優れた方法も持ち合わせていなかった。
OP社治安改革部隊が攻撃した相手が「フジミの大虐殺」で無抵抗の住民を殺害した者たちであるという決定的な証拠をOP社は未だ得ていない。
だが、証拠はなくとも彼らが犯人であるのはほぼ確実であり、ヤマガタもそれを疑ってはいなかった。否定する材料が皆無だったからだ。
だから、ハドリに従うしかなかった。たとえ、反対意見を述べてもそれを受け入れるハドリではないとヤマガタには思えるのだが。
「正確な情報が無いことを知っていたのなら、何を根拠に処断されたのですか?」
ユニヴァースが質問を繰り返した。ユニヴァースは自覚していないかもしれないが、彼の態度は確実にヤマガタを追い詰めている。
「……インデストと本社を結ぶ弊社の輸送チームが彼らに襲撃されています。そして、襲撃者はフジミ・タウンの者であることが明らかになっています。この証拠は弊社で保有しています」
「それと『フジミの大虐殺』との関係は?」
ユニヴァースが的確にヤマガタを追い込んでいく。
ユニヴァースの質問はヤマガタにとって答えにくいのだ。そもそも自分が信じもしていないことを雄弁に語れるような人物ではない。嘘がつけないのだ。
「……正直な話、真相は社長の心ひとつです。ただ、私もフジミ・タウンの賊は処断する必要があると常々考えていました。一三年前の悲劇は繰り返すべきではないのです」
ヤマガタは逃げた。質問には答えず、OP社の立場を強調した。
ヤマガタの好む方法ではないが、理屈で戦ってもユニヴァースには勝てそうもない。
「要するに会社の無知がフジミ・タウンの者を処断したということですね? OP社の過失、ということになります」
ユニヴァースの指摘はストレートすぎる、とヤマガタは思う。
確かに言っていることは誤っていないのだが、もう少し言いようがあるようにも思われる。しかし、そう考えるのも自分の側に過失があるからだ、ともヤマガタは思う。
「過失ですが、一三年前の犯人を処断したことは間違っていません。犯罪者を処断する権限をもち、それに伴う義務を負っている以上、弊社がそれをやらなければならないのです」
「それでも過失は過失です」
ユニヴァースとヤマガタとの間に重苦しい空気が流れる。
エアコンの暖かい風がヤマガタの汗で濡れたシャツにまとわりつく。
しばし無言の時が流れた後、ヤマガタが口を開いた。
「弊社としても、まだ処断が終わっていない者を正しく処断するためにも一つでも多くの情報が欲しいのです。あなたの情報を必要としています。残念ながら、私の知る限りこうした事実について、島内にあなた以上の知識を持つ人物が思いつきません」
「……いいでしょう。『フジミの大虐殺』に関する情報を提供しましょう。判断は、そちらでやってください」
ついにユニヴァースが折れた。
ユニヴァースはヤマガタに記録チップを持ってこさせると、自らの情報端末を用いて「フジミの大虐殺」に関する情報をコピーした。
ユニヴァースが折れたのは、これ以上ヤマガタの頼みを断れば次に出てくるのはハドリであろうという読みがあったからである。
「フジミの大虐殺」の犯人と思われる者達を正確な情報なしで処断したことについて、ヤマガタはOP社の過失と認めた。
これは彼に認められた最大限の譲歩だと思われる。これ以上の譲歩の権限をヤマガタは持たされていないはずだ。ならば次に交渉の場に登場するのはハドリである可能性が高い。
ハドリが出てくれば、ユニヴァースの持っているすべてを強引に根こそぎ持っていくであろう。こちらが相手にしなくても、無理矢理相手にされるに違いない。
それに研究生活を邪魔されるのは煩わしい。だから、先に折れておいたのだ。
データのコピーなど大した手間ではないのだから。
情報が登録された記録チップを受け取ると、ヤマガタはユニヴァースに少し言い難そうに切り出してきた。
「弊社の社長からの話なのですが……
情報担当の幹部として弊社に勤めてみるつもりはありませんか?」
「宮仕えをするつもりはありません」
ユニヴァースの答えは簡潔だった。
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