最後の君へ

海花

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直斗が家のドアを開けるといつもの様なムッとした空気ではなく、涼しい風が直斗の髪を揺らした。
奥から電気の明かりも廊下に漏れている。

───母さん……?

リビングのドアを開けると

「おかえりー」

ソファーから康平が顔を覗かせた。

「……康平かよ……来てたの?」

直斗は荷物を床に置くとキッチンへ行って冷蔵庫からお茶を取り出した。

「来てたの?……じゃねぇわ。今日遊び行くって言ってただろーが」

「…………そうだっけ…?」

お茶を入れたコップを持ちながら足で康平を蹴り、自分の場所を作ると直斗もソファーへ座った。

「ふざけんなよ……。どうせ女のとこでも行ってたんだろ…」

康平が直斗の格好を見て呆れたように背もたれにへ寄りかかる。

「よく中に入れたじゃん」

「ミアちゃんがまだいたから入れてくれた」

「あっそ……」

『ミアちゃん』とは直斗の母のことだ。

「今からどっか行こうぜ」

康平の誘いに

「えー…パス。明日早いから」

スマホを取り出しいじりながら素っ気なく答えた。
あの子猫を洗っただけで相当疲れたのに、紡木とのキスで精神的にも持ってかれている………。

「なんだよそれ……。お前…自分はやってきたからって……」

康平が不貞腐れ、睨みつけた。

「やってねーわ」

「じゃあなんでそんな格好なんだよ?」

「……猫、洗ったから」

「…なんだそれ……」

康平が意味が解らないと言いたげに肩を竦めた。
直斗のスマホにはさっき交換したばかりの紡木の名前が表示されている。

──『紡木  零』

帰り際明日の連絡が取れるようにと、お互い登録した。

──レイって名前なんだ……。

「お前さぁ……」

直斗が思い出したように口を開いた。

「男とキスしたことある?」

「はあ!?ある訳ねえじゃん!」

「じゃあ、したいと思ったことは?」

「キモっ!ねえよ!」

「……だよな………」

康平が怪しげに直斗に視線を向け

「……お前…『そっち』まで手ぇ出したの?」

「アホか。ちげぇわ」

そう答えながら紡木とのキスが気持ち悪かったとも、嫌だったとも思えなくて少し困惑していた。

「マジで遊び行かないつもりかよ?」

康平が面白く無さそうに直斗を睨みつける。

「行かねえよ」

「つまんなっ!ならせめて飲もうぜ……」

康平がため息をつきながら立ち上がり冷蔵庫へ向かう。

「前に買ったやつ…残ってただろ?」

「飲んじゃった」

直斗が悪びれもせず告げると

「……お前……最悪だな……」

再び康平がキッチンから睨みつけた。

「ミアの酒がその辺にあるだろ?」

直斗も立ち上がりキッチンへ向かい、シンクの下からミアのワインを取り出した。

「前客から貰ったまんま飲んでないから飲んじゃえよ」

「……ワインかよ……」

「無いよかマシだろ」

直斗は来たついでにつまみになりそうな物を探しだした。

「……康平、飯食ったの?」

「食ってる訳ねぇだろ。ずっとお前待ってたんだから」

直斗は冷蔵庫をあさり、適当に腹に溜まりそうな物を取り出すと

──そう言えば…飯残ってたな……

「チャーハン食べる?」

康平に声をかけた。

「あ、食べたい」



しばらくすると、机にチーズにウィンナーにチャーハンと、お菓子……
そこそこ腹に溜まりそうな物が並び、早速康平が手を伸ばし始める。
直斗はワインを開け色気も何も無いコップに並々と酌み飲み始めた。

「明日早いって…どっか行くの?」

「……猫拾ってさ…明日病院連れてく」

お互いスマホをいじりながら会話していたが不思議そうに康平が顔を上げた。

「……猫なんて何処にいるんだよ?」

「……人んち」

「人んちって…誰んちだよ……」

「………別にいいじゃん。誰んちでも……」

「…………良いけどさ…」

康平は肩をすくめるとスマホへ視線を戻した。

ワインが終わる頃には直斗は酔いも回り週末の疲れもあって眠気がさし始めた。
ずっと黙ってスマホをいじっていた康平に目をやるとすっかり眠っている。
カーテンの隙間から陽の光が射し込んでいて、時計を見ると5時過ぎている。

───少し寝れるな……

どうせ眠りが深い方じゃない。普段も眠っても5時間程度だ。
念の為に9時にアラームをセットしスマホを置くとリビングで目を瞑った。
母はどうせ帰って来ない。
本人は言わないが、また男ができたらしい。
子供の頃みたいに家から出されないから関係ないけど……。
そんな事を考えていると、酒の力も手伝って直斗は眠りについた。


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