最後の君へ

海花

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……

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直斗は家の鍵を開けようとして始めて鍵が開いていた事に気付いた。
ドアを開けると涼しい空気が直斗を迎える。

「おかえり」

母の美愛がリビングのソファーでゲームをしながら直斗に声だけ掛けた。

「帰ってたんだ…。……お前……3DSなんていつ買ったの?」

「お前って言うな」

美愛はゲームを続けながら

「お客から貰った。直斗もやる?結構楽しいよ」

そう言ってやっと直斗の顔を見上げた。

「何!?———お前…その顔……またケンカしたの?」

そう言いながら呆れたようにゲームをソファーに置いた。

「してねぇよ」

面白くなさそうに答える直斗の側まで来ると腫れた左の頬を指でつつく。

「痛てぇなぁ……。触んなよ」

直斗がその手を払うと美愛はケラケラと笑いだした。

「女でしょ!?いよいよ直斗くんも女の怖さを知ったか?」

「うるせぇ」

不貞腐れて自分の部屋へ向かう直斗を美愛はまだ笑っている。

───クソばばぁ……

直斗は心の中で毒づくと、部屋でリュックに荷物を詰め出した。

「……家出でもするつもり?」

いつの間に来ていたのか、美愛が部屋の入り口から声を掛けた。

「ちげぇわ」

「じゃぁ、その荷物なんなの?」

「…………いいじゃん……。別に……」

「良いわけないだろ」

そう言って背中を向けたままの直斗を足で軽く蹴る。

「……蹴んなよ」

「じゃあ、ちゃんと話しなよ」

直斗は手を止めて背中で母の様子を窺いながら、なんと答えるのが正解か考えた。
どうせ揶揄われるのは目に見えている。

「……女のとこにでも置いとくつもり?」

───バレてる……。女じゃないけど……

「莉央ちゃんじゃないでしょ?あの子実家だもんね」

「………………」

「あんたさぁ……いい加減にしとかないと莉央ちゃんに捨てられるよ?あんな良い子、なかなかいないからね!?あんたみたいな……」

「……莉央とは別れた」

直斗が美愛の言葉を遮ると

「はぁ!?マジで言ってんの!?」

真底驚いた様な声を上げた。

「ふぅん…………で、違う女の所に転がり込むわけね……。その子が原因で別れたの?」

「………別にいいじゃん…。どうでも……」

その言葉が言い終わらない内に美愛が

「次その言葉言ったら殺すよ?」

直斗の耳を力任せに引っ張った。

「──痛えって!」

───何で俺の周りって暴力振るう女ばっかなんだよ……

直斗は軽く美愛を睨みつけながらまだ痛みの残る耳を摩っている。

「まさか……私の同業者じゃないでしょうね!?」

「んなわけあるか!」

「でも一人暮らしの子なんでしょ?」

「……まあね……」

「好きなんだ?」

「……………好きじゃなきゃ…着替えまで持ってかねぇよ」

直斗の様子に美愛が再び目を丸くする。背中から見ていても照れているのが分かる。
美愛ですらこんな直斗を初めて見た。

「ちゃんと私にも紹介してよね」

美愛が直斗の横にしゃがみこんで顔を覗き込むと

「……分かってるよ…」

直斗が顔を赤くしているのを見てまた笑った。

「そうか、そうか……」

美亜が直斗の頭を撫でながら『うん、うん』と頷く。

「………なんだよ……?気持ち悪ぃな……」

直斗は顔を赤くしたままその手を払った。

「いくつの子なの?」

「───え……?」

「年上?」

「……それは……そう……」

────あれ?……零って……いくつだ?今教育実習してるってことは……大学4年?……てことは……

「あんた……相手の歳も知らないの?」

本気で考え込む直斗を前に美亜が呆れ返っている。

「……多分……22かな……」

「多分て…………」

美愛が呆れ顔で笑った。

「まあ……直斗らしいっちゃぁ直斗らしいけど……」

美愛が再び直斗の頭を撫でると

「子供だけは出来ないようにしなよね。後、たまにはちゃんと帰って来ること!」

立ち上がり部屋を出ていこうとして

「それから!学校はちゃんと行けよ!?」

そう言ってリビングへ戻って行った。

──子供は……出来ねぇよ……。そっか……何となく……年下な感じしてるけど……あいつ年上だった……。

しばらく考え込んで

──ま……いっか……。関係ねぇな……。

再び荷物を詰め始める。

───あ…………そうだ…………

直斗は思いついた様にふと顔を上げた。



直斗は久しぶりにアパートの駐輪場に来ていた。
隅においやられたクロスバイクの埃を払う。高校入学の時に通学様にと買ってもらって1年程使っただろうか……。

「汚ね……」

一年以上放置されていて埃だらけだが、タイヤを見ると多少空気が抜けているものの充分使えうだ。

「よし……」

直斗は腕まくりをすると、持ってきた雑巾で綺麗に拭き始めた。
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