最後の君へ

海花

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結局二人は茶碗と汁椀、それに幾つかの皿と零が見つけた猫のマグカップを二つづつ買った。
今度ばかりは直斗が譲らず会計を済ますとトイレに行きたいから……と零を先に車に戻した。

「悪い悪い」

直斗が車に戻ると

「もう帰っていい?」

零が車を発進させた。

「今日の晩飯何食いたい?」

直斗が当然のように聞く。

───やっぱり……今日も泊まる気だ……。

「……今日は帰らなきゃダメだよ。明日学校でしょ?」

「零んとこから行くから平気。その為に家からチャリ乗ってきたから」

直斗がニッと笑った。

「そうなの!?」

零が驚いて一瞬直斗へ向いた。

「そうなの!零の家からだと電車とバス使わなきゃいけなくなるだろ?時間も金も勿体ないからチャリで行こうと思ってさ」

───考えて無いようで考えてる……。

「うちから学校まで……結構あるよ?」

「それも調べた。8キロ無かったし行ける行ける」

───用意周到すぎるでしょ……。

零は苦笑いしながらスーパーへと向かった。



スーパーで数日分の買い物をし、家に帰る。

───これは……もはや同棲する気なのでは……。

一緒にいたくない訳ではないが、やはり大人として頭を悩ませる……。

───直斗くん……俺が教師の卵だって覚えてるかな……。

どちらかと言えばこういう行為を窘める立場だ。
駐車場に車を停めると二人で荷物を取り出す。色々買ってきたから相当な荷物の量だ。

──冷蔵庫……入り切るかな……。

零が考えていると横から直斗が荷物を取り上げる。

「零は先行ってドア開けて」

「え!?……あ…分かった」

零が急いで階段を上がり鍵を開ける。
ちょうどそこに直斗が上がってきた。

「サンキュ」

───こういうところ……慣れてる……。きっと……たくさんの子と付き合ってきたんだろうな……。

零は胸がざわつくのが分かったが飲み込んだ。

───嫉妬出来るような立場じゃない。

自分は男で年上で……。
普通に女の子と付き合ってきた直斗の人生を狂わそうとしているのかもしれない。既に莉央との間を壊している……。

「冷蔵庫……入り切るかな?」

直斗が立って見ていた零に話しかける。

「──あ……どうかな……」

零が我に返り小さな冷蔵庫へ視線を移した。
今まで一人暮らしで料理なんてほとんどしなかったから、冷蔵庫なんて大して必要だとも思わなかった。
二人で買ってきた食材を何とかしまい、今度は食器をひとつづつ取り出す。

「───これ……」

包んであった新聞紙を外すと、零が最初に見ていたグラスがふたつ姿を現した。

「…零……気に入ってたみたいだったから……」

直斗が照れて笑っている。

──トイレ行くって言った時だ……。

「……ありがとう」

零が戸惑う様に言ったが

「青が好きなの?」
他の食器の裏のシールを剥がすのに必死で直斗は気付いていない。

「そうだね……。青は好き…」

零がずっとグラスを見つめている。

「……………いらなかった?」

零を目の端で捉えていた直斗がふと顔を向ける。

「え?…そんなことない……。凄く嬉しいよ」

零が微笑んだ。

「これ……最初に見た時『直斗くんみたいだな』って思ったの」

背が高くて真っ直ぐな青色のグラス……。

───だから、買わなかった。直斗くんがいなくなった時……見る度に思い出すから……。

「俺!?」

「そう」

直斗が首を傾げて零の手の中にあるグラスを見つめる。

「……全然解んね……」

眉を顰める直斗に

「本当?……すごく…直斗くんぽいじゃん」

零が笑った。

「……ふーん……」

直斗はやっぱり解らない……とでも言いたげに肩を竦めている。

「俺はこっちのがお前っぽいと思うけどな」

そう言いながら『猫のカップ』を差し出す。

「俺っぽい?」

「いかにも選びそう」

直斗がニッと笑う。

「……そんな事ないよ…。俺も一応男だからね……?」

零が面白くなさそうに言うと

「現に選んでんじゃん」

直斗は再びシールを剥ぐ作業に戻る。

「これは……あの子に似てたからで……」

零が微かに顔を赤くしながらソファーで眠る子猫に目をやる。

「へぇー」

直斗が笑った。

「…………俺の事……バカにしてるでしょ?」

零が頬を赤くしたまま睨みつける。

「してねぇよ」

直斗は相変わらず笑っている。

「してるね、笑ってるし……」

直斗が片手で不貞腐れている零を抱き寄せた。

「してないって。可愛いと思っただけ…」

キスしようとすると零が顔を横に向け拒む。

「…………」

「すぐキスしようとする……」

「いいじゃん」

「良くない」

「なんで?」

「なんでも……」

直斗はしばらく零を見つめてから耳にキスをして柔らかい耳たぶに舌を絡ませた。

「───あ……っ……ん……やめてって……」

零が直斗へ向くとすかさずキスをして

「怒るなよ」

顔を赤くして不貞腐れている零の顔を覗き込んだ。

「だって………」

「零をバカにもしてないし、男だってのもちゃんと解ってる。それでも好きだから可愛いって思っちゃうのは許してよ」

直斗が機嫌を取るように微笑む。

零は余計顔を赤くして軽く睨みつけると、黙ったまま直斗の首に腕を回して抱き締めた。



夕食は和食を作った。
フライパンで鮭を焼き、じゃが芋の煮物を作ると零が本当に驚いたように

「和食も作れるの⁉︎」

そう声を上げた。

「やっぱりな……。俺が料理するの好きって言ったの信じて無いと思った……」

直斗は肩を竦めた。

「信じて無かった訳じゃないけど……」

まさか煮物まで作るとは思ってなかった。

「俺、小さい頃ばあちゃんによく預けられたから煮物とか好きなんだよね」

そう言いながら味噌汁を汁椀に少し注ぐと差し出した。

首を傾げる零に

「味見」

直斗が笑う。

「———………美味しい……」

「良かった…。久々に作ったから」

直斗は照れているのか頭をポリポリと掻いた。

一緒に夕食を食べ、もちろん別々にシャワーを浴びる。

———本当にまた泊まってくんだ……。

子猫と遊ぶ直斗を見つめる。

「……何?零も構ってほしいの?」

零が自分のことを見つめているのが分かり直斗がニッと笑った。

「———なっ⁉︎違うよ!そう言う訳じゃ……」

顔を赤くする零を横目で見ながら

「違うんだって………構ってほしくないってさ………可愛くないなぁ……?」

子猫に話しかける。

「………別に……構ってほしくない訳じゃ………」

零が小声でそう言うと俯いた。

直斗はクスッと笑うと

「零は素直じゃないな」

腕を引寄せ抱きしめた。

洗面台には歯ブラシがふたつ並び、ベットも少し狭く感じて……。
一人では無くなったことを感じさせる。
色々あって疲れたせいか、何度かキスを重ねると直斗はすんなり眠りに落ちた。
ほんの数日で零の生活が一変した。少なくとも今は直斗が自分を好きでいてくれていると思える。
生まれて初めて他人から『愛されている』と感じられた。
けれどその分また一人に戻る時の辛さがどれ程のものなのか簡単に想像がついて不安になった。
自分を胸に抱き寝息を立てる直斗を見つめそっと抱きしめる。

「……愛してる……」

直斗の胸の中で届かない言葉をポツリと呟いた。






 






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