最後の君へ

海花

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幸せな時間

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「お前ら……喧嘩でもしたの?」

康平が昼休みになるなり直斗の席の前の椅子に座り声を掛けた。
今日莉央が一度も顔を出さないどころか廊下ですれ違った時もお互い見ないフリをしていたからだ。
直斗は机に伏せたままダルそうに目を開け

「別れた」

「え!?マジで!?」

面倒臭さそうに顔を上げた。

「そんな冗談言わねぇだろ」

「なに!?いよいよ捨てられた!?」

「………………」

「なわけねぇか……。なに?猫の女?」

「……何が………」

「別れた原因」

頬杖をつきニヤついている康平にチラッと視線だけを向けると無言で返事を返した。

「へぇー……。お前が本気になる女ね……」

康平がニヤついたまま

「今度会わせろよ。莉央よりいい女?」

直斗の顔を覗き込む。

「うるせぇな……。お前……購買行くんじゃねぇの?」

興味津々といった康平に、直斗が面倒臭そうに話の矛先を変えた。

「お前行かないの?」

「今朝朝飯食ったら胃がおかしいから俺はパス」

「えー!何だよ付き合えよー!」

直斗はしばらく一緒に行こうと騒ぐ康平を見つめていたが、約束を忘れたりノブの店に置き去りにした事を思い出し、ため息をつきながら立ち上がった。



昼休みが始まり多少の時間が過ぎているせいもあって、混んではいないが、購買の中はまだ多少の生徒が買い物をしている。

「待ってるから行ってこいよ」

直斗が廊下で壁によりかかりポケットからスマホを取り出しすと

「藤井じゃん!」

声を掛けられ顔を上げると真希が飲み物を手に立っている。

「あー……」

返事をする間もなく真希は直斗に抱きつくと

「カラオケ、いつ行くの?」

と甘えた声を出した。

───うざっ……

「また今度ね」

直斗が微笑むと

「今度って…いつ?」

真希が上目遣いで見つめる。どうしたら自分が魅力的に見えるかをちゃんと心得ているのだ。
ふと抱きつく真希の胸が自分の胸の下辺りに当たっていることに気付いた。

──ちょっと……ヤバい……かも……

今までこんな事思ったこともなかった。

──たまってる……。

つい真希の腕を離せずにいると、階段を降りてきた零が突然姿を現した。

「──あっ…………」

思わず声を上げる直斗を零が横目で見て通り過ぎる……。
もちろん抱きつく真希にも一瞥しているのを直斗は見逃さなかった。

「ちょっと……離せって……」

直斗が慌てて真希の腕を振りほどいた時には零の姿は見えなくなっていた。

「最悪だ…………」

そうつぶやくと直斗は座り込み頭を抱えた。



直斗は教室に戻ってから何度目かのため息をついた。まさかあのタイミングで零が現れるとは……。

「……お前…うぜぇよ」

康平がパンをかじりながら鬱陶しそうな視線を向け文句を言った。

「……うるせぇよ……」

そう言ってまたため息をつく……。

───絶対勘違いされた……。

「何いきなりそんな落ち込んでんだよ!?」

購買に行って帰ってくるまで間……康平には特に何も無かったように思える。

───直ぐに離れれば良かった……でも仕方ねえじゃん…………

「……やりたい…………」

直斗がボソッと呟いた。

「は!?」

康平が呆れて

「何言ってんの?お前……猫の女とやりゃいいじゃん」

肩を竦め残り少しのパンを口に放り込む。

「できたらやってるよ……」

───キスだけとか……生殺しだろ……。

「なんで?出来ないの?」

康平がパンを飲み込むと不思議そうに聞いた。

「今は……ダメなんだって……」

「あー……生理か?」

「……生理なんかねぇわ……」

思わず直斗がボソッと呟く。

「──え?」

今までやりたいと思えば困ることも無かった。莉央もいたし、ナンパしてもノブの店で見つけても良かったからだ。

──今そんなことすれば……零に嫌われる……。

直斗はまたため息をつき、さっき通り過ぎて行った零の顔を思い出す。

──怒ってるようには見えなかったけど……いや……目は冷たかった……。

そしてまたため息をつき、零の端正な横顔を思い出す……。

──違う……俺……零としたいんだ。

「……2週間……長ぇなぁ…………」

呟く直斗に

「……お前、言ってる事……全く見えねぇよ……」

康平が眉を顰め呟いた。



予鈴が鳴ってしばらくすると水野と紡木が教室に入って来た。
黒板の前で二人は何やら少し話をしている。おそらくこの後の授業の事だろうと察しがつくが

───おっさん!零に近寄りすぎだろ!

それすら面白くない直斗が心の中で文句を言うと、水野が前回と同じ様に教室の後ろへ向かった。

──全く……油断も隙もねぇな……。

再びチャイムが鳴り授業が始まると零の優しく穏やかな声が耳を心地よくくすぐる。一緒にいる時とはまた違う顔を教室の席から見つめる。

──緊張してんな……

ほんのり頬が赤く染まっているのが分かる。
端が微かに上がり優しく笑っているように見えるその唇につい目がいく……。今朝も何度もキスをした。

「紡木先生って可愛いよね」

直斗の耳にふたつ前の席の女子の声が届いた。

「遊びに誘ったら来てくれるかな……」

隣の女子と話しているらしい……。

──ふざけんな!行く訳ねぇだろ!!

「じゃあ……前回の続きで『今夜何をして過ごすか』の質問に順番に答えていってください」

零が皆に向かって笑顔を向ける。

──あー……俺の笑顔…………

順番に一人づつその質問に答え、それに対してまた零が英語で質問するといった形式で授業が進み始める。

皆、ゲームをするとか勉強をするとか、無難な答えを述べる中、先程零を可愛いと言った女子の番になる。

「What will you be doing tonight?」
(あなたは今晩何をして過ごしますか?)

零が質問すると

「I am writing a letter to my teacher tonight.」
(私は今夜先生に手紙を書きます)

と答えた。

「Lovely. Which teachers do you write to?」
(素敵ですね。どの先生に手紙を書くのですか?)

「I will write a love letter to Mr TUMUGI」
(紡木先生にラブレターを書きます)

そう答えた。

「は!?」

いち早く直斗が反応して、ちゃんと聞いていた数人の女子生徒数人が反応しだす。

「あ…………Thank  you……」

零が顔を真っ赤にしてお礼を言うと、等の本人は隣の女子と「言っちゃった!」「紡木先生顔真っ赤っか!」などと騒ぎ出す。

───あのブス……殺す……

直斗の顔がみるみる不機嫌になる……。
零が視界の隅でそれに気付き、赤い顔のまま直斗にチラッと視線を向けた。

───あ……直斗くん…怒ってる………。

紡木が軽く深呼吸して気を取り直すと、次の生徒へと質問を始めた。
直斗の番になり零が再び深呼吸してから同じ質問を口にした。
ただでさえ先程の質問から顔が熱いのが治まっていないのに、直斗の顔を見るだけで余計顔が熱くなるが分かる。

「I'll spend a lot of time in bed tonight kissing my lover.」
(今夜はベッドで恋人とキスをしてずっと過ごすよ)

直斗が真っ直ぐ零を見つめたまま答えると数人の女子が黄色い声で騒ぎ出す。
零は顔がまた熱さを増すのが分かった。

──何を……聞けば良いか…分からない……

教室が騒々しくなっていき

「藤井!真面目に答えろ」

水野が釘をさし、紡木に続ける様目で合図する。

「えっと……What else would you do?」
(他には何かしますか?)

紡木が真っ赤な顔で続けた。

「…What else shall we do?」
(他に何をしようか?)

「──えっ!?」

「Well...…I want to have sex with REI, but ...」
(うーん……俺は零とセックスがしたいけど……)

「藤井!」

水野が大きな声を上げ教室に再び黄色い声が溢れた。

「ふざけるにも程がある!もう座っていい!」

水野が怒鳴ると直斗は肩を竦めて席に着いた。

───大真面目だっつぅの……。

直斗にすればふざけてもいなければ、嘘も言っていない。しかし零は教卓を見つめたまま動けなくなっていた。

───今……俺の名前……

それから零が立ち直るまで優に三分はかかり、授業が終わってから直斗は水野にこっぴどく怒られた。
そしてその日から「紡木は見た目に依らずピュアで可愛い」と噂されることになる……。


















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