最後の君へ

海花

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「おかえり」

零のアパートの階段で座り込んだ直斗が笑顔で出迎えると

「…………」

零はそれを横目で睨みながら鍵を開けた。

「何怒ってんの?」

「……………………」

「解った!購買の前での事だろ!?……あれはさぁ……」

「それもだけどっ!それじゃない」

言い訳をしようとする直斗の言葉を遮り零が頬を膨らませた。

「あー………………授業のことだ?」

「授業の邪魔するなら……もう泊めないよ!」

直斗が零の肩に腕を置き抱きしめようして零に手を払い除けられた。

──あ……ちょっと本気で怒ってる……。

「別に授業の邪魔しようとした訳じゃないじゃん?俺真面目に答えたよ?」

直斗が何とか機嫌をとろうと、洗面台で手洗いとうがいをする零を後ろから抱きしめた。

「直斗くんも…ちゃんと手洗いとうがいして」

しかしまた直斗の腕を解き軽く睨む零に「はぁーい」と素直に返事をして直斗も手洗いとうがいを済ませた。

「零って几帳面?」

「……そんな事ないけど……。手洗いもうがいも習慣だから……」

零が目をそらす……。

「零?」

直斗がそれでもまた優しく抱きしめ

「本当に邪魔する気はなかったんだ。でも怒ったなら謝るし……もうやらない」

その言葉に今度は零も直斗の腕を解かず背中に腕を回した。

「ごめん……。でもマジで…あれはふざけたつもりは無くて……俺の本音だから……」

零がため息をつくと

「…解ってる……。俺も怒ってごめん……」

直斗の首筋に顔を埋めた。

どちらからともなく唇が重なる。

「………好きだよ…」

直斗が零の耳元で囁く。
零が黙ったまま背中にまわした手に力を込めた。
直斗が再び零に口付ける。
重なる唇から、肌から…直斗の思いが伝わってくる。
全てで零を好きだと告げてくれる。

──好きな人と喧嘩して……仲直りして……キスして……幸せだ……。

零は初めて感じられる幸福感に満たされていた。別にそんなに腹を立てている訳ではなかったのに自分でも驚く程『怒ったふり』をしてしまった。直斗の思いを確認したかったのかもしれない……と自分でも解っている。そして直斗は零の望む通りの好意を注いでくれた。

「零は?……俺のこと好き?」

息がかかる程耳のすぐ近くで聞かれ、くすぐったいのもあってつい笑ってしま
う。

「……好きだよ……」

照れながら返すと直斗が嬉しそうにまたキスをした。



背中から抱きしめる零の髪から甘いシャンプーの香りがする。乾ききっていない髪に顔を埋め、直斗は『くんくん』と匂いを嗅ぎ出した。
ベッドの中でウトウトしかけていた零が

「ちょっと……」

慌てて離れ身体を起こすと

「なんで匂い嗅ぐの!?」

赤い顔で今嗅がれていた所に手を当てる。

「え?……いい匂いだったから……」

直斗が何故そんな事を嫌がるのか分からない…と言いたげに目を丸くしている。悪気は本当に無いらしい…。

「それでも…嗅がないで!」

零が赤い顔のまま抗議する。

「なんで?イイじゃん匂い嗅ぐくらい…」

「やだよ!」

不貞腐れたように口を尖らせる直斗にすぐさま異議を唱える。24年間生きてきて人に匂いを嗅がれるなんて経験そうそう無い。
もしされれば『え?臭いかな……』と大概の人は心配になるだろう。

「イイじゃん…ケチ……」

ボソッと文句を言う直斗の隣に少し距離をおいて横になる。

「…………なんで離れんだよ」

「匂い嗅ぐから」

「もうしないよ」

そう言ってまだ顔を赤くしている零の身体を引き寄せ

「そんなに嫌ならこっち向けばイイじゃん」

零の首に口付ける。

「……そっち向くと直斗くん…すぐキスしようとするでしょ」

背中を向けるのは直斗から身を守る防衛手段だったのに…。

「もうー!零…あれダメこれダメ言い過ぎ」

直斗が嘆くかのように言って強く零を抱きしめた。

「相当我慢してるよ?俺……」

───それは……分かってるけど……。

黙りこくる零の耳元で

「キスか、零の匂い嗅ぐか、どっちか許して」

甘えた声を出した。その声に鼓動が早くなる。

──俺だって……我慢してるし……

今度は、それでも黙り込んでいる零の項の匂いを嗅ぎ出す。

「──!もうっ……」

離れようとした零の腕ごと抱きしめ

「いいの!……俺、零の匂い好きだから……」

逃げられない様にしてピッタリとくっついた。項に直斗の鼻があたってこそばゆく感じ零が思わず「…ん……」と声を立てた。
その声を合図とばかりに直斗が零の項にキスをしてそれが首筋へと移っていく…。

「直斗くん!」

零が慌てて振り返ると

「やっとこっち向いた」

直斗が嬉しそうに笑いかけキスをする。

───結局……どっちもじゃん………

自分の中に侵入してくる熱い舌に感じながら零もそれに応える。キスを重ねる度に自分の身体が反応しやすくなっているのが分かる……。

───直斗くんは……感じてる…かな……

そう思った途端何度か顔中にキスをされ

「これでやめる」

名残惜しそうに直斗がそう言って最後に唇に触れるだけのキスをして零を抱きしめた。
零が驚いた様に直斗を見上げる。この3日間キスする度に「やりたい」とか「しよう」とか…何度言われたか分からない。今朝など押し倒されそうにもなった…。

──そう言えば……学校の後から言われてない……。やっぱり……俺が男だから……?

昼間購買の前で女子生徒に抱きつかれていた直斗が頭に蘇る。
自分でも気付かない内に不安そうな顔をしていたらしく、直斗がそれに気付いた。

「授業中のあんな緊張した零見たら……簡単にヤラせてとか言えないでしょ…」

直斗が苦笑いして不安そうな顔ごと零を抱きしめ

「なに?零ちゃんも俺とヤリたい?」

ふざけた様に言って、キツく零を抱きしめた。

「そんな顔すんなよ……。マジで……我慢出来なくなるから……」

直斗の鼓動が肌を通して伝わる。

───きっと……俺の心臓の音も、直斗くんに届いてる……。

「実習終わったらいっぱい…しような」

直斗はそう囁くと零の額に優しく口付けた。
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