最後の君へ

海花

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その日は昼過ぎから雨が降り出し、直斗は学校からの道のりを雨に打たれながら自転車で帰った。本来ならとっくに夏休みだったが、しばらくの間補修がぎっしり詰まっている。

───くそっ!今日少し買い物して帰りたいのに……。

ここ数日怠さがあり家にある物でどうにか食事を作っていたが、さすがに冷蔵庫も空っぽになっていた。
零も大学の方が忙いらしく帰りも遅くなり、疲れ切っているのが目に見えて分かって直斗はこれ以上負担をかけたく無かった。

───あいつ…細くて体力無いから……飯だけはちゃんと食わせないと……。

雨のせいか怠さが増しているのが分かったが、スーパーに寄って数日分の食料を買ってから帰った。
取り敢えず必要な物を冷蔵庫にしまい、濡れた身体のまま床に寝転がると

「………だりぃぃ……」

思わず口をついて出る。

───少しだけ……休んでからやろ………。

ずぶ濡れの格好のまま、怠さに瞼を閉じると直斗はいつしか眠りに落ちていた。


「ただいまぁ」

零が玄関を開けると鍵は空いているのに電気がついておらず首を傾げながら中に入っていった。
直斗がこの時間留守にした事など無かったからだ。

「直斗………?」

手探りで明かりを点けると床に倒れている直斗が目に入り零は慌てて抱き起こした。
触っただけで身体が異常に熱いのが分かる。

「直斗!」

零が思わず大きな声を出すと、直斗が驚いた様に目を開けた。

「───零⁉︎─ごめん!ちょっと横になるつもりだったんだけど………急いで飯作るわ」

そう言って怠そうに立ち上がったと思ったらフラついている。

「いいから!……服濡れてるじゃない……今着替え持ってくるから待ってて」

直斗をソファーへ座らせると、零は急いで着替えを取りに向かった。
直斗が体調を崩していることに全く気付かなかった。触った感じだけでも相当熱が高いのが分かる。あんなに熱が上がるまで何の症状も無かったとは思えない。
零が着替えを手に戻っても、余程怠いのか直斗は服を脱ぐでもなくソファーに身体を預けている。

「大丈夫?…服脱げる?」

「……大丈夫だから……。そこ置いといて……」

辛そうな声がそう言いながらまた目をつぶる。
零が手伝いどうにか着替えさせたが、思った以上に身体も熱く、苦しげな息遣いになっていく。
どうにかベッドまで連れていき、寝かせ水分を摂らせると

「……お前……飯……」

それでもまだ直斗が起き上がろうとする。

「何言ってるの!俺の事はいいから!ちゃんと寝てなきゃ……」

「……でも……」

「いいから!……直斗は?何か食べられそう?」

零が優しく直斗の髪を撫でると、やっと少し安心したように

「今は……いらない……本当にごめん……」

そう言って漸く目を閉じた。



目を開ける度に水分を摂らせたが熱は下がるどころか高くなっていく。
苦しそうな息遣いの中に酷い咳も混ざり、零は結局朝まで一睡もせず直斗のそばにいた。

───どうしよう……肺炎とかだったら………病院連れて行かなきゃ……。

時計を見るとやっと朝の7時を回ったところだ。

───こんな時間に訪ねたら……迷惑かな……。でも…こんな直斗放っておけない……。

零は直斗の苦しそうな寝顔を見つめ髪を撫でると、何かを決心したように硬く唇を結び立ち上がった。



以前一度送った時の記憶を手繰り、何とか直斗の家に着いた。
二階建ての小綺麗なアパートが何棟か並んでいる。
空いたスペースに車を停め、以前直斗を見送った階段を上がっていく。
直斗はよく『帰っても誰もいない』と言っていたから、来たところで直斗の母親に会えるとも限らない。
二件並んだドアの表札が一件は明らかに違う名前で、何も書いていない方のインターホンを押し、しばらく待った。
しかし何の反応も無い所か、中で人の気配すら感じられない……。

───留守か……寝てるのかな……。

「あんた誰?……うちになんの用?」

突然後ろから声をかけられ、零が慌てて振り向いた。
すると訝しげに自分を見つめる青い瞳と──目が合った。


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