最後の君へ

海花

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「あの……突然すみません……。直斗………くんの事で……」

直斗の母親にしては若すぎる様な気がするが、『うちになんの用?』と言ったところからこの家の住人なのは分かる。
それに以前、直斗は母親がハーフだとも言っていた。

「……直斗……また何かやらかしたの?」

まだ訝しげに見る青い瞳に微かに怯みながらも

「──そうじゃなくて……。直斗くんが……凄い熱を出してて……病院連れて行きたいんです。……だからっ…保険証預からせて頂きたいんです」

零はその青い瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

「直斗が熱?…………とりあえず上がって。まさかそう簡単に『はいどうぞ』って渡せるもんじゃないでしょ?」

直斗の母親と見られる女性が玄関の鍵を開けて『どうぞ』と先に入っていく。
零は一瞬迷ったが

「すみません……。お邪魔します」

と、後に続いた。その女性が言う通り簡単に預かって良い物だとは思わないが、出来るだけ早く直斗の元に戻りたかった。

「───まず………あんたは直斗の何なの?あいつ…女の子の家に転がり込んでるんじゃないの?」

ソファーに座ると零の言っている事が真実なのか……値踏みする様な視線を向ける。

「──それは………直斗くんは今………俺の家にいます」

零は手を固く握りしめた。正直何と言っていいか分からなかった。
自分の口から……どこまで話していいのか………。
本当の事を知ったら……直ぐに連れ帰ると言われるかもしれない……。
それでも、もしそうなったとしても……直斗を放っておく訳にはいかない……。



「いつから?」

「え!?…あ……六月の終わりからです」

美愛が真っ直ぐに見つめる。目の前にいる若い男が嘘を言っている様には見えない。それに直斗が「好きな子が出来た」と家を出た時期とも一致する。

───確かに……『年上』とは言ってたけど……。

「直斗はあんたの家にいるのね?」

「はい……本当に昨日から酷い熱で……」

零が縋るような瞳で見つめると

「じゃぁ、私も行くわ。本当に熱を出してるなら全部あんたにお願いする訳にもいかないし」

そう言って立ち上がると「支度するから待ってて」と奥の部屋に姿を消した。




直斗が目を開けるとカーテン越しに陽の光が微かに差し込み、夜ではないことが分かる。

───零………………。

重い身体を起こすが零の気配が感じられずベッドから出て零を探した。

「……零…………」

声にした途端酷く咳き込み頭痛に襲われた。
しかし零がいない事に不安で仕方がなくなり、怠い身体を引きずる様に狭い家の中を探し回った。
自分の息が異常に熱く、気を抜くと座り込みたい衝動に駆られながら零を探す。
しかし零の姿は何処にも無く、玄関まで来てやっと零の靴が無くなっている事に気付いた。

───学校…………行ったのか…………。

泣き出しそうなのを我慢しながら直斗は玄関でしゃがみ込み顔を腕で覆った。

───仕方ない…………けど…………

試験に向けて頑張っているのを解っている。本当に毎日大変そうで……だから自分が負担になる様なことはしてはいけないと……。

───けど………………

「………零……帰ってきてよ…………」

直斗の泣きそうな掠れた声が狭い玄関に響くのと同時にドアが開き

「直斗!?」

姿を現した零が驚いて大きな声を上げた。

「何やってんの!?寝てなきゃダメでしょ!」

零は慌てた様に、しゃがみ込んだ直斗の身体を抱き起こした。
すると今にも溢れそうなほど涙を溜めた瞳が、今にも泣き出しそうな程揺れている。

「零…………」

直斗が掠れた声で名前を呼びながら熱い身体で抱きついた。

「……ごめんね。……寂しい思いさせたね…」

零が抱きしめながら優しく頭を撫でると直斗は安心したのか零の腕の中で崩れ落ちた。

「───直斗!?」

ついよろけそうになった零を後ろから美愛が支え

「このまま医者行こう」

険しい表情で言った。

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