神殺しの花嫁

海花

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しきたり

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この小さな国には昔から忌わしいしきたりがある。
一年に一度、山神様に若い娘を差し出す。
それは山神の慰みものになり、決して村に戻ることは無い。
その実が、野生の獣に食い殺されただけかもしれないし、森で迷って野垂れ死にしたのかもしれない。
しかし村人は皆、山神を恐れ、このしきたりが終わりを告げることは無かった。
この年の酷い飢饉に見舞われるまでは……。



「幸成。支度は整っているな?」

広い部屋で行灯の薄い灯りが、父と兄、そして幸成の顔を照らしている。

「……はい。全て整っております」

薄暗い灯りのせいか、父の言葉に頷いた幸成の顔が蒼白く見える。

「───ん。では今夜は早く床につけ。決して仕損じることの無いようにな」

「…………はい」


幸成は父の部屋を後にすると、月明かりに照らされた庭へ目を向けた。
生まれた時から育ったこの屋敷も、今夜が最後になる。
子供の頃遊んだ庭が明るい月の光に照らし出され、紅色の彼岸花も葉の上にいる小さな虫すらも幸成の目に映し出す。

───もう……二度と見ることも無いだろう……



今年は春から雨量が際立って少なく、作物の不作が続いた。
それに加え野生の獣に襲われる事例が続き、村の統治者である菊池正成、幸成の父が山神の討伐を決めたのだ。
それは忌まわしきしきたりに終わりを告げる為と、神の上に立とうとする人間の浅ましさだった。



自分の部屋の小さな行灯の灯りが、先程よりまだ幸成の肌を蒼白く浮かび上がらせる。
しかしそれより、部屋の隅に掛けられた白無垢が白くその存在感を示していた。

「──幸成」

部屋の外から兄の声に呼ばれ、顔を上げたのと同時に部屋の襖が開き兄の成一郎が姿を現せた。

「……兄上……」

「それが明日のお前の装束か?」

白無垢に視線を向けた、どこか嫌味のこもった兄の言葉に幸成は黙ったまま俯いた。

幸成は明日、この白無垢を身に纏い山神に“嫁ぐ”ことになっている。

そこで『刺し違えても山神を殺す』こと。
それが幸成に与えられた使命だった。

「なぜ断らなかった?……懐に隠せる様なあんな小さな刀で、本気で化け物を殺れると思うか……?」

冷たく嘲笑う様な言葉に幸成の顔が僅かに歪んだ。

「山神とは名ばかりで、巨大な化け物と聞いている……たとえ……運良く胸を刺せたとして……心の臓に届くか……?」

成一郎が自分を怯えさせに来ているのだと解る。
怯えるのを見て楽しみたいのだ。

「………………寝首を掻くつもりです……」

膝に置いた手を固く握り、震えているのを気付かれないように静かに答えた。
そんなことは言われなくても百も承知だ。
たとえ山神が巨大でなくとも、懐剣だけで仕留められるとは思わない。

「…………寝首を掻くか…………では……山神と床を同じとする……ということか」

完全に幸成を馬鹿にした口調に、思わず顔を上げ兄を睨みつけた。

「そう怒るなよ……」

部屋に来て初めて成一郎は優しい笑顔を見せた。

「着て見せてくれないか?……さぞお前に似合うだろうな……」

「…………汚しでもしたら大事になります」

「羽織るだけで汚れるとは思わないが……?それとも……汚れるようなことがあるのか……?」


子供時分からずっと、全てにおいて兄より劣っていた。
男らしく、逞しい兄に対して幸成は細く肉付きも悪い。
剣の腕でも、成一郎に勝てた試しがない。
そしてそんな自分を父が疎ましく思っているのも知っている。

今回のことも、自分が本当に山神を討てるとは父の正成が思っていないことくらい知っていた。
ただ……幸成が山神に殺され、公に山神討伐を出来るようにしたいだけだと。
そして出来の悪い次男がそのくらいにしか役に立たないと思っていることも……。


「最後にお前の姿を目に焼き付けておきたい。それくらいの願いは……容易いだろう?」

行灯の灯りが幸成の顔を揺らす。
成一郎が昔から自分を馬鹿にしているのを知っている。
そして……最後の最後まで、馬鹿にしたいのだ。

幸成は無言のまま立ち上がると、壁に掛けられている純白の打ち掛けを取り、寝巻きの上から乱暴に羽織って見せた。

「……これで…………気が済んだでしょう」

明日には死ぬ運命だ。
今更馬鹿にされたところで痛くも痒くもない。

「…………やはり……良く似合うな」

幸成の腰に腕を回すと、成一郎は細い身体を引き寄せた。

「───なにをっ……」

「これで紅でも点せば……そこいらの女より余程艶っぽい……そう思わないか……?」

腰に回された手がゆっくりと幸成の尻へと下ろされ、その柔らかさを楽しむ様に這わされる。

「…………ふざけるのも大概にして下さい」

成一郎を睨みつけ身体を押し返そうとするが、それに余計力が加わり息がかかる程抱き寄せられた。

「抗うな……。明晩化け物に犯されるのだろう?」

「兄上っ」

成一郎の腕から逃れようとする幸成をいとも簡単に寝床へ押し倒すと、ゴツゴツとした硬い手が寝巻きの中の素肌を撫で回した。

「なら……俺が先に犯したところで……問題もあるまい」

成一郎の言葉と、色を濃くした瞳に幸成は愕然とした。

───犯す…………?……

「兄上…………なに…を…………」

「ずっとお前を手に入れたいと思っていた。……解っていただろ……?」

思考が追いつかない。
寝床の上に組み敷かれ、下肢を弄る兄の硬い指が何を望み、何をしようとしているのか理解出来ない。

「……どの女を抱いてもお前の顔がチラつく……」

「………………何を言って……」

幼い頃はそれでも兄を慕っていた。
逞しく強い……兄のようになりたいと……。
厳しい父に変わって自分に稽古をつけ、兄も可愛がってくれていた。
それがいつからか……兄の目が……自分を見る眼差しが、蔑視していると気付いた。

自分を蔑み……憐れんだ瞳…………。

動けないでいる幸成の太腿を無理やり開くと、成一郎は窄んだままの柔らかい窪みに無理矢理指を捩じ込んだ。

「─────!?…………あ゛ッ……」

突然与えられた痛みに幸成の身体が仰け反り、縋るように成一郎を見つめた。

「…………なにを…………」

「……耐えていろ…幸成……直に善くなる……」

兄の獣のような目付きと痛みに、本当に犯す気なのだとやっと理解出来た。

「……やめてください!……俺は……」

精一杯の力で成一郎の身体を退けようとしたと同時に、一本の指でも受け入れきれていない窪みに新たに指が捩じ込まれる。

「─────はッぅ!!…………やめ……て…………」

硬い蕾を広げようと中で指が蠢き痛みだけを与える。

「……兄上…………」

子供の頃は尊敬すらしていた……。

「…………やめろ…………」

───なのに………………

「幸成……俺の可愛い弟…………」

痛みからなのか、兄に受けている屈辱からなのか涙が滲んだ幸成の唇に成一郎の唇が重なった。
掛かる息に吐き気すら込み上げる。
押さえ付けられた身体に、兄の昂った魔羅があたり、幸成は成一郎の唇を思い切り噛んだ。
幸成の口の中にも鉄の味が広がる。

「──貴様……」

成一郎の瞳が怒りを孕み、身体を押さえ付けていた手が首に掛かった。
息が出来ない程兄の手が首を絞める。

「─────くッ…………」

「この俺に逆らうな……」

必死で成一郎の手を払おうとするのに、その片手にすら力が及ばず、頭が朦朧としてきた。

───俺は………………

こんなことすら、止めることが出来ない。
幸成は全ての抵抗を止めた。

「……はなからそうしていれば良いものを……」

忌々しげに兄の口が呟き、幸成の足を持ち上げると、昂りきった魔羅を開いてすらいない窪みへ沈めていく。

「─────ぅあ゛ッ………………」

痛みが現実見せつける。
蔑んでいる癖に……賎しい程に自分を欲している成一郎の眼差しも。
臀の間から流れる温かい液も。
そして抵抗などしたところで、変わらない全ても。

───俺はなんの為に生まれてきたんだ……



行灯が薄暗く照らす部屋に、畳をギシギシと揺らす音と成一郎の息遣いが響いて聞こえる。
兄が言ったような快感も訪れなければ、痛みも薄れてきている。
少しづつ消えていく感覚の中で幸成は兄に言われるまま身体の向きを変え、吐き出す欲望を受け入れていた。
何も感じなくなってきている感情の中で、白無垢だけを汚さないように考えている。

明日これを着て……死ににゆく為に……。


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