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月が先程より高くなっているのを見上げると、琥珀は敵から見つかりづらくする為に草木で覆われ狭くなた入口から、巣穴の中へ身体を滑り込ませた。
「───琥珀ッ!」
するとすぐに浅葱の声が耳に届いた。
「お前…………何処行ってたんだ!探したんだぞッ!…………まったく…………」
声も口調も怒っているのに、安堵したように情けない顔で怒っている浅葱を、琥珀は上目遣いで窺う様に見上げた。
やはり心配させていた。
しかしそれが、申し訳なくもあり、嬉しくもある。
それが解ったのか、浅葱は溜息を吐き苦笑いすると、鼻で琥珀の額を小突いた。
「……腹は……?」
「………減ってる…………」
「まったく……飯も食わねぇで飛び出すからだ」
浅葱は隅に置かれた兎に視線を向けると、琥珀に近付き匂いを嗅ぐ様に鼻を擦り付けた。
髪に、頬に、身体に…………
「……くすぐってぇよ」
いつもより執拗に鼻を擦り付け、身体を舐める浅葱に、琥珀は嬉しそうに笑った。
本当なら自分も狼の姿に戻り、同じ様に浅葱の匂いを嗅ぎ、毛皮を舐めたい。
しかし浅葱がそれをあまり良しとしない。
琥珀がなるべく人の姿でいられる様に、狩も琥珀には余りさせたがらなかった。
「………………早く食っちまえ」
最後に頬をペロッと舐めると、鼻で琥珀の身体を押した。
乾いた草の上で相変わらず子狼の身体を舐める浅葱の姿を、肉に齧り付きながら琥珀の目がぼんやりと見つめていた。
「また……酒を酌み交わそう」
男は最後にそう言っていた。
浅葱に伝えろと………。
それはあの男が浅葱を知っている……ということだ。
琥珀は最後に残った肉を口に放り込むと、血で汚れた手をペロペロと舐め、浅葱と大分元気になってきた子狼に近付いた。
すぐ横に座りもう一度手をペロッと舐めると、子狼の傷にそっと手を当てた。
浅葱は黙ったまま琥珀のしたい様にさせている。
琥珀がこの子狼を気に入らないのは知っているが、それで何かをするとは思っていない。
琥珀は暫くそのまま手を当て、力んでみたり首を傾げたりしていたが、諦めた様に手を離し自分の手を見てまた小首を傾げている。
その様子に浅葱はクスッと笑うと
「早く来い。寝るぞ」
身体を動かし子狼と自分の間に、琥珀が入れるように隙間を開けた。
それにキョトンとしていた琥珀の顔が嬉しそうに歪み、そうかと思うと顔を紅くして照れ隠しから口をへの字にして、おずおずと浅葱の身体に寄り添うように横になった。
すると浅葱が優しく琥珀の頬をペロペロと舐めだした。
「………さっき……オレ……変な奴に会った……」
浅葱はそれに何も言わず琥珀の頬や髪を舐め続けている。
「そいつ……自分のこと“かみ”って存在なんだって言ってた……」
暗い巣穴に子狼の寝息と、浅葱が自分を舐める音が妙に響いて聞こえる。
「………そんで……オレのことも……その“かみ”とかいうモンだって言うんだ……」
顔を髪を浅葱の舌が優しく撫でる。
何も言わず、ただ優しく撫でる舌が、暖かくてひどく安心する。
「…………浅葱……?」
「早く寝ろ。……疲れたろ」
何も言わない浅葱が、やはり『あの男』を知っているように思える。
しかし琥珀はそれ以上何も言わずに浅葱の身体にぎゅっとしがみつくと
「……うん…」
それだけ答えた。
あの男からの伝言を伝えたら、浅葱が何処かへ行ってしまう様な気がしたのだ。
もしかしたら……自分を置き、あの男の元へ…………。
柔らかく温かい浅葱の毛皮に顔を埋めると、琥珀はやっと瞼を閉じた。
しかし今まで感じたことの無い不安が胸に残り、浅葱の寝息が耳に届くと漸く眠りの淵へと落ちていった────
「───琥珀ッ!」
するとすぐに浅葱の声が耳に届いた。
「お前…………何処行ってたんだ!探したんだぞッ!…………まったく…………」
声も口調も怒っているのに、安堵したように情けない顔で怒っている浅葱を、琥珀は上目遣いで窺う様に見上げた。
やはり心配させていた。
しかしそれが、申し訳なくもあり、嬉しくもある。
それが解ったのか、浅葱は溜息を吐き苦笑いすると、鼻で琥珀の額を小突いた。
「……腹は……?」
「………減ってる…………」
「まったく……飯も食わねぇで飛び出すからだ」
浅葱は隅に置かれた兎に視線を向けると、琥珀に近付き匂いを嗅ぐ様に鼻を擦り付けた。
髪に、頬に、身体に…………
「……くすぐってぇよ」
いつもより執拗に鼻を擦り付け、身体を舐める浅葱に、琥珀は嬉しそうに笑った。
本当なら自分も狼の姿に戻り、同じ様に浅葱の匂いを嗅ぎ、毛皮を舐めたい。
しかし浅葱がそれをあまり良しとしない。
琥珀がなるべく人の姿でいられる様に、狩も琥珀には余りさせたがらなかった。
「………………早く食っちまえ」
最後に頬をペロッと舐めると、鼻で琥珀の身体を押した。
乾いた草の上で相変わらず子狼の身体を舐める浅葱の姿を、肉に齧り付きながら琥珀の目がぼんやりと見つめていた。
「また……酒を酌み交わそう」
男は最後にそう言っていた。
浅葱に伝えろと………。
それはあの男が浅葱を知っている……ということだ。
琥珀は最後に残った肉を口に放り込むと、血で汚れた手をペロペロと舐め、浅葱と大分元気になってきた子狼に近付いた。
すぐ横に座りもう一度手をペロッと舐めると、子狼の傷にそっと手を当てた。
浅葱は黙ったまま琥珀のしたい様にさせている。
琥珀がこの子狼を気に入らないのは知っているが、それで何かをするとは思っていない。
琥珀は暫くそのまま手を当て、力んでみたり首を傾げたりしていたが、諦めた様に手を離し自分の手を見てまた小首を傾げている。
その様子に浅葱はクスッと笑うと
「早く来い。寝るぞ」
身体を動かし子狼と自分の間に、琥珀が入れるように隙間を開けた。
それにキョトンとしていた琥珀の顔が嬉しそうに歪み、そうかと思うと顔を紅くして照れ隠しから口をへの字にして、おずおずと浅葱の身体に寄り添うように横になった。
すると浅葱が優しく琥珀の頬をペロペロと舐めだした。
「………さっき……オレ……変な奴に会った……」
浅葱はそれに何も言わず琥珀の頬や髪を舐め続けている。
「そいつ……自分のこと“かみ”って存在なんだって言ってた……」
暗い巣穴に子狼の寝息と、浅葱が自分を舐める音が妙に響いて聞こえる。
「………そんで……オレのことも……その“かみ”とかいうモンだって言うんだ……」
顔を髪を浅葱の舌が優しく撫でる。
何も言わず、ただ優しく撫でる舌が、暖かくてひどく安心する。
「…………浅葱……?」
「早く寝ろ。……疲れたろ」
何も言わない浅葱が、やはり『あの男』を知っているように思える。
しかし琥珀はそれ以上何も言わずに浅葱の身体にぎゅっとしがみつくと
「……うん…」
それだけ答えた。
あの男からの伝言を伝えたら、浅葱が何処かへ行ってしまう様な気がしたのだ。
もしかしたら……自分を置き、あの男の元へ…………。
柔らかく温かい浅葱の毛皮に顔を埋めると、琥珀はやっと瞼を閉じた。
しかし今まで感じたことの無い不安が胸に残り、浅葱の寝息が耳に届くと漸く眠りの淵へと落ちていった────
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