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灼熱の過去に触れる海色
元凶との対峙
しおりを挟む海音の家……つまり、小波家に無事迎え入れられたナルタは、改めて海音から両親の事や家のルールを教えてもらう事となった。
「私のお父さんは慎二、お母さんは光冬っていう名前なの。どんな風に呼べばいいかは後で二人に聞いてね。私みたいに突然お父さんお母さんなんて呼んだら、きっとびっくりしちゃうと思うから」
「そうなのか……分かった」
夜勤明けの両親二人は、海音の気遣いに甘えて今は両親の部屋で眠っている。
海音とナルタは、海音の作った昼食を済ませてから再び海音の部屋でちょっとした勉強会を行っていた。
まずはこの世界の基本的な、いい事、悪い事を海音がナルタに教え、
召喚に関わる魔術的な知識や生活への影響についてはナルタが海音に教えた。
「基本的に俺が力を使おうとしなければ、海音の身体には負担は掛からない。でも海音が危険な状態に陥った時は俺は契約の下に、無意識に力を使うと思う。けど……まだ海音の持つ魔力量では負担が掛かりすぎる。だから海音はなるべく無理はしないように生活してくれ」
「うん、事故とかに気をつければいいんだよね?それなら私でも出来るね」
細かい部分はまだ覚えきれないだろうと思った二人は、とりあえず生活していく上で最低限必要な事だけを教えあってから少し休憩とした。
海音が冷蔵庫からりんごジュースを持ってきて、魔術書に目を通すナルタにマグカップを手渡した。
「あ……ありがと」
「ナルタくん、その魔術書の内容が気になるの?」
「いや、気になるというか……。一応俺はこれを元にして召喚されたからな。目を通しておいた方がお前のためにもなるかと思って」
「そっか……ナルタくんは優しいね」
「やっ、やさ……!?」
床に敷かれたラグの上で魔術書を読むナルタの横に座って、海音はふんわりと笑った。
真横でそんな笑顔を見てしまったら、すぐにまた愛しさであらゆる感情が爆発してしまいそうになる。
「そ、それは……海音が……俺が今まで出会ってきた召喚士の中でとびきりいいやつだからだよ……」
「そうなの?」
「ん、ん……!!」
ナルタは恥ずかしくなって目を逸らしてこくりと頷き、気を紛らわせるためにジュースをくぴくぴと飲んでから、ローテーブルにマグカップをタンと置いた。
再び魔術書に視線を落とすナルタを見て、海音は再び微笑んだ。
『ナルタくん……なんでだろう、昨日よりもっとナルタくんを知りたい気持ちが強くなってるみたい……』
ナルタに優しいキスをされてから、何故かナルタを見ていると胸がきゅんと甘く痺れてしまう。
殺されかけたことも、既に遠い昔のように感じられてしまうほどに。
『あ……また太陽みたいな匂いがする……』
少し開けた窓の隙間から、初夏の風が吹き抜ける。
その風がナルタのダークブラウンの髪を撫で、流れに乗って海音の鼻腔まで運んで来たのだ。
『ナルタくんのこの匂いを嗅いでるとすごく安心する……不思議……』
ナルタの隣にいると、何故かもっと近付きたい気持ちが溢れてくる。
『あ、なんだか眠く……』
太陽に似た香りにつられてナルタの首筋まで顔を近付けたら、今度はふわりと眠気が込み上げてきた。
『ナルタくん……』
そしてそのまま、安らぐ香りを感じながらゆっくりと意識を手放した。
『……ん?』
かくんと突然左肩辺りに重みを感じ、ナルタは魔術書から顔をあげた。
「…………んぁっ!?」
そして左肩の方を向こうとして硬直した。
すぐ真横に綺麗な寝顔がある。
たちまち海音の甘い香りがナルタの鼻腔を直撃した。
『えぇえ!?なんだこの状況!?ね、寝てるのか!?なんで!?顔めちゃくちゃ近ッ!!!!』
すう……と小さな寝息まで聞こえてくる。
ナルタの心臓はすぐに爆発しそうな程に昂っていた。
『うぅっ……海音、そんな可愛い寝顔を至近距離で見せるなよ……またキスしたくなるだろ……』
キスによる幸福感を知ってしまったナルタはすっかり海音とするキスの虜になっていた。
お前はキス魔にでもなるつもりか。
ナルタはグッと我慢して、再び魔術書に視線を落とした。
しかし再びナルタに理性と本能が衝突しあう展開が襲いかかってきたのだった。
『うっっっ!!』
むに……。
ナルタに寄りかかって寝ている海音の右胸が遂にナルタの左腕に押し付けられたのだ。
何故だかこの胸の感触には本能的に性欲が駆り立てられてしまう。
『胸……胸ッ……海音の、柔らかい胸……ッ!!』
初めて触れた時から、その柔らかさはナルタの興奮剤になっている。
薄青色のカットソーからほんのりと覗く谷間と、ふっくらとした丸みがまるでナルタを誘惑するかのようにそこにある。
『この前はよく分からないまま掴んで張り手を食らったけど……や、やっぱりこれが海音の胸だと分かった上で……もう一度、ふ、触れてみたい!!!!!!』
思わず自分の鼻息が荒くなっていることも本人は気付いておらず、ナルタの目は海音の胸に釘付けとなっている。
『海音は寝てるし……す、少しだけならいい、よな?いい、よな!?』
いい訳がないのだが。
起こさないように左肩に意識を集中したまま、ナルタはそっと右手の指先でその丸みの縁をなぞった。
「ん……」
『うっ!!!!!!!!!!』
股間が隆起した。
しかしなぞっただけでは胸の柔らかさがよく分からない。
もっと、もっと知りたい……。
堪らず、今度はその丸みを包み込むように右手でゆっくりと撫でる。
『う……む、胸……こんなに丸くて……滑らかなのか……』
ナルタの左腕に押し付けられた右胸はふっくらとその左腕を包み込むように形を変えている。
『………………こ、今度は殴られるかも……』
それでもはち切れそうな程に滾る性欲がナルタの右手を突き動かす。
「……ん、んん……」
左胸を下からゆっくりと撫でると、僅かにふるんと乳房が揺れた。
『んんんんああああああ!!!!!!!!なんだこれ!?すごく、すっごくいっぱい揉みたくなる!!!!』
隆起した股間は更に膨らみを増す。
ナルタは思わずはぁはぁと興奮した吐息まで漏らしつつ、海音の左胸に夢中になって触れた。
少しずつ、その胸を撫でる手に力を入れて……。
撫でるだけのはずが、気付いたら下から上へゆっくりと揉みしだいていた。
『海音の胸、すごく、すごく、いい……!!!!こんな気持ちいいもの、今まで知りもしなかった……!!!!』
昔の女の召喚士達も、ナルタを色んな手で誘惑をしてきたものだったが、たかが人間の女の乳房二つで興奮するような下品な炎龍でもなかったはずなのに、今ではこんなもんである。
そしてその女達の乳房を見せられてきた経験から、ナルタはある事に気づいてしまった。
『海音も……この服の下に隠したところに……乳首があるのか……』
海音の乳房にあるはずの紅く熟れた小さな果実を想像したら、遂に下半身の暴走した先端からじわりと涎が滲み出てしまった。
『せ、せめて……せめて……形だけでも、なんか、どうか……』
最早性欲に駆られた齢四桁のドエロ炎龍の思考は海音の身体の事以外考えられなくなってしまっていた。
「……な、ナルタくん……!!」
「は!!!!!!!!!!!!」
左胸をもにゅもにゅとしきりに揉みしだいていたナルタは、この後しっかり海音から往復ビンタを食らったことは言うまでもないだろう。
「さ、最低!!な、ナルタくんって、えっちな炎龍くんだったんだね……!!」
「うわぁー!!!!ちが、誤解ッ!!いやっ、確かにまたお前の胸を触ったことは事実だしそれは認めるけど!!ち、ちが、う、うわぁー!!!!!!」
目を皿のようにしてナルタを見る海音の顔を見てナルタは懸命に弁解しようと言葉を探していたが、あまりにも白々しくて遂には叫ぶことしか出来なかった。
哀れなドスケベ炎龍。南無三。
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グループチャットタイトル:オカルト大好きメン☆
『ねー海音ー??』
『ねーってば、海音ー既読つかないぞー』
『海音に用があるなら個別に連絡しろ』
『えーだってオカルトに関しての話なんだもん、府城にも関係してる話だし』
『まさかとは思うが、昨日あの後小波を巻き込んだんじゃないだろうな?』
『巻き込んでないよ!!召喚はお願いしたけど』
『このバカ!!』
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「そういえば、気になってたことがあるんだけど」
寝てる隙に胸を散々揉みしだいた事をしっかり海音に叱られた後、ドスケベ炎龍は黒魔術書を持ち上げて海音に話しかけた。
「海音が俺と契約する時に言ってたよな?友人の代わりに召喚したって」
「あっ、うん、そうだよ。……そういえば奏子から何か連絡来てるかも……」
昨日帰宅してからバッグに入れっぱなしだったスマホを取り出し、通知を見てぎょっとした。
「わ……凄い通知履歴……!!ごめんね奏子」
「?なんだそれ」
スマホを見たナルタは首を傾げた。
「あっ、これはね、電話とか、メッセージのやり取りとかに使うものなんだ。」
「でんわ??めっせーじ??」
「遠くにいる人とお話出来るものだよ。今はよく分からないかもしれないけど、ナルタくんならすぐに分かるようになるよ」
そして海音は少しだけ静かにしていてね、とナルタに囁いてからスマホに耳を当てた。
『ちょっと!!海音なんで既読つけてくれなかったのー!?すっごい心配したんだけど!!』
「ご、ごめんね奏子……!!」
スマホの通話が繋がった途端、スマホから聞こえてきたのは全ての元凶、オカルト好きの友人である奏子が海色を心配する声だった。
『何だ!?あれから声が聞こえてくるぞ!?』
驚くナルタを見て、その顔の可愛さに海音は思わず微笑んだ。
『で、召喚術はどうなったの??上手くいった??』
「奏子……私の事心配したなんて言ってるのに、二言目にはそれなんだね……」
相変わらずな奏子の言葉に海音は思わず呆れてしまった。
『だ、だって既読つかなかったから!!何かあったのかと思って!!』
海音は「そうだね」と適当に奏子の言い訳を受け流した。
「あのね、あの黒魔術の本、本物だったみたい」
『ウソ!?』
分かりやすく奏子の声のトーンが跳ね上がった。
『ちょっとちょっとマジ!?どういうこと!?何が召喚出来たの!?』
「えっとね……」
『いや!!やっぱり今から海音の家に行く!!!!じゃああとでね!!!!』
ブツッ。
「………………。」
始終奏子はマイペースだった。
海音は通話が切れたスマホから耳を離してナルタを見た。
「ナルタくん、これからその友達がここに来るって」
「フン……海音に無理やり召喚押し付けた奴だな」
ナルタが少しだけ不機嫌そうに吐き捨てる。
「そ、そうなんだけど……でもナルタくんと出会えたきっかけを作ってくれた子でもあるから……あまり怒らないで、ね?」
「海音……」
優しすぎるだろ……。
ナルタは思わず海音を抱きしめようとした。
「あっ!!またえっちな事しようとしてる!?」
「ち、ちがーう!!」
きっ!と海音にちっとも怖くない睨み顔を向けられ、ナルタはさっきのドスケベ行動を強く後悔した。
海音の友人である奏子とは、大学に入ってからの付き合いである。
同じ専攻であり、海音が入学当時、大学のサークル見学に行こうとした時に声を掛けてきたとても明るく活発な子だと海音はナルタに説明した。
「少しマイペースというか、決めたらすぐ行動!!みたいな子だから、ナルタくんも勢いに圧倒されちゃうかも」
「海音に召喚術を押し付けた奴だもんな……なんか少しだけ状況察した」
まだ一日共に過ごしただけの仲だが、海音が優しい性格であることと、警戒心がとにかく低いこと、そして流されやすい傾向にある事はナルタも十分理解していた。
だからこそ、やっぱり俺が守ってやらなきゃならない。
ナルタは割とポジティブだった。
奏子との電話が切れてからそろそろ二時間が経とうとした頃、玄関のチャイムが鳴った。
「あ、奏子だ」
立ち上がった海音を視線で追いつつ、ナルタはどう挨拶したものかを少し考えた。
『相手の出方次第では、俺も昔みたいな高圧的な態度で話す必要があるかもしれないよな……』
突然、海音がナルタを召喚した時のような話し方をしだしたら海音は驚くだろうか。
あまり要らない不安を抱かせるのも嫌だしな……とうーんとナルタが悩んでいると、海音の部屋に飛び込んでくるように、遂に元凶がナルタの前に姿を現した。
「君が海音が召喚した異世界の生き物!?」
「うわっ!!」
それはもう目にも止まらぬ早さで、一瞬でナルタの肩を掴んでナルタ顔をまじまじと観察した。
「そ、奏子!!あまり乱暴しないで……」
慌てて部屋に戻ってきた海音は、不安そうに奏子の後ろ頭とナルタの顔を見た。
「……お前が海音に厄介事を押し付けた"友人"なんだな?」
「うわっ、痛た!!ちょっとちょっとタンマ!!そんな警戒しなくても解剖したりしないって!!!!」
肩を掴む奏子の手を、その小さな身体からは想像も出来ないほどの握力でギリリと手首を捻り上げた。
「な、ナルタくん!!」
「!!……チッ」
海音の必至な声ではっと我に返り、ナルタは舌打ちしながら捻り上げた奏子の手首を手放した。
「い、いった~……!!す、すっご……ほんとに人間じゃないみたい!!」
しかし手首を捻り上げられた当の本人はナルタにつけられたアザを見て目を輝かせていた。
そしてまたナルタを見てビシリと指さした!!
「さてはそのビジュアル……君はサラマンダーだなっ!?」
「違うわ」
冷ややかな視線で吐き捨てるナルタを見て、海音は目を瞬かせた。
こんな冷たい態度を見せるナルタは、召喚して直後の、あの殺されかけた時以来だった。
「お前が海音に召喚の儀なんかを押し付けたせいで、俺は眠りから起こされるわ、海音の家に迷惑掛けるわで数時間前まで大変だったんだぞ!!俺に対する関心より、先に海音に言うことがあるだろ!!」
「な、ナルタくん……」
奏子も呆気に取られ、ぽかんと口を開けていた。
海音はナルタの隣に移動して、そっとナルタの手を握った。
「!!海音っ!?」
ナルタの顔が途端に爆発する。
「奏子、いきなり黒魔術とかなんとか、訳の分からない事を私に押し付けたことは許してないけど……、ナルタくんは私に優しくしてくれるし、凄く頼りになる子だから、ナルタくんと出会えたきっかけにくれたことは感謝してるよ」
「う、海音……」
本人達は気付いていないが、見つめ合う二人の空気はあまりにも、ソレだった。
「………………え?」
奏子はナルタと海音の顔を交互に見て、更に目を丸くした。
「え、なにこの空気……謝るタイミングもうなくない……?」
少し間を置いて、奏子は海音にしっかり謝ってから、改めてナルタに軽い自己紹介をした。
「私は宍戸奏子。黒魔術の件については二人に迷惑かけちゃって本当にごめん!!!!でも私も本当の本当に召喚出来るかは半信半疑だったの……!!!!」
「お前が本っ当に反省してるなら、俺からはもう言うことはない。海音は?もうこれで大丈夫か?」
ナルタはじろりと奏子を睨みつけてから、海音を見上げた。
「うん、ありがとうナルタくん。昨日からちょっとモヤモヤしてた事がすっきりしたよ」
海音がふんわりと笑い、ナルタもその笑顔を見てそっかと満足気に頷いた。
「……それで、まだ二人には色々聞きたいことがあるんだけど……」
奏子は二人を交互に見ながら、今にもマシンガントークが始まりそうなくらいに前のめりで瞳を輝かせた。
「何!?もう二人って出会って早々付き合ってたりするわけ!?」
「えぇっ!?」
「……??」
ナルタだけ言葉の意味が分からず首を傾げた。
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