11 / 63
第参章 葛藤
咆哮
しおりを挟む
――――
ルーフェの傷はほぼ治り、体力も以前と同じくらいに回復した。
もはやここにいる必要もない。そう決めたルーフェは、明日には出て行こうと、部屋で荷造りをしていた。
『愛する人を生き返らせるという願いなど無意味だ』
トリウスに言われたあの言葉は、今でも彼の心に引っかかっている。
だが例え無意味と言われようとも、それでも強く求め続けた願いだ、希望がある限り、最後まで追い求めてみせる……。
彼の信念は、折れることはなかった。
そんな時、ラキサが部屋へと入って来た。
彼女は荷造りしている彼の様子を見ると、静かに言う。
「此処を出る準備をしているのね」
「ああ、明日にはな」
「願いは……諦めてもらえましたか?」
しかし彼は首を横に振る。
「……いや、俺は諦める気はない。その気持ちは変わらない」
ルーフェはそう言いこそしたが、最後の部分は嘘だった。
初めの頃は願いを求める事に迷いはなく、その為に人間らしさも捨てていた。
だが、今では……? 彼自身にも分からない。
ラキサは僅かに顔を俯けると、こう伝えた。
「そう……ですか。でも、せめて貴方の、力にならせて下さい」
「力になるって、一体どうやって?」
「ルーフェさん、剣を、貸してもらえますか?」
言われるがまま、ルーフェは自らの剣をラキサに差し出す。
「私にも、魔術の心得はあるの。お父様には禁じられていますが、あの竜と対等に戦うために、この剣に魔法を施します。せめてもの――旅立つ貴方への贈り物として」
彼女は剣を両手に乗せると、目を閉じて呪文を唱える。
手のひらに小さな魔法陣が出現し、そこから暖かな光が、放たれる。
光は幾筋もの糸となって、剣へと絡まり……金色に光輝く模様が刻まれて行く。
それは、まるで一匹の竜のような模様だ
やがて呪文が唱え終わると、輝きこそ消えたが、剣には竜の模様が刻まれた。
ラキサはルーフェに剣を返す。
「これでルーフェさんは、あの冥界を守る竜――常世の守り主を倒せるはずです。
手加減は必要ありません、竜は罪もない人々を…………何人もの人を手にかけたのだから。この力こそ、私からの贈り物」
そう言った彼女は、とても悲しそうな表情を見せた。
「貴方といた日々は、忘れないわ。……どうか、恋人が取り戻せますように」
そして踵を返すと、ラキサは急に部屋を出て行った。
「おいっ! どうしたんだ!」
心配したルーフェは、急いで彼女の後を追う。
先程、部屋から出て行ったラキサを、ルーフェは探した。
彼女の魔力が込められた剣は、身につけたままである。
家の中にもいない。外も今ようやく、探し終えた所だ。
しかし――どこにも彼女の姿は見当たらない
以前のルーフェならこんな行動など、絶対に考えられなかった。
それは、ルーフェ本人が一番分かっている。分からないのは、どうして自分がこう変わったのか。だが、それよりも今はラキサの事が、彼にとって気がかりだ。
……そんな時。
山の上から激しい咆哮が響いた。辺りの空気が震え、遠くからは雪崩が起きたかのような地響きが聞こえる。
ルーフェはその声が、あの竜のものであると分かった。
咆哮は何度も、何度も聞こえ、強い悲痛さを訴えるかのような叫びは、まるで聞くものさえもその感情に引きずり込むかのようだった。
冥界の守り主である竜とは、再び相手にしなければならない、行く手を阻む敵である事は分かっていた。
……だが、強い悲しみの込もった竜の咆哮は、先ほどの少女の悲しみと重なってか、ルーフェは同情を覚えた。
ラキサと竜とは、全く別の存在の、はずだった。なのにどうして二者を重ねてしまったのか、まだ分からない。
――いずれ剣を向ける相手、それだとしても――
やがて咆哮は徐々に小さくなり、やがて聞こえなくなった。
ルーフェの傷はほぼ治り、体力も以前と同じくらいに回復した。
もはやここにいる必要もない。そう決めたルーフェは、明日には出て行こうと、部屋で荷造りをしていた。
『愛する人を生き返らせるという願いなど無意味だ』
トリウスに言われたあの言葉は、今でも彼の心に引っかかっている。
だが例え無意味と言われようとも、それでも強く求め続けた願いだ、希望がある限り、最後まで追い求めてみせる……。
彼の信念は、折れることはなかった。
そんな時、ラキサが部屋へと入って来た。
彼女は荷造りしている彼の様子を見ると、静かに言う。
「此処を出る準備をしているのね」
「ああ、明日にはな」
「願いは……諦めてもらえましたか?」
しかし彼は首を横に振る。
「……いや、俺は諦める気はない。その気持ちは変わらない」
ルーフェはそう言いこそしたが、最後の部分は嘘だった。
初めの頃は願いを求める事に迷いはなく、その為に人間らしさも捨てていた。
だが、今では……? 彼自身にも分からない。
ラキサは僅かに顔を俯けると、こう伝えた。
「そう……ですか。でも、せめて貴方の、力にならせて下さい」
「力になるって、一体どうやって?」
「ルーフェさん、剣を、貸してもらえますか?」
言われるがまま、ルーフェは自らの剣をラキサに差し出す。
「私にも、魔術の心得はあるの。お父様には禁じられていますが、あの竜と対等に戦うために、この剣に魔法を施します。せめてもの――旅立つ貴方への贈り物として」
彼女は剣を両手に乗せると、目を閉じて呪文を唱える。
手のひらに小さな魔法陣が出現し、そこから暖かな光が、放たれる。
光は幾筋もの糸となって、剣へと絡まり……金色に光輝く模様が刻まれて行く。
それは、まるで一匹の竜のような模様だ
やがて呪文が唱え終わると、輝きこそ消えたが、剣には竜の模様が刻まれた。
ラキサはルーフェに剣を返す。
「これでルーフェさんは、あの冥界を守る竜――常世の守り主を倒せるはずです。
手加減は必要ありません、竜は罪もない人々を…………何人もの人を手にかけたのだから。この力こそ、私からの贈り物」
そう言った彼女は、とても悲しそうな表情を見せた。
「貴方といた日々は、忘れないわ。……どうか、恋人が取り戻せますように」
そして踵を返すと、ラキサは急に部屋を出て行った。
「おいっ! どうしたんだ!」
心配したルーフェは、急いで彼女の後を追う。
先程、部屋から出て行ったラキサを、ルーフェは探した。
彼女の魔力が込められた剣は、身につけたままである。
家の中にもいない。外も今ようやく、探し終えた所だ。
しかし――どこにも彼女の姿は見当たらない
以前のルーフェならこんな行動など、絶対に考えられなかった。
それは、ルーフェ本人が一番分かっている。分からないのは、どうして自分がこう変わったのか。だが、それよりも今はラキサの事が、彼にとって気がかりだ。
……そんな時。
山の上から激しい咆哮が響いた。辺りの空気が震え、遠くからは雪崩が起きたかのような地響きが聞こえる。
ルーフェはその声が、あの竜のものであると分かった。
咆哮は何度も、何度も聞こえ、強い悲痛さを訴えるかのような叫びは、まるで聞くものさえもその感情に引きずり込むかのようだった。
冥界の守り主である竜とは、再び相手にしなければならない、行く手を阻む敵である事は分かっていた。
……だが、強い悲しみの込もった竜の咆哮は、先ほどの少女の悲しみと重なってか、ルーフェは同情を覚えた。
ラキサと竜とは、全く別の存在の、はずだった。なのにどうして二者を重ねてしまったのか、まだ分からない。
――いずれ剣を向ける相手、それだとしても――
やがて咆哮は徐々に小さくなり、やがて聞こえなくなった。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる