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第肆章 決戦
揺れる心
しおりを挟む竜の額に輝く、紫水晶。
それは強く、キラリと光り輝く。
水晶の輝きに呼応するかのように、竜の砕けた爪と、足の傷は瞬く間に再生を始める。
やがて受けた傷は……すぐに元通りとなった。
まさしく、額の水晶は竜の力の源。
その脅威の治癒力も、また、並大抵のものではない。
倒すには、深い致命傷を与えなければ……。
――とにかく俺は、奴を倒す! でなければ――
さっきまでの葛藤を、無理に振り払うルーフェ。
そして再び、剣で竜に攻撃を仕掛ける。
対して竜は両足の爪と尻尾、そしてその巨体で応戦した。
大切な人を失い、それを取り戻すために全てを捨てた青年と……生を受けた瞬間から守り主の責務を背負う定めを受け、葛藤する竜の少女。
互いの願いと想いをのせ、二人は命懸けで、今戦う。
――――
それから、いくらかの時が流れた。
両者は激しく戦い、攻防がなおも繰り広げられる。
それぞれが傷つき、傷つけられ……。一方は自らの願いの為、もう一方は自らに定められた宿命の為に。
――互いに、憎いならまだ良かった。
だが、この戦いは二人にとって、『避けられなかった』だけの戦い。
たったそれだけの――悲しい戦いだった。
やがて攻防の末、ルーフェはもはや何十回目の斬撃を竜の胴体に与えた。
直後、槍のような尻尾の反撃を受ける寸前に右後ろへと跳躍、着地した。
「くッ!」
地面へと着地した途端、肩を押さえてルーフェは片膝をついた。
どうやら完全には避けきれなかったらしく、抑えた手の間から血が滲む。
……それだけではない。
戦いの果てにその身体は傷だらけで、服はボロボロになり、自身が流した血で赤黒く変色していた。
額から流れる自ら血を、ルーフェは腕で拭う。
――全身が痛み、意識も朦朧としている……。そろそろ、限界に近いか。しかし向こうも――
だが、目の前の竜も、同じく傷だらけで弱っていた。度重なる攻勢に、治癒が追い付かないのだ。
しかしまだ足りない。竜の気迫は未だ健在であり、完全に倒さなければ先へは行けない。
それに…………紫水晶の輝きとともに、いまだ残る傷も回復を続けている。
もはや、一刻の猶予もない。早く決着をつけなければ、いずれ消耗するばかりのルーフェは敗れるだろう。
今の竜は、弱っている。
――止めを刺さすのは今しかない。
自らの痛みを無視し、ルーフェは決着をつけるべく、次の一撃に全てをかける。
幾ら竜でも、首筋を切り裂けば致命傷となる。以前はビクともしなかったが、この剣ならば……。
剣の柄を強く握り、迫るルーフェ。
最後の攻撃を仕掛ける彼を全力で阻もうと、竜は両翼をはばたかせて強風を巻き起こす。
剣の力をその傷で知る竜は、もはや前のような余裕を見せることは無い。
ルーフェは正面からの突風を横に避け、素早く竜の側面へと回り込む。
剣の力に反応し、とっさに竜は翼で身を守ろうとしたが、遅かった。
それよりも一瞬早く、ルーフェは竜へと跳躍。無防備な首筋へ剣を振りかざす。
後は剣を、首筋へと振るうだけだ。それで決着がつく。
たった一振り、それだけなのに――――手にした剣が動かない。
――馬鹿な、ここまで来てまだ……! もはやあれはラキサではない。それなのに――。
目の前にあるのは、強大な竜の姿。しかしルーフェには、その姿が、優しいあの少女の姿と、重なって見えた。
……だが、その心の迷いが彼の災いとなった。
目の前にまで迫るルーフェに、竜は光弾を放つ。
もし迷ってさえいなければ、光弾を剣で防ぎ、無効化した上で止めを刺せたはずだ。
だが心の中で葛藤し、例え数秒の間であろうと、剣を振りかざしたまま固まっていたルーフェには、それは不可能であった。
……光弾は至近距離でルーフェに直撃、彼は激しい爆風へと巻き込まれた。
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