御者転生 〜俺が勇者より強いのはわかったから、そんなことより人を運ばせてくれ〜

梓川あづさ

文字の大きさ
27 / 57
ロッカの街〜アイオール皇国

第26話 全力商人

しおりを挟む
「アイオールへ送ってもらえるなら、食料と、武器、それに薬を沢山仕入れていったほうがいいです」

 セフィーがおにぎりを食べながら突然そんなこと言い出した。
 どうしてだ?と聞くと、今は国内に不穏な空気が漂っていて小競り合いも増えてきているからそれらは必ず高く売れる、とのことだった。

「戦争特需、みたいなことか……?」

 俺はなんとなく聞きかじったことのある単語を呟いた。

「はい。わたしとしては自分の国だし、平和なのが一番なのですけど」
「そりゃそうだろうな。でもそんなこと考えてるなんてセフィーは賢いんだな」
「……わたしは貴族の産まれなのですが、実は商人になりたかったので」
「そうだったのか。じゃあそういった勉強もしていたのか?」
「こっそり、ですけど。お父様方には当然のように猛反対されちゃいまして……」

 セフィーは笑いながらも少し悲しそうな顔をした。
 まぁ貴族の娘が商人になるというのもなかなか難しいだろうからな。

「きっともう少し大きくなったら婚約者と結婚して、それでわたしの夢は終わり。家の為には仕方がないとは思ってはいますけど……ね」

 俺は死んでなお、やりたいことをこうやってさせてもらっている。
 なのに目の前の少女は生きているのにやりたいことができないのか。
 産まれが貴族というのはそれだけで人生勝ち組みたいなイメージだったけど、そうでもないのかもしれないな。

「……セフィーはアイオールのどこまで乗せればよかったんだっけ?」

 そんな俺の突然の質問にセフィーは可愛らしく首を傾げる。

「えと、できれば首都のアイオリアまで、と」
「そうか。フィズ、アイオリアまでどれくらいかかる?」
「アイオールは広いから十日くらい、かな?」
「そうか。じゃあそんな短い時間にはなっちゃうけど、なるべく小さい村も回るからさ。……その間だけ商人になってみないか?」

 俺の提案に目の前の少女は口をパクパクさせている。

「まぁ真似事にはなっちゃうけど、行商人として安く仕入れて高く売りながらアイオリアを目指す。どうだ?」

 セフィーへの同情はあった。
 でも馬車を手に入れてからその考えはずっと持っていた。
 物を運びながら人を運ぶ……それが俺の描いている未来予想図だった。

「いいん……ですか?」
「ああ。二週間もしたら覚めちまう夢のようなものだけど……な」
「わたし……やってみたい、です」
「それじゃあ決まりだ!」

 俺が手を一つたたいてそういうとセフィーは涙を浮かべながらこくりと頷いた。
 利発そうに見えるけどまだ子供だもんな。
 ずっと諦めなきゃって我慢していたんだろうし、少しの間でも夢が叶うならそれは素晴らしいだろうな。

「あ、そういえば勝手に決めちゃったけどリリアはそれで大丈夫か? 少しだけ寄り道が増えるかもしれないが——」
「何言ってるんですか、それが最短距離じゃないですか」
「ふふ、姫様のいうとおりだな。私もそれが我が国までの最短ルートだと思うぞ」

 自分たちの帰国が遅くなるだけの提案だったのに、二人は何故か嬉しそうな顔をしてそういってくれた。
 セフィーの嬉し泣きをみたらそういう気持ちにもなる……か。


「それじゃ、早速仕入れといきたいけどキッチンのコンロに大分金を使ったから先に盗賊から回収した金品を換金するか」

 セフィーは盗賊、という単語を聞くと顔をこわばらせた。
 それだけ怖い思いをしてきたんだろうな。

「えーっと、剣が二十二本に軽鎧が十八、それに弓が五つと矢が……百ちょっとか。これはそのまま行商に回して平気なのか?」
「平気だと思いますよ。正直なことをいえば我が国の刻印は消したいところですが……この際仕方ないでしょう」

 セフィーは困ったような渋い顔をしてそういったけどそんな顔も可愛らしい。
 前の世界にいた時は子供と触れ合うことなんて全くなかったけど、こんな気持ちになるもんなんだな。

「他には宝石類と、魔物の素材がいくつかあるな」
「それは商業ギルドや冒険者ギルドで換金したらいいでしょう」
「あとは……おや、これはなんだろう?」

 俺は台帳をセフィーに見せる。
 そこには『火龍の外套』と書いてあった。

「これは……我が国の国宝になるような魔道具、ですね……」
「えっ、そんなものを何故盗賊が!?」
「あの盗賊たちは我が国の元騎士で……特に頭領は部隊を任されるような地位にあったものなのです。でもまさかそんなものまで持ち出しているとは……」
「じ、じゃあ返すぞ?」

 俺は馬車から火龍の外套を取り出すと、悔しそうな顔をしているセフィーに渡そうとした。
 しかし、セフィーはしずかに首を横に振る。

「いいえ。これは討伐をした者の権利です。もし本当に返して欲しければそれなりの対価を出すのが決まりですから。それまではカケルさんが着用していて下さい」
「で、でもなあ……」

 そんな国宝なんて畏れ多くて、着るだなんてできるわけが——。

「ご主人さまに似合いそうな色だから着てみたらどう?」
「確かに似合いそうです。それに倉庫で腐らせているより使う人が着たほうが道具も喜ぶかもしれませんしね」

 結局、フィズとセフィーに押し切られるようにして俺は外套を着ることになった。

「やっぱりご主人さまにぴったりよ!」
「そ、そうか?」

 確かになんとなくしっくりくるけど……でも後で返せと言われるかもしれないから、なるべく汚さないようにしないとな。
 そんなことを考えてしまうのは小心者だからかな?

 とんでもなく高そうなお宝はこの外套くらいのようだったので、他の細々とした魔道具などは商業ギルド売ってしまうことにした。
 行商をはじめるにあたって、登録も必要らしかったので売却ついでに登録をした。
 これでいつでも行商をはじめていいそうだ。

「それじゃ、この売り上げと手持ちの金貨で商品を仕入れに行こう。何を買うかはセフィーに任せてもいいか?」
「は、はいっ!」

 セフィーはこうして憧れだった商人になった。
 それは短い時間限定の夢みたいなものだったから、だからこそセフィーは全力で商人になった。
 まるで、残りの人生を全て捧げるような熱意で大量の仕入れをしたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん
ファンタジー
「なぜあなたは、私のゲーム知識をことごとく上回ってしまうのですか!?」 魔物だらけの辺境で暮らす主人公ギリアムのもとに、公爵家令嬢ミューゼアが嫁として追放されてきた。実はこのお嫁さん、ゲーム世界に転生してきた転生悪役令嬢だったのです。 本来のゲームでは外道の悪役貴族だったはずのギリアム。ミューゼアは外道貴族に蹂躙される破滅エンドだったはずなのに、なぜかこの世界線では彼ギリアムは想定外に頑張り屋の好青年。彼はミューゼアのゲーム知識をことごとく超えて彼女を仰天させるイレギュラー、『ゲーム世界のルールブレイカー』でした。 ギリアムとミューゼアは、破滅回避のために力を合わせて領地開拓をしていきます。 スローライフ+悪役転生+領地開拓。これは、ゆったりと生活しながらもだんだんと世の中に(意図せず)影響力を発揮していってしまう二人の物語です。

処理中です...