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ロッカの街〜アイオール皇国
第27話 御者、交易をしてみる
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セフィーが張り切った結果、持っていた金貨の半分以上を使いはしたけど、かなり大量の商品仕入れる事ができた。
そんなことをしながらロールヒルで一日休んだ俺たちは、次の日の昼頃、国境を越えた。
国境は山脈と山脈の間にあり、両国の城というか砦が築かれていた。
睨み合ってるようにも見えたから、そんなに国同士の仲はよくないのかもしれないな。
「そういえば、さすがにこれだけ荷物を積みこんだら重くなったんじゃないか?」
「え、重さ? 全然変わってないけど……」
一人じゃどう考えても持ち上げられないほどの荷物を載せた馬車をひいているフィズを心配したけど、どうやら馬車の重さは変わらないらしい。
やっぱり馬車の中が不思議空間になっているからか?
いや、それしかないか……俺はそう納得することにした。
商業ギルドに登録していたからか、国境を越えるのは簡単だった。
だけど越えてから、アイオール側の砦でみっちり積荷を調べられた。
その時にアイオールの刻印が刻まれた武器類を咎められたが、アイオールから流れてきた盗賊を退治した報酬だ、というと逆に謝られてしまった。
その時、セフィーは顔を隠すようにしていたからもしかしたら有名人なのかもしれないな。
だからといってお客さんの個人情報を詮索するような真似はしない。
それが運転手の仁義というものだ。
* * *
「お、ようやく村が見えてきたな」
目の前には小さいながらもしっかりとした柵で囲まれた村が見えてきた。
村に近づくと誰何され『商人だ』と答えると非常に喜ばれて村に招き入れて貰えた。
どうやら国内が物々しい雰囲気になってからというもの、この村まで行商に来てくれていた人がぱたりと来なくなってしまったらしい。
「おお、これは神の御使いか!?」
そんな事をいいながら拝んでくる人もいたほどだ。
俺たちは村の中心あたりに陣取ると、馬車から品物を一部出して辺りに並べた。
この村では砂糖や、塩などの調味料が人気なようだった。
それにパンや、干し肉……まぁつまり食料品がよく売れた。
「ここのところいくらお金があっても品物がなくて買えない状態でしたから……」
子供を抱いた女性はそういうと目の端の涙を拭って、商品を選んでいた。
「全部で銀貨八枚と銅貨四枚ですけど銀貨八枚でいいですよ!」
明朗な調子で会計をしているのはセフィーだ。
商品を並べるまでは不安だったのかおどろどしていたけど、いざ商品が飛ぶように売れていくのをみていたら、その不安はどこかへいってしまったようだった。
「あ、勝手にまけたらまずかったですか?」
俺の視線に気付いたセフィーがそんなことをいってきた。
「いや、そんなことはないぞ。うちの馬車の交易担当はセフィーだからな」
「交易担当……? あ、ありがとうございます……わたし、がんばりますっ!」
セフィーはそれでさらに発奮したようで、日が落ちるまで沢山の商品を売り続けたのだった。
「今日ははじめて商売をさせてもらいましたけど、やっぱりわたしにあっているようです!」
「でもずっと働いていたから大変だったんじゃないか?」
「少し大変だったけど、でも楽しかったですっ!」
楽しかった、か。
その気持ちが持てるってことは本当にセフィーは商人に向いているのかもしれないな。
最初の村を出てから二日間は間に村がなく、行商をすることが出来なかった。
その間はちょっと落ち込んでいたように見えたセフィーだったけど、三日目の朝に村が見えてきたと報告すると目を輝かせていた。
その村も近頃は行商人がこないと嘆き、俺たちの訪問を歓迎してくれた。
昼までに結構な金額を売ったので、人の列が途切れたのをきっかけにして次の村へ向かうことにした。
「もっと沢山仕入れればよかったですね」
最初の村ほどではなかったけど、セフィーがそんなことをいう程度には売れた。
そしてその売上を数えているセフィーの目はギラついていた。
「カケルさんっ! あとちょっとで仕入れの金額に達します!」
「なに、もうなのか?」
「自警団の方が武器を沢山買ってくれたのが大きかったですね」
「そうだな。こんな国の端っこの方の村まで国内の不穏さを感じているのか?」
「どう……なのでしょうか?」
見た目としては国は落ち着いているように見える。
街道もきちんと整備されていて、旅も快適だ。
快調に飛ばした俺たちはその日の夕方前に次の村についた。
そこの村には流行り病に冒されていた少年がいた。
俺たちは薬もたくさん仕入れていたから、少年に薬を飲ませることができた。
あと二、三日遅ければ危なかったと家族から何度も何度も礼を言われた。
セフィーはその日を境に、たまに暗い顔をして考えごとをしていることが増えた。
あの少年に恋をしたなんてことはないだろうから、多分商売についてなんだろう。
どうしたんだ?って聞くのは簡単だけど……でも何かを聞いてくるまでは自分で考えさせてあげたほうがいいかもしれないな。
こうして俺たちの行商の旅は順調に進んでいた。
食事も馬車の中で作れるようになったし、各自それぞれの部屋もある(まぁフィズだけは相変わらず俺と一緒に寝ている)。
お陰でリリアは馬車からあまり出なくて良くなり、魔獣に襲われることもほとんどなかった。
襲撃されたのは一度だけで、リリアら女性陣が川で水浴びをしている最中だった。
サクッと倒しておいたけど、リリアが外に出たとたんにこれだし、やはり馬車の中にいるときは【生贄】が機能をしていないように思えるな。
だんだんと国の中心へ近づくにつれ、食料品や嗜好品よりも武器や薬が売れるようになってきた。
各村々の警戒も高まっているようで、行商人といえど諸手を挙げて歓迎するような空気ではなくなってきているのも感じていた。
「もう少しかぁ……はぁ」
「ん? どうした?」
今日の販売が終わったあたりでセフィーの呟きが聞こえた。
「え、ええっと、もうこんな夢のような時間も終わっちゃうんだなぁ……って思ったら溜め息が出ちゃいまして」
「そうか、もう近いのか?」
「この先には村がなかったように思いますのでおそらく明日か明後日には……」
その言葉を聞いた俺はセフィーの頭をひとつ撫でて、そして涙を拭ってやった。
「そうかお疲れさん。商人はどうだった?」
「……思っていたよりも大変でした」
「嫌になったか?」
「いいえ、逆にもっともっと好きになりましたっ! 困っている人を助けられて、喜んでもらえてなんて素晴らしいのかと。でもわたしはもうすぐ鳥かごの中です……」
「鳥かごか……」
「それからはこの楽しかった日々を思い出すことしかできなくなるでしょう。本当はこのまま家に帰らないで連れて行ってほしいですっ!」
「そ、それは……」
「いえ、分かっています。ちゃんと、ちゃんとしなければ……」
セフィーという少女はそういうと口をきゅっと結ぶ。
その瞳にはもう涙はなかった。
そこにあったのは——確かな決意だけだった。
そんなことをしながらロールヒルで一日休んだ俺たちは、次の日の昼頃、国境を越えた。
国境は山脈と山脈の間にあり、両国の城というか砦が築かれていた。
睨み合ってるようにも見えたから、そんなに国同士の仲はよくないのかもしれないな。
「そういえば、さすがにこれだけ荷物を積みこんだら重くなったんじゃないか?」
「え、重さ? 全然変わってないけど……」
一人じゃどう考えても持ち上げられないほどの荷物を載せた馬車をひいているフィズを心配したけど、どうやら馬車の重さは変わらないらしい。
やっぱり馬車の中が不思議空間になっているからか?
いや、それしかないか……俺はそう納得することにした。
商業ギルドに登録していたからか、国境を越えるのは簡単だった。
だけど越えてから、アイオール側の砦でみっちり積荷を調べられた。
その時にアイオールの刻印が刻まれた武器類を咎められたが、アイオールから流れてきた盗賊を退治した報酬だ、というと逆に謝られてしまった。
その時、セフィーは顔を隠すようにしていたからもしかしたら有名人なのかもしれないな。
だからといってお客さんの個人情報を詮索するような真似はしない。
それが運転手の仁義というものだ。
* * *
「お、ようやく村が見えてきたな」
目の前には小さいながらもしっかりとした柵で囲まれた村が見えてきた。
村に近づくと誰何され『商人だ』と答えると非常に喜ばれて村に招き入れて貰えた。
どうやら国内が物々しい雰囲気になってからというもの、この村まで行商に来てくれていた人がぱたりと来なくなってしまったらしい。
「おお、これは神の御使いか!?」
そんな事をいいながら拝んでくる人もいたほどだ。
俺たちは村の中心あたりに陣取ると、馬車から品物を一部出して辺りに並べた。
この村では砂糖や、塩などの調味料が人気なようだった。
それにパンや、干し肉……まぁつまり食料品がよく売れた。
「ここのところいくらお金があっても品物がなくて買えない状態でしたから……」
子供を抱いた女性はそういうと目の端の涙を拭って、商品を選んでいた。
「全部で銀貨八枚と銅貨四枚ですけど銀貨八枚でいいですよ!」
明朗な調子で会計をしているのはセフィーだ。
商品を並べるまでは不安だったのかおどろどしていたけど、いざ商品が飛ぶように売れていくのをみていたら、その不安はどこかへいってしまったようだった。
「あ、勝手にまけたらまずかったですか?」
俺の視線に気付いたセフィーがそんなことをいってきた。
「いや、そんなことはないぞ。うちの馬車の交易担当はセフィーだからな」
「交易担当……? あ、ありがとうございます……わたし、がんばりますっ!」
セフィーはそれでさらに発奮したようで、日が落ちるまで沢山の商品を売り続けたのだった。
「今日ははじめて商売をさせてもらいましたけど、やっぱりわたしにあっているようです!」
「でもずっと働いていたから大変だったんじゃないか?」
「少し大変だったけど、でも楽しかったですっ!」
楽しかった、か。
その気持ちが持てるってことは本当にセフィーは商人に向いているのかもしれないな。
最初の村を出てから二日間は間に村がなく、行商をすることが出来なかった。
その間はちょっと落ち込んでいたように見えたセフィーだったけど、三日目の朝に村が見えてきたと報告すると目を輝かせていた。
その村も近頃は行商人がこないと嘆き、俺たちの訪問を歓迎してくれた。
昼までに結構な金額を売ったので、人の列が途切れたのをきっかけにして次の村へ向かうことにした。
「もっと沢山仕入れればよかったですね」
最初の村ほどではなかったけど、セフィーがそんなことをいう程度には売れた。
そしてその売上を数えているセフィーの目はギラついていた。
「カケルさんっ! あとちょっとで仕入れの金額に達します!」
「なに、もうなのか?」
「自警団の方が武器を沢山買ってくれたのが大きかったですね」
「そうだな。こんな国の端っこの方の村まで国内の不穏さを感じているのか?」
「どう……なのでしょうか?」
見た目としては国は落ち着いているように見える。
街道もきちんと整備されていて、旅も快適だ。
快調に飛ばした俺たちはその日の夕方前に次の村についた。
そこの村には流行り病に冒されていた少年がいた。
俺たちは薬もたくさん仕入れていたから、少年に薬を飲ませることができた。
あと二、三日遅ければ危なかったと家族から何度も何度も礼を言われた。
セフィーはその日を境に、たまに暗い顔をして考えごとをしていることが増えた。
あの少年に恋をしたなんてことはないだろうから、多分商売についてなんだろう。
どうしたんだ?って聞くのは簡単だけど……でも何かを聞いてくるまでは自分で考えさせてあげたほうがいいかもしれないな。
こうして俺たちの行商の旅は順調に進んでいた。
食事も馬車の中で作れるようになったし、各自それぞれの部屋もある(まぁフィズだけは相変わらず俺と一緒に寝ている)。
お陰でリリアは馬車からあまり出なくて良くなり、魔獣に襲われることもほとんどなかった。
襲撃されたのは一度だけで、リリアら女性陣が川で水浴びをしている最中だった。
サクッと倒しておいたけど、リリアが外に出たとたんにこれだし、やはり馬車の中にいるときは【生贄】が機能をしていないように思えるな。
だんだんと国の中心へ近づくにつれ、食料品や嗜好品よりも武器や薬が売れるようになってきた。
各村々の警戒も高まっているようで、行商人といえど諸手を挙げて歓迎するような空気ではなくなってきているのも感じていた。
「もう少しかぁ……はぁ」
「ん? どうした?」
今日の販売が終わったあたりでセフィーの呟きが聞こえた。
「え、ええっと、もうこんな夢のような時間も終わっちゃうんだなぁ……って思ったら溜め息が出ちゃいまして」
「そうか、もう近いのか?」
「この先には村がなかったように思いますのでおそらく明日か明後日には……」
その言葉を聞いた俺はセフィーの頭をひとつ撫でて、そして涙を拭ってやった。
「そうかお疲れさん。商人はどうだった?」
「……思っていたよりも大変でした」
「嫌になったか?」
「いいえ、逆にもっともっと好きになりましたっ! 困っている人を助けられて、喜んでもらえてなんて素晴らしいのかと。でもわたしはもうすぐ鳥かごの中です……」
「鳥かごか……」
「それからはこの楽しかった日々を思い出すことしかできなくなるでしょう。本当はこのまま家に帰らないで連れて行ってほしいですっ!」
「そ、それは……」
「いえ、分かっています。ちゃんと、ちゃんとしなければ……」
セフィーという少女はそういうと口をきゅっと結ぶ。
その瞳にはもう涙はなかった。
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