御者転生 〜俺が勇者より強いのはわかったから、そんなことより人を運ばせてくれ〜

梓川あづさ

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ロッカの街〜アイオール皇国

第28話 獅子城

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 アイオリア——そこはアイオール皇国の中心であり、首都だ。
 勇壮に建つ城——獅子城と呼ばれているらしい——を囲むようにして円形に広がる城下町はかなりの広さがあるように見えた。
 地形的に守りに適しているとは言い難い場所に作られた首都を守るためか、かなり高い壁で街を囲んでいるのが印象的だった。

「ふぅ、ロールヒルを出てから二週間と少し。ようやく着いたといえばいいか、もう着いてしまったといえばいいか……」

 そんな俺の呟きを拾ったフィズが、馬車をひきながら振り向いて口を開こうとした。
 それ見た俺は、慌ててフィズのお尻に手を伸ばすと心の中で会話をする。

『おい、今は喋っちゃダメだぞ』
『あ、そうね。危なかったわ』

 今は街に入るための馬車列に並んでいて、次が俺たちの順番だった。
 どうやらここアイオールという国は人間至上主義のようで魔族はおろか、獣人、亜人すらも迫害の対象にしているらしいので、フィズが馬で喋っているのを見咎められたら街に入ることすらままならないからな。

「よし、次っ」

 ようやく俺たちの順番になった。
 厳戒態勢下だからかは知らないが、ここに列にならんでから三時間ほどしてようやくだ。
 フィズの尻を撫でるように叩くと、馬車を進ませる。
 門の中はちょっとしたスペースがあって、その奥にも門がある。
 どうやらここで積荷や乗客を検めるようだな。

「身分証を見せろ」

 どこか居丈高いだけだかな態度で兵士が指示をしてくる。
 それに反抗してもしかたないので俺は黙って商人の証であるタグを見せた。

「ふん、商人だな。客車を検めるぞ」
「それはいいですけど高貴な方も乗っているので丁寧にお願いしますね」

 フィズは幻獣種のユニコーン、ゴンザさんはドワーフの亜人、ジャックとローズは魔族という危ない組合わせなので問題が起こる可能性があるから、少し身構えながら兵士たちを馬車の中に案内した。
 先に積荷を検めるというので馬車の倉庫として使っている部屋に案内した。
 扉に入った途端、広がるホールのような光景を目にした兵士達はどよめいた。

 馬車の中は走る度にその広さを拡大し続けていて、今は小さな屋敷くらいの広さがある。
 ホールから左右に伸びた通路に各部屋があるという見た目からは絶対に考えられない状況に兵士たちの目が鋭くなった。

「おい、これはなんだ!?」
「これ、というと何でしょうか?」
「この馬車は何なんだ、と聞いたんだ!」
「と、言われましても……俺の商売道具の魔道具ですが」
「馬車の魔道具だとぉ? そんなもの聞いたこともないわっ!」
「隊長、こいつは怪しいのではありませんか!? もしや魔族と繋がっているのやも……」

 どうしてそうなるんだ……俺は溜め息をつきそうになった。
 そんな時、ホールに少女の声が響き渡った。

「なんですか? 騒々しいですね。ようやく国に帰ってこれたので、早くお父様方に会いたいのですが?」

 隊長と呼ばれていた男はその声の主を見ると顔色を変えた。

「セ、セフィラス様っ!? 盗賊にさらわれてしまったと聞きましたが……」
「ええ。盗賊に捕まっていたところをこの人らに救われたのです」
「なんと……」
「私の恩人なのですが、まだ検める必要がありますか? 私は早く帰りたいのですが」
「で、では我々で送らせて頂きます!」
「その必要はありません。これからこの方たちにお礼もしたいので我が家へ招くつもりですので、このまま送ってもらいます」
「ですが……」
「くどいですっ!」

 なおも引き下がろうとする兵士にセフィーはピシャリと言い放った。
 結局、それがきっかけとなって兵士はそれ以上の抗弁をすることなく俺たちを街へ入れることにしたらしい。

「セフィー、助かったよ」
「それなら良かったです。あと少し、宜しくお願いしますね」

 セフィーは悲しみをたたえたその瞳を隠すように顔を伏せながらそういった。

 街に入ると、セフィーの案内に従ってセフィーの自宅を目指すことにした。
 どうやら門衛ですらセフィーを知っているようだったからきっと大きい家なのだろう。

 そんな俺の想像は甘かったとしかいいようがない。

「えぇ……これがセフィーの家、か?」

 客席につづく小窓を開けてセフィーに再度確認をとるが、セフィーはやはり頷いた。

「ええ、そうです」

 それは——城だった。
 かなり遠くからでもはっきりと視認できる程の大きさを持った、獅子城と呼ばれているその城だった。

「あれ、言っていませんでしたか? 私はアイオール第六皇女、セフィラス=アイオライトです」
「……ってことは馬車にはお姫様が二人乗っていたってわけかよ……」

 俺はそう呟きながら、セフィーの顔を見た。
 最初に見た時はボロを着ていたからとてもそうは見えなかったが、可愛らしい服に着替えてからは、確かに姫だと言われればそうも見えるか。

 精力的に、情熱的に商人をっていたセフィーを思い出すと、そりゃ商人なんてできる訳がないよな……と悲しくなった。
 そんな俺に気付いたのか、セフィーはやけに明るい声で『それじゃあ行きましょう』といった。

 城に近づくと、誰何される前にセフィーが馬車の窓から顔を覗かせる。

「なっ! あの馬車……セフィラス様が乗っているぞっ!?」
「はぁ……? そんなわけ……あった……っ!」

 城を守る兵士たちはセフィーを見定めると、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
 俺はどうしていいか分からなかったから待機していると、ややあって城の門がゆっくりと開きはじめる。
 開いた門から現れたのは、美しいドレスをまとった女性。
 顔がやや疲れているように見えるのは気のせいだろうか。

「お、お母様っ!」

 セフィーがそう叫ぶと、その女性は馬車に駆け寄ってきてセフィーの手をそっと握った。
 どうやらセフィーのお母さんだったようだ。
 つまり……皇后ということになるのか?

「セフィー、無事だったのですね! どれだけ心配したか……」
「心配させてごめんなさい、お母様」
「いいえ、あなたのせいではないでしょう? 詳しい話は……中でしましょう」

 それを聞いたセフィーが頷いて合図をしてくれたので、俺はフィズの尻を撫でて馬車を城の中へと進ませる。
 こうして俺たちは獅子城の中へ入ったのだった。
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