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アイオール皇国〜ニエの村
第36話 神の住む山
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「ん……んん」
「ご主人さま、セフィーが目を覚ましたわよっ!」
俺はフィズの声を聞くと、話をしていたゴンザさんに断って部屋に戻った。
「ここ……は?」
「目が覚めたか。ここは馬車の中だ」
「あれ、兄様……ゼルディアは?」
セフィーはあえて名前を言い直した。
お互いにあまりいい感情を持ってなさそうだったし自然といえば自然か。
「なんか俺たちを倒したと思ったのかいなくなったな」
「そう……ですか。ご迷惑をおかけして——」
「いい、そんなことはいわなくていいんだ。だって仲間になったんだろ? なら沢山迷惑をかけていい。その代わり誰かが困った時はみんなで助けるんだ」
そういうとセフィーは照れたように顔を赤くして笑った。
「仲間…………そういってくれて嬉しい、です」
「それより体調はどうだ? セフィーは毒の矢を受けて危ないところだったんだぞ」
「毒?」
セフィーは顔を青ざめさせて、自分の体を確認している。
どうやら毒で苦しんでいた時のことは覚えていないようだ。
その方がいいだろうな。思い出して苦しむ必要はない。
「毒はフィズが浄化してくれたから大丈夫だとは思うが……体調が変だったら早めにいうんだぞ」
「フィズさんが……ありがとうございます」
「いいのよ、フィズも役に立てて嬉しかったし」
フィズはそういってセフィーの頭をくしゃりと撫でた。
きっと自分がしてもらって嬉しいことをしてやったんだと思う。
傍から見たら二人は姉妹みたいだな。
セフィーは目覚めてしばらくすると、ベッドから起き出してきた。
無理をするなといったけど、フィズとローズの献身もあって体調がいいようだったので、うるさくいうのはやめた。
「じゃあセフィーも元気になった事だしこれからのことを話そうと思う」
俺は馬車の中の食堂に集まったみんなに向けてそういった。
そう、馬車はアイオールを出てしばらくしてからまた増築されたのだ。
今回増築されたのはかなり広い部屋だったので、相談の結果、食堂として使うことになった。
今はその食堂でのはじめての会議になる。
「まず、今俺たちがいるのはアイオール南部だ」
俺は現状を知らないセフィーにも分かりやすいように確認を含めて話しはじめた。
「アイオール南部……ですか? ではもうすぐドライエントですね」
「ああ。それはそうなんだが……ドライエントに続く橋が壊されていたんだ」
「ゼルディアの仕業……でしょうか?」
「それは分からないが、渡れないことには仕方がない」
そういうとセフィーは唇を噛んだ。
自分が悪いわけじゃないのに、ちょっと責任を感じているようだ。
気にしなくていいといったのにな。
「まぁそんなわけで北へいって帝国側から入ることも考えたんだが、あえてその逆を行くことにした」
「逆といいますと……?」
「山だな。南にある山の稜線を伝うようにしてドライエントに入ろうと思っている。ミルカはあの山を越えてリベールに来たらしいし行けないこともないはずだ。そうだよな?」
「ああ。私は確かに山を越えた。でもあの時は姫様のことで頭がいっぱいだったからな……」
ミルカは難しそうな顔をしてそういった。
「難しそうか?」
「いや、休むときはこうやって馬車で休めるし大丈夫だとは思うが……」
「何か問題があるのか?」
「さっきもいったようにあの時じゃ頭がいっぱいだったから忘れていたんだ」
「何をだ?」
「この山脈はこう呼ばれているんだ”神の住む山”ってな」
神の住む山……どういう意味かを問うと、イマイチ要領を得ない答えが返ってきた。
曰く誰もいないのに人のような声が聞こえることがあるらしい。
神聖な山に立ち入るな、という警告と共に吹雪が吹き荒れることすらあるそうだ。
「ならやめておいた方がいいか? 北まで大きく迂回することも出来なくはないが……」
「いや、この話もどこまでが本当か分からないからな……。私の時は大丈夫だったし、案外ただの作り話の可能性もある」
「じゃあ頭の片隅にいれつつ山を行くということでいいか」
「ああ、その方が早いだろうしな」
「あ、でも山登りをするのでしたら馬車はどうするのですか?」
俺とミルカが話していると、セフィーがそんなことを聞いてきた。
「ほら、忘れているのか?」
「……あ、小さくすればいいんですね!」
「そういうことだ。食事や寝る時だけ大きくすればいい。それどころかリリアとセフィーは馬車の中にいてもらう予定だ」
俺がそういうとセフィーは「そんなこともできるんですね!」と関心してくれた。
こうして明日からの予定を確認し合った俺たちは食事を摂ることにした。
馬車の中で食事ができるというのはいいものだな。
部屋もあるし、厨房も食堂もある、となるともう家が移動しているのと大して変わらない。
馬車さえあれば、どこかに腰を落ち着けるのも簡単そうだ。
リリアの作った美味しい夕食が終わると、ローズがお茶を入れてきてくれた。
ローズはリリアがいなくなった時に備えて今日も料理の手伝いをしていたらしい。
有り難いことだ。
「ドライエントってどういうところなのですか?」
お茶を飲みながらセフィーがリリアに聞いている。
「そうですねぇ、小さい国ですけど豊かではあるはずですよ。山からは鉱物が採れるし、土地は肥沃ですからね」
「それは素敵ですね、行くのが楽しみになりましたっ!」
「お菓子も美味しいから戻ったら一緒に食べましょうね」
「はい、お姉様。甘いものは大好きですから期待していますっ!」
セフィーはそう無邪気に笑っているけど、俺は笑う気になれなかった。
だってドライエントについたらリリアは生贄のその職務を果たそうとするだろうから。
なんとかできないものだろうか……?
馬車にリリアを詰め込んでおけば旅を続けることは簡単だ。
しかしそれじゃリリアの気持ちを踏みにじることになる。
もっと根本的な解決法じゃないと何の意味もないだろう。
俺は結局自分がどうしたいのか、にすら答えをだせない。
「はぁ……」
溜め息を一つついて、俺は温くなった紅茶に口を付けた。
「ご主人さま、セフィーが目を覚ましたわよっ!」
俺はフィズの声を聞くと、話をしていたゴンザさんに断って部屋に戻った。
「ここ……は?」
「目が覚めたか。ここは馬車の中だ」
「あれ、兄様……ゼルディアは?」
セフィーはあえて名前を言い直した。
お互いにあまりいい感情を持ってなさそうだったし自然といえば自然か。
「なんか俺たちを倒したと思ったのかいなくなったな」
「そう……ですか。ご迷惑をおかけして——」
「いい、そんなことはいわなくていいんだ。だって仲間になったんだろ? なら沢山迷惑をかけていい。その代わり誰かが困った時はみんなで助けるんだ」
そういうとセフィーは照れたように顔を赤くして笑った。
「仲間…………そういってくれて嬉しい、です」
「それより体調はどうだ? セフィーは毒の矢を受けて危ないところだったんだぞ」
「毒?」
セフィーは顔を青ざめさせて、自分の体を確認している。
どうやら毒で苦しんでいた時のことは覚えていないようだ。
その方がいいだろうな。思い出して苦しむ必要はない。
「毒はフィズが浄化してくれたから大丈夫だとは思うが……体調が変だったら早めにいうんだぞ」
「フィズさんが……ありがとうございます」
「いいのよ、フィズも役に立てて嬉しかったし」
フィズはそういってセフィーの頭をくしゃりと撫でた。
きっと自分がしてもらって嬉しいことをしてやったんだと思う。
傍から見たら二人は姉妹みたいだな。
セフィーは目覚めてしばらくすると、ベッドから起き出してきた。
無理をするなといったけど、フィズとローズの献身もあって体調がいいようだったので、うるさくいうのはやめた。
「じゃあセフィーも元気になった事だしこれからのことを話そうと思う」
俺は馬車の中の食堂に集まったみんなに向けてそういった。
そう、馬車はアイオールを出てしばらくしてからまた増築されたのだ。
今回増築されたのはかなり広い部屋だったので、相談の結果、食堂として使うことになった。
今はその食堂でのはじめての会議になる。
「まず、今俺たちがいるのはアイオール南部だ」
俺は現状を知らないセフィーにも分かりやすいように確認を含めて話しはじめた。
「アイオール南部……ですか? ではもうすぐドライエントですね」
「ああ。それはそうなんだが……ドライエントに続く橋が壊されていたんだ」
「ゼルディアの仕業……でしょうか?」
「それは分からないが、渡れないことには仕方がない」
そういうとセフィーは唇を噛んだ。
自分が悪いわけじゃないのに、ちょっと責任を感じているようだ。
気にしなくていいといったのにな。
「まぁそんなわけで北へいって帝国側から入ることも考えたんだが、あえてその逆を行くことにした」
「逆といいますと……?」
「山だな。南にある山の稜線を伝うようにしてドライエントに入ろうと思っている。ミルカはあの山を越えてリベールに来たらしいし行けないこともないはずだ。そうだよな?」
「ああ。私は確かに山を越えた。でもあの時は姫様のことで頭がいっぱいだったからな……」
ミルカは難しそうな顔をしてそういった。
「難しそうか?」
「いや、休むときはこうやって馬車で休めるし大丈夫だとは思うが……」
「何か問題があるのか?」
「さっきもいったようにあの時じゃ頭がいっぱいだったから忘れていたんだ」
「何をだ?」
「この山脈はこう呼ばれているんだ”神の住む山”ってな」
神の住む山……どういう意味かを問うと、イマイチ要領を得ない答えが返ってきた。
曰く誰もいないのに人のような声が聞こえることがあるらしい。
神聖な山に立ち入るな、という警告と共に吹雪が吹き荒れることすらあるそうだ。
「ならやめておいた方がいいか? 北まで大きく迂回することも出来なくはないが……」
「いや、この話もどこまでが本当か分からないからな……。私の時は大丈夫だったし、案外ただの作り話の可能性もある」
「じゃあ頭の片隅にいれつつ山を行くということでいいか」
「ああ、その方が早いだろうしな」
「あ、でも山登りをするのでしたら馬車はどうするのですか?」
俺とミルカが話していると、セフィーがそんなことを聞いてきた。
「ほら、忘れているのか?」
「……あ、小さくすればいいんですね!」
「そういうことだ。食事や寝る時だけ大きくすればいい。それどころかリリアとセフィーは馬車の中にいてもらう予定だ」
俺がそういうとセフィーは「そんなこともできるんですね!」と関心してくれた。
こうして明日からの予定を確認し合った俺たちは食事を摂ることにした。
馬車の中で食事ができるというのはいいものだな。
部屋もあるし、厨房も食堂もある、となるともう家が移動しているのと大して変わらない。
馬車さえあれば、どこかに腰を落ち着けるのも簡単そうだ。
リリアの作った美味しい夕食が終わると、ローズがお茶を入れてきてくれた。
ローズはリリアがいなくなった時に備えて今日も料理の手伝いをしていたらしい。
有り難いことだ。
「ドライエントってどういうところなのですか?」
お茶を飲みながらセフィーがリリアに聞いている。
「そうですねぇ、小さい国ですけど豊かではあるはずですよ。山からは鉱物が採れるし、土地は肥沃ですからね」
「それは素敵ですね、行くのが楽しみになりましたっ!」
「お菓子も美味しいから戻ったら一緒に食べましょうね」
「はい、お姉様。甘いものは大好きですから期待していますっ!」
セフィーはそう無邪気に笑っているけど、俺は笑う気になれなかった。
だってドライエントについたらリリアは生贄のその職務を果たそうとするだろうから。
なんとかできないものだろうか……?
馬車にリリアを詰め込んでおけば旅を続けることは簡単だ。
しかしそれじゃリリアの気持ちを踏みにじることになる。
もっと根本的な解決法じゃないと何の意味もないだろう。
俺は結局自分がどうしたいのか、にすら答えをだせない。
「はぁ……」
溜め息を一つついて、俺は温くなった紅茶に口を付けた。
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