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アイオール皇国〜ニエの村
第38話 ニブルヘイム
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「キサマ……我ノ尻尾デナニヲシテイル?」
いきなり襲いかかってきそうなくらい牙を剥いていたはずのフェンリルは、意外にもまずは対話を選んだらしい。
「何って……魔物避けだよ。お前はなかなか強かったし、その匂いでも漂ってりゃ少しは効果があるんじゃないか? ってな」
「フザケテイルノカ?」
「いや、そんなつもりはないんだが……それにお前の尻尾、また生えてきてるからいいだろう」
目の前の狼は尻尾を逆立てて、鼻息を荒くしている。
認めてやっているつもりだったんだけど、なぜかますます怒らせてしまったようだ。
「生エタカラ許サレルトイウモノデハ無イ。アノ日、逃ゲルシカナカッタ我ガ恥ナルゾ?」
「なんでだよ、結局は俺も仕留めきれなかったし引き分けだろ」
「グ……愚弄スルナァッ!」
「結局何をいってもダメじゃないか……俺たちは少し休んだらすぐに出ていく。それでいいだろう?」
「逃ガスト思ウカ?」
「はは。それが前に逃げたヤツのいう台詞か?」
結局のところこいつはやる気満々というわけだ。
じゃあ四の五の言わずにかかってくればいいのにな。
そんな俺の心を読み取ったかのようにフェンリルは地面を蹴った。
「黙レェッ!!」
そんな絶叫に似た叫びと共に、フェンリルは牙を剥き出しにして襲いかかってきた。
正直なことをいうと、実家で飼っていた犬にちょっと似ているから傷付けたくはない。
でも向こうは俺を食い殺さんとしているから……仕方がないか。
俺はフェンリルの噛みつきを、サイドステップでかわしながら腰の鞭を手にした。
この前、鉄巨人に苦戦したことを反省して馬車ではずっと鞭を触っていた。
だからもうこの鞭が普通の鞭じゃない事を知っている。
そもそも女神様がくれた鞭なんだからもっと早く色々試さないといけなかった。
「モードチェンジ——ソードッ!」
別にわざわざそんな事をいわなくても形を変えてくれるんだけど、こういうのは気分だ。
鞭は、俺の思い描いた通りに形を変えると剣になった。
やっぱり何度見てもまさに異世界って感じでテンションがあがる。
「はっ!」
俺は短く息を吐いて、着地をしたばかりのフェンリルに斬りかかった。
フェンリルは鞭が突然剣になったことで驚いたのか一瞬反応が遅れる。
——ギャリリッ。
タイミング的に殺ったと思ったけど、フェンリルは自分の前にブ厚い氷の塊を出してそれを防いでいた。
「こいつ、魔法も使えるのかッ!? だけどこんなもんじゃ止められねぇぞ!」
俺は剣を持つ手に力を込めると分厚い氷を一気に切り裂く。
「グゥゥッ!」
フェンリルも自慢の氷を切り裂かれることは想定していなかったか、その場を動くことが出来なかったようだ。
結果として俺はフェンリルの左足の付け根辺りを深く斬ることが出来た。
でもこんなもんじゃ足りない。
フェンリルの足についた傷から白い煙が立ちのぼる。
これは傷を癒やしているサインだ。
「させるかッ!」
俺は振り切った剣を引き戻すと、その切っ先をフェンリルに向けた。
「伸びろッ!」
鞭は俺の意思に正しく応じてくれた。
その剣先はフェンリルに向けて伸び、その体を貫かんとする。
フェンリルは慌てたように体を傾け、どうにか致命傷は免れたようだ。
だが、その体からは少なくない血が流れている。
さらに、そこへフィズが突っ込んでいく。
「えいっ!」
そんな可愛らしい掛け声とともに、風を巻き起こすほどの蹴りが放たれた。
「ギャンッ!」
フェンリルはフィズの蹴りをまともに食らい、積もっていた雪の上を転がるようにして吹っ飛んでいった。
「フィズ、よくやった」
「ええ。ご主人さまとはじめての共同作業ね!」
それはちょっと違うような気がするけど……まぁいっか。
「娘……何故ソノ男ノ味方ヲスル? オ前モ我トオナジ幻獣種ダロウニ……」
フェンリルはフラフラと立ち上がりながらフィズへ疑問を投げかけた。
フィズは何を当たり前のことを言っているんだ、とでもいうような顔をして答える。
「だって、カケルは私のご主人さまだもの」
「フッ……キサマニハプライドガ無イヨウダ……ソレナラ遠慮モイラヌカ」
フェンリルはそんな不穏な事をいうとカアッと目を見開いた。
一体に何をしてくるつもりだろうか……何にしても碌なことにならなそうだ。
なら先手必勝だ。
「させるかよっ!」
俺はフェンリルに向かって走りだそうとした。
しかしその瞬間——世界が凍った。
一瞬にして体の表面が凍りつき、俺は動くことままならない。
視線だけで周りを見ると、フィズとジャックの体を厚い氷が覆っているのがみえた。
「フハハ。我ガニブルヘイムハドウダ?」
「おい、フィズ! ジャック!!」
俺は動かぬ二人に声を掛ける。
しかし二人は氷の牢獄に囚われていて声を出すことすら出来ないようだ。
「おい……二人を元に戻せ……」
「馬鹿ナ事ヲイウナ。キサマヲ殺シタ後デユックリ食ラッテヤルサ」
「…………せるか……」
「モウ声モ出セナイカ? デハ喉笛ヲ食イチギッテヤロウ」
「そんなこと……させるかぁぁ!!」
俺は怒りのままに自分を縛る氷の鎖をブチ破る。
「マ、マサカソンナ事ガ……」
ふと視界に入った火龍の外套からは湯気が立ち上っている。
もしかしたらこれのおかげで俺は完全に凍りつかずにすんだのかもしれない。
「二人を戻さなかったら酷い目に合わせてやるぞ……」
「ナ、ナニヲスルツモリダ!?」
自信があったであろう必殺の魔法を破った俺をみて、フェンリルは畏れを抱いたようだ。
その足はガクガクと震え、尻尾は丸まってしまっている。
でも大切な仲間にあんなことをした犬ッコロを俺は許さないぞ。
「決まっているだろう——お仕置きだ」
いきなり襲いかかってきそうなくらい牙を剥いていたはずのフェンリルは、意外にもまずは対話を選んだらしい。
「何って……魔物避けだよ。お前はなかなか強かったし、その匂いでも漂ってりゃ少しは効果があるんじゃないか? ってな」
「フザケテイルノカ?」
「いや、そんなつもりはないんだが……それにお前の尻尾、また生えてきてるからいいだろう」
目の前の狼は尻尾を逆立てて、鼻息を荒くしている。
認めてやっているつもりだったんだけど、なぜかますます怒らせてしまったようだ。
「生エタカラ許サレルトイウモノデハ無イ。アノ日、逃ゲルシカナカッタ我ガ恥ナルゾ?」
「なんでだよ、結局は俺も仕留めきれなかったし引き分けだろ」
「グ……愚弄スルナァッ!」
「結局何をいってもダメじゃないか……俺たちは少し休んだらすぐに出ていく。それでいいだろう?」
「逃ガスト思ウカ?」
「はは。それが前に逃げたヤツのいう台詞か?」
結局のところこいつはやる気満々というわけだ。
じゃあ四の五の言わずにかかってくればいいのにな。
そんな俺の心を読み取ったかのようにフェンリルは地面を蹴った。
「黙レェッ!!」
そんな絶叫に似た叫びと共に、フェンリルは牙を剥き出しにして襲いかかってきた。
正直なことをいうと、実家で飼っていた犬にちょっと似ているから傷付けたくはない。
でも向こうは俺を食い殺さんとしているから……仕方がないか。
俺はフェンリルの噛みつきを、サイドステップでかわしながら腰の鞭を手にした。
この前、鉄巨人に苦戦したことを反省して馬車ではずっと鞭を触っていた。
だからもうこの鞭が普通の鞭じゃない事を知っている。
そもそも女神様がくれた鞭なんだからもっと早く色々試さないといけなかった。
「モードチェンジ——ソードッ!」
別にわざわざそんな事をいわなくても形を変えてくれるんだけど、こういうのは気分だ。
鞭は、俺の思い描いた通りに形を変えると剣になった。
やっぱり何度見てもまさに異世界って感じでテンションがあがる。
「はっ!」
俺は短く息を吐いて、着地をしたばかりのフェンリルに斬りかかった。
フェンリルは鞭が突然剣になったことで驚いたのか一瞬反応が遅れる。
——ギャリリッ。
タイミング的に殺ったと思ったけど、フェンリルは自分の前にブ厚い氷の塊を出してそれを防いでいた。
「こいつ、魔法も使えるのかッ!? だけどこんなもんじゃ止められねぇぞ!」
俺は剣を持つ手に力を込めると分厚い氷を一気に切り裂く。
「グゥゥッ!」
フェンリルも自慢の氷を切り裂かれることは想定していなかったか、その場を動くことが出来なかったようだ。
結果として俺はフェンリルの左足の付け根辺りを深く斬ることが出来た。
でもこんなもんじゃ足りない。
フェンリルの足についた傷から白い煙が立ちのぼる。
これは傷を癒やしているサインだ。
「させるかッ!」
俺は振り切った剣を引き戻すと、その切っ先をフェンリルに向けた。
「伸びろッ!」
鞭は俺の意思に正しく応じてくれた。
その剣先はフェンリルに向けて伸び、その体を貫かんとする。
フェンリルは慌てたように体を傾け、どうにか致命傷は免れたようだ。
だが、その体からは少なくない血が流れている。
さらに、そこへフィズが突っ込んでいく。
「えいっ!」
そんな可愛らしい掛け声とともに、風を巻き起こすほどの蹴りが放たれた。
「ギャンッ!」
フェンリルはフィズの蹴りをまともに食らい、積もっていた雪の上を転がるようにして吹っ飛んでいった。
「フィズ、よくやった」
「ええ。ご主人さまとはじめての共同作業ね!」
それはちょっと違うような気がするけど……まぁいっか。
「娘……何故ソノ男ノ味方ヲスル? オ前モ我トオナジ幻獣種ダロウニ……」
フェンリルはフラフラと立ち上がりながらフィズへ疑問を投げかけた。
フィズは何を当たり前のことを言っているんだ、とでもいうような顔をして答える。
「だって、カケルは私のご主人さまだもの」
「フッ……キサマニハプライドガ無イヨウダ……ソレナラ遠慮モイラヌカ」
フェンリルはそんな不穏な事をいうとカアッと目を見開いた。
一体に何をしてくるつもりだろうか……何にしても碌なことにならなそうだ。
なら先手必勝だ。
「させるかよっ!」
俺はフェンリルに向かって走りだそうとした。
しかしその瞬間——世界が凍った。
一瞬にして体の表面が凍りつき、俺は動くことままならない。
視線だけで周りを見ると、フィズとジャックの体を厚い氷が覆っているのがみえた。
「フハハ。我ガニブルヘイムハドウダ?」
「おい、フィズ! ジャック!!」
俺は動かぬ二人に声を掛ける。
しかし二人は氷の牢獄に囚われていて声を出すことすら出来ないようだ。
「おい……二人を元に戻せ……」
「馬鹿ナ事ヲイウナ。キサマヲ殺シタ後デユックリ食ラッテヤルサ」
「…………せるか……」
「モウ声モ出セナイカ? デハ喉笛ヲ食イチギッテヤロウ」
「そんなこと……させるかぁぁ!!」
俺は怒りのままに自分を縛る氷の鎖をブチ破る。
「マ、マサカソンナ事ガ……」
ふと視界に入った火龍の外套からは湯気が立ち上っている。
もしかしたらこれのおかげで俺は完全に凍りつかずにすんだのかもしれない。
「二人を戻さなかったら酷い目に合わせてやるぞ……」
「ナ、ナニヲスルツモリダ!?」
自信があったであろう必殺の魔法を破った俺をみて、フェンリルは畏れを抱いたようだ。
その足はガクガクと震え、尻尾は丸まってしまっている。
でも大切な仲間にあんなことをした犬ッコロを俺は許さないぞ。
「決まっているだろう——お仕置きだ」
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