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第四十八話 「そんなに怯えないで」※

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 エサイアスが予測したとおり、病院の医師は青筋を立てながら、翌朝ひょっこり戻ってきたラウリに自宅療養を命じた。ほとんど傷の癒えた彼は、雪かきする以外はアンニーナの傍でゴロゴロしている。王都に住んでいた頃の夫は家には寝に帰るだけだったので、あまりの変貌ぶりにアンニーナは大きなネコ科の動物を飼っている錯覚に陥った。

 ――そろそろ仕事に復帰してくれないかしら?

 『亭主留守で元気がいい』とは言い得て妙だ。いくら好きな相手でも、ずっとべったりはしんどい。そんなある日の午後、エサイアスが見舞いに訪れた。

「ふうん、……良く寝てますね」
「すみません、確かにさっきまで起きていたんですが」

 アンニーナがお茶を用意している間、エサイアスは寝室を覗く。ラウリは、ダブルベッドの中央で大の字になってぐっすり眠っていた。

「僕には好都合ですよ」
「とんでもないです、エサイアス様をお待たせして。あなた、起きてくださ――」
 
 身を屈めたアンニーナだが、突然背後から抱きしめられる。爽やかな芳香に包まれると、気分がふわっと舞い上がった。

 ――これが、エサイアス様の『微量の薬草とアルコール』の香り?

 アンニーナはうっとりしかけたものの、ハッと我に返る。
 
「ダ……ダメです……っ、離してください……っ」
「ずっと会いたかったです、アン」
 
 顎を取られ、キスされそうになった。顔の温度が確実に二度上昇した彼女は、慌てて両手で遮る。近い、天使の微笑みが近すぎる。

「いけません、だめです」
「離れている間、ずっとあなたに触れたかったです」
「わたし、エサイアス様とこういうことは、もう……」

 ラウリを許した以上、アンニーナは貞淑な妻に戻るのだ。見目麗しい夫が自分に飽きて、またどこかで浮気してないかと不安を抱えながらも、波風を立てずありふれた日常を送るのだ。
 エメラルドグリーンの瞳が近くで瞬いたと思ったら、両手を合わされ腕を開かれる。驚く間もなく瑞々しい唇を押し当てられ、背筋がぞくっと震えた。口では拒否しながらも、身体と心がエサイアスを求めている。彼女の気持ちはどっちつかずだ。ラウリに一生を捧げると決めたのに、エサイアスのことが忘れられない。だったら、エサイアスを選べばよかったんじゃないかと自問すると、それもまた違う。
 彼がキスの角度を変えようと唇を離した隙に、アンニーナは顔を背ける。

「や……離して、ください……っ」
「今、このタイミングで補佐官に起きられてもいいんですか?」

 青年の囁きに、彼女の肩がビクッと震えた。夫にこんな場面を見られたくない。アンニーナが不倫して帰った夜のラウリは本当に怖かった。
 半ばラウリを人質に取られた形で、アンニーナはエサイアスのキスに受けた。柔らかく唇をすり合わせられると、否応もなく心が甘く満たされる。歯裏をなぞられると、下腹がズクンッとうずいた。彼女の反応を知り、エサイアスの舌の動きが大胆になる。熱い吐息と共に舌を絡められ、最後に下唇を赤くなるほど吸われた。

「ん……んっ」

 くちゅっとした水音が、狭い寝室に広がる。エサイアスのキスは強引で執拗で、抗おうにも抗えない。アンニーナはめくるめく陶酔に飲み込まれ、唇を離されても放心状態が続いた。

「はぁ……んんっ、エサイ、アスさま……っ」
「可愛い人ですね、アン。あなたには僕が必要なはずだ」

 いつの間にか全身の力が抜け、腰がくったりしてしまった。
 
「んん……っ」
「僕を受け入れてくれますよね?」

 彼女は流されるまま、コクンと頷く。その途端、エサイアスの顔には昏い微笑みが浮かんだが、彼の胸で息を整えているアンニーナには見えていなかった。そしてまた、寝ているはずのラウリの眉間にひどい皺が寄ったことも。

「エサイアス様……? きゃ……っ!」

 アンニーナは荒い息を吐く。これでやっと情事は終わりかと思いきや、エサイアスは彼女を寝台へ乗り上げさせ四つん這いにさせる。そう、ラウリのうえにだ。アンニーナの両手は夫の顔の横に、両膝は脇腹と腕の間に置かれている。
 ラウリの寝顔を間近で見下ろす姿勢に、アンニーナの顔からは一気に血の気が引いた。

「エサイアス様……っ!」

 後ろを向いて小声で抗議するものの、エサイアス自身も寝台に乗り上げ、その両手が躊躇いもなくアンニーナの腰に固定された。眠る夫のうえでスカートをめくりあげられ、下穿きに触られる。
 エサイアスの意図を察したアンニーナは、恐怖に喉がひきつった。

「や、……やめて、ください」
 
 こんな破廉恥なことを、誰が予測しただろうか。夫の寝顔を見下ろしながら、別の男性に下着を抜かれるなど。彼女の下穿きが足から抜かれ、哀れにも床に投げ捨てられる。

「や……っ」

 尻を突き出す姿勢をとらされ、エサイアスの両手に尻肉を掴まれた。

「ひぃ……っ、な、なにを……っ!」

 ぬるっと生暖かい感触にうしろを向いたアンニーナは絶望する。エサイアスの舌が、彼女の秘所を行き来しているではないか。ヒルのように吸い付いて、ちゅうっと愛液を吸われた。

 ――ダメ、声が出ちゃう!

 敏感な場所にぬるりとした感触が這いまわり、こちらの息が荒くなる。舌の先で入り口をつつかれ、にゅるっとなかまで入ってくる。アンニーナの腕はガクガクして、もう力が入らなかった。このままだとラウリの胸の傷に接触してしまう。夫の寝顔は穏やかなまま、目を開けてこの光景を見たらどう豹変するかと考えると生きた心地がしなかった。
 
「ひぃ……」
「そんなに怯えないで、アン」
「お願い、……やめてください」

 怖すぎて、涙が出てくる。生暖かい舌が蜜壺を上下し、トロリと愛液が零れるのを感じた。ぎゅっと目を瞑って快感をこらえる。涙が頬を伝い、ついには夫のひきつる顔に落下したが、限界まで追い詰められたアンニーナはそれに気が付かない。

「だめです、エサイアスさま……おねがい、やめて……っ」

 これ以上刺激されたら、夫の上でイってしまう。そんな破廉恥なこと、アンニーナの許容範囲をとうに超えている。なのに、エサイアスは舌で弄ぶだけではなく、指を使い始めるではないか。

「補佐官を見下ろしながらいじられるの、興奮しますか? アンのここ、すごく濡れてる」
「んっ、ちが……っ、やめ……っ」

 指がぐにゅっと媚肉をかき分けながら、奥を突いてくる。刺激されるたびに愛液が増して、恥ずかしいのと後ろめたいので心が破裂しそうだった。
 身体が浮くような感覚共に、ついに頭のなかで白い光に包まれる。
 
 「んんん、んん……っ!」
 
 身体を震わせないよう、声を出さないように耐えていたら、快感だけが長引く。止めていた呼吸を一度開放するともうダメだった。ハアハアと荒い息が止まらず、下半身は快感の余韻にどっぷりとひたっている。愛液でもったりとした股の間が外気に晒され、どうしようもない羞恥に晒された。

 ――わたし、発情した犬みたい。
 
 こんなこと許されないのに。そのときだった。

「……んああっ!」

 エサイアスの肉棒が、彼女の蜜壺に押し入ってきたのだ。
 
 ――もう、だめっ! このまま突かれたら、絶対この人を起こしちゃう……っ!

 アンニーナがそう思ったときだった。両頬を大きな手で包まれる。顔が前に引き寄せられ、唇に柔らかいものが触れた。彼女を包み込むような優しい感触だった。

 ――え? なに?

 何が起きているのか理解できない。背中に腕を回され、ギュッと抱きしめられる。彼女を支えていた細腕は目的を果たせず、男の肩口に投げ出された。大きな口に噛みつかれるように唇を覆われ、縦横無尽に口腔を探られる。

 ――わたし、エサイアス様に挿れられながらこの人とキスしてる。
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