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OpenHeart

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「大変、落としちゃった」と、友梨絵が
加藤に告げる。

「何を?」と、加藤は静かに尋ねる。


「あのね、胸のポケットに入れておいたの。
ハートのイヤリング」

銀が好き、と言っていた友梨絵の
お気に入りのハートのイヤリングで


規則なので外して、胸ポケットに入れておいたのを
落としてしまったらしい。


「どうしよう?」と、困った顔の友梨絵。

まあ、落ち着いて。と
加藤は、懐中電灯で
暗いキッチンの、まず低いところから探した。


真ん中に水路があり、そこにグレーチングの
ふたが被っている。

夜勤の連中は料理人なので、清掃して
塩を撒いていた。

小さなものが落ちていれば、溝に落ちる前に
嵌め込まれた蓋の隙間に落ちるはずだ。

加藤は推論した。


塩が溜まっている隙間を、竹串で探っていく。


コンクリートの隙間に、なめらかな
感触。

僅かな引っ掛かり。



「あった」竹串に釣れて、しかし

歪んでしまったハートのイヤリング。




「ありがとう」と、友梨絵は
笑顔になった。



よほど、大切なものだったらしい。



本当の銀なのか、柔らかく
塩にも腐食はしていない。




その時は思わなかったが

銀のOpenHeart。



1980年代ならともかく。


ちょっと時代遅れだ。


17才の持ち物にしては少し高価だし。




そのあたりの時代から転送されたのだろうか?




友梨絵は、歪んだハートを掌に載せて



「直して直して」と、擦り寄るように
加藤にせがんだ。




綺麗には治らないよ、と

指で加藤がハートを直して見ても
歪んだまま。



「いいの。ごめんね無理言って」と、友梨絵はそれを大切そうにポケットに落とした。



加藤は思う。


さっき、抱き合った時に
歪んでしまったのだろうか?


もしかして、僕が
友梨絵の心を
あんな風に歪ませているのでは?


そんな風に対比して考えていると
友梨絵が


「あなたが、ハート、直してくれたの」と
加藤の空想が伝わったかのように、笑顔。




店の仲間は、遠くから
二人を見守っていた。



邪魔しないように、みたいに(笑)。


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