タビスルムスメ

深町珠

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spring high

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と、思うと、友里絵は
半音階の多い、特徴的なベース・パターンを左手で弾いた。

真由美ちゃんは「かっこいいです!」と

2回、繰り返してから・・・
右手で、ふんわりとメロディを弾く。

スティーヴィー・ワンダー&ラムゼイ・ルイスの 「スプリング・ハイ」だった。

真由美ちゃんは拍手して「スティーヴィーさんですね!」と、にこにこ。

特徴的な半音階は、彼独自なので、すぐわかる。



愛紗は、なんとなく感じられる。

・・・・こんな音楽を、よく聴いていたような・・・。

「スティーヴィー・ワンダー、か」


そういえば、愛紗、と言う名の由来も
彼、スティーヴィーの娘の名前。

Isn't she lovely と言う曲は、そのIsyaちゃんが生まれた時に作った歌だ。


深町との最初の接点も、この曲だった。




突然、蒸気機関車の汽笛が鳴って。

「あ」友里絵はピアノを弾くのを止めた。

駅に停まっていた機関車が、発車していくのだった。
イベントふうの客車4両を引いて、ゆっくりと、力強く。
下り勾配を八代方面へ・・・。


真由美ちゃんは「SL人吉ですね」


愛紗は、その列車名を知らない。「初めて聞く名前」

真由美ちゃん「はい、今度、人吉まで入るのだそうです。SL列車。その訓練運転でしょう」


友里絵は、ピアノの蓋を閉めて、こちらに戻ってきて「そーなんだ。乗ってみたいなぁ」





真由美ちゃんは「今は熊本から宮地まで行っていますから、時刻が合えば・・・。」


菜由は「あの列車には乗務しないの?」



真由美ちゃん「はい。わかりませんけれども、人吉に入るのであれば
担当するかもしれません」


由香「楽しみね」


真由美ちゃん、にっこり、頷く「はい!」







それから、5人は湯前線ホームへ。

一両だけの黄色いディーゼル・カーが
エンジンをからから・・・と鳴らせている。

その車両に乗り込んだ。

窓際に、ながーいシートが半分。
あと半分は対面の4人掛け、クロス・シートと呼ばれる。
その、ながーいシートに5人。

空気ばねなので、ふわふわ揺れる。



由香は「友里絵が弾けるのは知ってたけど、バイエルくらいだと思ってた」

友里絵「へっへー。」


愛紗「いい曲ね」


菜由「スティービー・ワンダーでしょ?」


友里絵「そう。」


由香「タマちゃんか」

友里絵「バレたか。あ、真由美ちゃん、タマちゃんってね。私達の友達なの」


真由美ちゃんは「ああ、驚いたぁ。あざらしちゃんかと思った」と、にこにこ。



愛紗「うふふ。なんとなく似てるかも」


友里絵「タマちゃんねー。おひげはないけど」



由香「最初はおひげ、なかったよ」


菜由「そうだっけ?」



真由美ちゃん「はい。最初は赤ちゃんあざらしで」



愛紗は、ちょっと連想していた。

スティービー・ワンダー。=娘の名がアイシャ。
深町。=元、ミュージシャン。
愛紗の命名者=スティービー・ワンダーをよく聞く人。音楽家?

その深町が、友里絵にスティービーの曲を教えていた。


連立方程式モデルのように、ちょっと複雑。


・・・・わたしの母を、深町さんはご存知なのかしら・・・・・?




そんなはずはないと思う。最初に愛紗が出逢った時に
何か、気づくだろう。


・・・・でも、なんとなく・・・懐かしい感じがする・・・あの人。
恋愛と言うのとは、少し違うような気持。


そんなことを、友里絵のピアノで思い出したのだった。
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