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第一話・私が思っていた呼び出しとちがう

そしてはじまるお試し交際

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 光城みつしろ君の素晴らしさが分かるまで、愛見あいみさんたちにプレゼン(と言う名の改宗)をされるよりは、まだ3か月異性と付き合ってみるほうが易しかった。

 だから私は愛見さんたちに呼び出された翌日。今度はこちらから、光城君を人気の無い場所に呼び出して

「えっ? お試しなら付き合ってくれる?」

 目を丸くする光城君とは決して視線を合わせず、頷きだけで返す。私の全身からは明らかに、不本意さが漂っていたが

「あ、ありがとう。考え直してくれて。情けないけど、池田に振られて落ち込んでいたから、お試しでもチャンスをもらえて嬉しい」

 彼は好青年の評判に恥じない、ほんわりと温かい顔で笑うと

「学校だけで疲れて大変ってことなら、なるべく池田の負担にならないようにするから。嫌なことがあったら遠慮しないで言ってね」

 もうすでにこの状態が嫌なんだとは流石に言えなかった。


 その後。私は再び愛見さんたちに、今度は女子トイレに呼び出されて

「池田さん、ありがとう! 光城君、めっちゃ喜んでいたよ!」

 私の手を取って感謝を告げる愛見さんに「光城君から聞いたの?」と質問すると、

「ううん。直接聞いたわけじゃないけど、光城君って感情表現が素直だから、あたしたちレベルになると顔を見るだけで、だいたいどんな調子か分かるんだよね」
「ねっ、あんなに幸せそうな顔、見たことが無い」

 クラスに戻った後、私も光城君を観察したけど、確かに「ものすごくいいことありました」って幸せ顔でスマホを見ながらお花を飛ばしていた。恐らく交換したばかりの私のアドレスを眺めているのだろう。なんて情報伝達力の高い顔面なんだ。

 そんな彼を見守るファンの子たちも

(光城君、すごく幸せそう。良かった~)

 という祝福顔だった。今やクラス全体が光城君を中心に幸せオーラに包まれているけど、私が再び彼を悲しませた際には、逆にクラス全体が悲しみに沈むのだろうか?

 愛見さんたちは「3か月だけでも付き合ってみて」と言っていた。私はそれを3か月付き合ったら、別れてもいいと受け取っていた。

 でも光城君の熱心なファンである彼女たちは

「取りあえず付き合わせちゃえば、池田さんだって光城君を好きになるに決まっているよ!」

 と思っていそうな気がする。

 でも、ほとんど何も知らない状態で断るより、人となりを知られてから振られるほうがダメージが大きいはずだ。

 もし3か月後。光城君はこちらを好きなまま、私が再び彼を振ったら、より深い心の傷を負うのでは?

 そうなった時、光城君を神のように愛する愛見さんたちは、どんな行動に出るのだろう?

「普通に付き合うだけじゃ光城君の良さが分からないなら、やっぱりあたしたちが『分からせてあげる』しかないみたいだね……」

 脳裏には私をどこかに拉致監禁した愛見さんたちが、懐からソッと『分からせ』のためのバイブルを取り出す映像がよぎった。

 嫌だ! 改宗は嫌だ!

 私から光城君を振るのはダメだ。なんとか仮交際中に、彼のほうから私と別れたくなるように仕向けないと。

 普通はどうすれば彼の愛を失わずに済むか悩むはずが、私はどうすれば彼の愛を失えるか悩むことになった。

 そもそも恋人ができた時点で予想外だけど、ファンの女の子たちの圧力のかけ方といい、どこまでも私が思っていた恋愛と違う。
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