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第八話・私が思っていた恋よりずっと
お花屋さんでアルバイト
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前回、私があげた誕生日プレゼントにいたく感激してくれた誠慈君は
『もっとめいっぱい萌乃を幸せにしたい』
と言ってくれた。誠慈君は有言実行の男なので、本当に私に尽くすべく母方の伯母さんのお店でバイトをはじめるそうだ。夏休みは短期のバイトだったが、今度は腰を据えて週4で働くらしい。
誠慈君からその話を聞いた私は
「私のためにバイトしてくれるなんて!」
と感動するよりも
(学校に行きながら週4も働くなんてマジか。なんで自分からそんな苦行を?)
悪い意味で驚いたし、体を壊すんじゃないかと心配になった。
実際に「もう十分幸せだから無理しないで」と止めたが
「こう見えて体力あるから大丈夫だよ。知り合いの店だから、対人関係のストレスも無いし。バイト代が入ったら、萌乃の好きなところに行こうね。欲しいものも、なんでも言ってね」
自ら財布になろうとして来る誠慈君に、私はもっと自分を大切にして欲しい……と震えながら
「私はうちがいちばん好きだよ……。欲しいものも特に無いよ……」
「でもマイチューブに出て来る高いパンケーキとかパフェを、いつも食べたそうにしていなかった?」
確かに私はよくスイーツ系のマイチューブを見ている。あんな夢のように美味しそうなお菓子、実際に食べられたら素敵だなぁとも思う。しかし当然ながら誠慈君を酷使してまで食べたくはない。私は戦場に出ようとする父を「お父さん、行かないで……」と止めようとする幼子のごとく
「誠慈君に苦労させてまでいらない……」
彼に抱きついて、胸に顔を埋めながら言った。私にとって労働は本当に耐えがたいことなので、目には自然と涙が浮かんだ。そんな私の態度に、誠慈君は胸を打たれたように震えながら頭を撫でたものの
「ゴメン。でも俺はそうやって萌乃が心配してくれるほど、かえって尽くしたくなるんだ!」
アイドルとファンって似るのかな? 普段は穏やかな誠慈君だけど、たまに愛見さんたちをほうふつとさせる愛情の暴走を見せる。
けっきょく誠慈君は「ゴメンね。本当に大丈夫だから」とバイトをはじめてしまった。誠慈君の尽くし癖は、私にすら止められないのか……。
誠慈君が花屋でバイトを始めたことは、学校でも話題になって
「光城君、バイトをはじめたんだって!? 彼女に尽くすためにバイトするなんて流石は光城君! 理想の彼氏だよね!」
「池田さんと付き合いはじめてから、光城君の推せる要素がますます増えて、また本が分厚くなっちゃうよ~!」
あの本、随時更新されているんだ……。
自分たちも献身的な愛見さんたちにとっては、誠慈君の尽くしぶりはいいことみたいだ。でも省エネ体質の私にとっては、がんばりすぎじゃないかな? 辛くなっちゃわないかなとやっぱり心配だった。
その懸念を愛見さんたちに伝えると
「光城君は感情もコンディションも顔に出るから大丈夫! 池田さんと両想いになってから、前以上に輝いているよ! 元気もありあまっているみたいだし、心配ないって!」
彼女たちはそう言ってくれるが、自分が「外出? 労働? 無理です」人間なので、学校に通いながらバイトもして大丈夫なんてことがある? と、どうしても不安だった。
すると愛見さんたちが
「そんなに心配なら、バイトしているところを見に行こうよ。彼女が遊びに来たら、きっと喜ぶだろうし」
愛見さんの他、女の子2人とともに放課後。誠慈君の母親のお姉さんが経営する花屋へ向かった。こじんまりとしているけど、思わず中を覗きたくなるようなオシャレな外観だ。でもそれ以上に目立っていたのは、店舗前にできた人だかり。流行りのスイーツでも売っているのかと思うほど、若い女の子たちが群がっている。
そのお目当ては
「赤いブーケください!」
「私にも!」
「はい。少々お待ちください」
お店の前では誠慈君が『メッセージブーケ』という出来合いの小さな花束を売っていた。ブーケは赤系、青系、黄色系、オレンジ系の4種類で、それぞれメッセージカードを添えて販売している。
1つ1500円と決して安くはないが、誠慈君効果で馬鹿売れしているようだ。なんでそれが分かるかって、目の前の光景もあるけど
「ぐははははは! 誠慈が居る日は花が売れるなぁ!」
「女は花とイケメンに目が無いからねぇ!」
お店の奥であくどい笑みを浮かべながら、お花屋さん夫婦が熟練の手つきでシュバババ! とブーケを量産しているからだった。私が思っていたお花屋さんと違うな……。
誠慈君は私たちに気付くと
「萌乃、来てくれたの?」
とパッと顔を輝かせた。それにしても誠慈君のキャラと花屋の店員というジョブの親和性がすごい。お花もエプロンもとても似合っている。通りすがりの女性たちが、思わずブーケを買いに殺到するわけだ。
ちなみにメッセージブーケは、黄色系には『いつもありがとう』。オレンジ系には『応援してます』。青系には『ずっと仲よくしてね』。赤系には『あなたが好きです』と書かれたメッセージカードがついている。
4つのうち最も売れているのは、恋愛色強めな『あなたが好きです』の赤いブーケだそうだ。誠慈君は赤いブーケのダントツ人気に
「みんな好きな人にあげるのかな? 素敵だね」
と微笑んでいたが、私と愛見さんたちは
(多分みんな誠慈君から、もらった気分になりたいだけだと思う)
と密かに推理を一致させた。それを見越してお店側も、赤いブーケを多めに作っているようだ。あえて店内ではなく、通行人の目に留まりやすい店の前で売らせている辺り、花屋の店主さん夫婦の策士ぶりが伺える。
かくいう愛見さんたちも、推しのお花屋さんルックに動揺を隠しきれず
「あ、あたしも光城君からお花が欲しい……。赤いブーケを買ってもいいかなぁ……? 池田さん……」
彼女の前で『あなたが好きです』なんて言葉を求めるなんていけないとは分かっている。でも……! みたいな葛藤を滲ませながら、私に許可を求めて来た。
私は彼女たちの義理堅さに逆に慄きながら
「いいよ……。ブーケくらい遠慮しなくていいよ……」
誠慈君からお花を買った愛見さんたちは、それぞれ至福の表情で『あなたが好きです』のブーケを受け取った。むしろそんなに好きな人を、こんな私がいいようにして申し訳ない。
それにしても笑顔でお花を渡すだけで、こんなにも人々を幸せにできる誠慈君はすごい。お花屋さんは天職かもしれないなと、実際に彼が働く姿を見て安心した。
『もっとめいっぱい萌乃を幸せにしたい』
と言ってくれた。誠慈君は有言実行の男なので、本当に私に尽くすべく母方の伯母さんのお店でバイトをはじめるそうだ。夏休みは短期のバイトだったが、今度は腰を据えて週4で働くらしい。
誠慈君からその話を聞いた私は
「私のためにバイトしてくれるなんて!」
と感動するよりも
(学校に行きながら週4も働くなんてマジか。なんで自分からそんな苦行を?)
悪い意味で驚いたし、体を壊すんじゃないかと心配になった。
実際に「もう十分幸せだから無理しないで」と止めたが
「こう見えて体力あるから大丈夫だよ。知り合いの店だから、対人関係のストレスも無いし。バイト代が入ったら、萌乃の好きなところに行こうね。欲しいものも、なんでも言ってね」
自ら財布になろうとして来る誠慈君に、私はもっと自分を大切にして欲しい……と震えながら
「私はうちがいちばん好きだよ……。欲しいものも特に無いよ……」
「でもマイチューブに出て来る高いパンケーキとかパフェを、いつも食べたそうにしていなかった?」
確かに私はよくスイーツ系のマイチューブを見ている。あんな夢のように美味しそうなお菓子、実際に食べられたら素敵だなぁとも思う。しかし当然ながら誠慈君を酷使してまで食べたくはない。私は戦場に出ようとする父を「お父さん、行かないで……」と止めようとする幼子のごとく
「誠慈君に苦労させてまでいらない……」
彼に抱きついて、胸に顔を埋めながら言った。私にとって労働は本当に耐えがたいことなので、目には自然と涙が浮かんだ。そんな私の態度に、誠慈君は胸を打たれたように震えながら頭を撫でたものの
「ゴメン。でも俺はそうやって萌乃が心配してくれるほど、かえって尽くしたくなるんだ!」
アイドルとファンって似るのかな? 普段は穏やかな誠慈君だけど、たまに愛見さんたちをほうふつとさせる愛情の暴走を見せる。
けっきょく誠慈君は「ゴメンね。本当に大丈夫だから」とバイトをはじめてしまった。誠慈君の尽くし癖は、私にすら止められないのか……。
誠慈君が花屋でバイトを始めたことは、学校でも話題になって
「光城君、バイトをはじめたんだって!? 彼女に尽くすためにバイトするなんて流石は光城君! 理想の彼氏だよね!」
「池田さんと付き合いはじめてから、光城君の推せる要素がますます増えて、また本が分厚くなっちゃうよ~!」
あの本、随時更新されているんだ……。
自分たちも献身的な愛見さんたちにとっては、誠慈君の尽くしぶりはいいことみたいだ。でも省エネ体質の私にとっては、がんばりすぎじゃないかな? 辛くなっちゃわないかなとやっぱり心配だった。
その懸念を愛見さんたちに伝えると
「光城君は感情もコンディションも顔に出るから大丈夫! 池田さんと両想いになってから、前以上に輝いているよ! 元気もありあまっているみたいだし、心配ないって!」
彼女たちはそう言ってくれるが、自分が「外出? 労働? 無理です」人間なので、学校に通いながらバイトもして大丈夫なんてことがある? と、どうしても不安だった。
すると愛見さんたちが
「そんなに心配なら、バイトしているところを見に行こうよ。彼女が遊びに来たら、きっと喜ぶだろうし」
愛見さんの他、女の子2人とともに放課後。誠慈君の母親のお姉さんが経営する花屋へ向かった。こじんまりとしているけど、思わず中を覗きたくなるようなオシャレな外観だ。でもそれ以上に目立っていたのは、店舗前にできた人だかり。流行りのスイーツでも売っているのかと思うほど、若い女の子たちが群がっている。
そのお目当ては
「赤いブーケください!」
「私にも!」
「はい。少々お待ちください」
お店の前では誠慈君が『メッセージブーケ』という出来合いの小さな花束を売っていた。ブーケは赤系、青系、黄色系、オレンジ系の4種類で、それぞれメッセージカードを添えて販売している。
1つ1500円と決して安くはないが、誠慈君効果で馬鹿売れしているようだ。なんでそれが分かるかって、目の前の光景もあるけど
「ぐははははは! 誠慈が居る日は花が売れるなぁ!」
「女は花とイケメンに目が無いからねぇ!」
お店の奥であくどい笑みを浮かべながら、お花屋さん夫婦が熟練の手つきでシュバババ! とブーケを量産しているからだった。私が思っていたお花屋さんと違うな……。
誠慈君は私たちに気付くと
「萌乃、来てくれたの?」
とパッと顔を輝かせた。それにしても誠慈君のキャラと花屋の店員というジョブの親和性がすごい。お花もエプロンもとても似合っている。通りすがりの女性たちが、思わずブーケを買いに殺到するわけだ。
ちなみにメッセージブーケは、黄色系には『いつもありがとう』。オレンジ系には『応援してます』。青系には『ずっと仲よくしてね』。赤系には『あなたが好きです』と書かれたメッセージカードがついている。
4つのうち最も売れているのは、恋愛色強めな『あなたが好きです』の赤いブーケだそうだ。誠慈君は赤いブーケのダントツ人気に
「みんな好きな人にあげるのかな? 素敵だね」
と微笑んでいたが、私と愛見さんたちは
(多分みんな誠慈君から、もらった気分になりたいだけだと思う)
と密かに推理を一致させた。それを見越してお店側も、赤いブーケを多めに作っているようだ。あえて店内ではなく、通行人の目に留まりやすい店の前で売らせている辺り、花屋の店主さん夫婦の策士ぶりが伺える。
かくいう愛見さんたちも、推しのお花屋さんルックに動揺を隠しきれず
「あ、あたしも光城君からお花が欲しい……。赤いブーケを買ってもいいかなぁ……? 池田さん……」
彼女の前で『あなたが好きです』なんて言葉を求めるなんていけないとは分かっている。でも……! みたいな葛藤を滲ませながら、私に許可を求めて来た。
私は彼女たちの義理堅さに逆に慄きながら
「いいよ……。ブーケくらい遠慮しなくていいよ……」
誠慈君からお花を買った愛見さんたちは、それぞれ至福の表情で『あなたが好きです』のブーケを受け取った。むしろそんなに好きな人を、こんな私がいいようにして申し訳ない。
それにしても笑顔でお花を渡すだけで、こんなにも人々を幸せにできる誠慈君はすごい。お花屋さんは天職かもしれないなと、実際に彼が働く姿を見て安心した。
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