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第12話・99階にて
傀儡の術
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しかしネフィロスの真の狙いは、ユエルへの直接攻撃ではなく
「くっ……!?」
「ゆ、ユエル? どうしたの?」
とつぜん胸を押さえて苦しげに膝をついたユエルに、心配して声をかける。けれど私の問いに答えたのは
「私が射抜いたのは、ユエル君の心臓ではなく魂です。肉の鎧を貫いて無防備な魂に直接、魔属性の魔力を流し込むためにね」
ネフィロスの言葉とともに、ゆらりと立ち上がったユエルは
「ま、マスター。逃げ……」
苦しげな声を最後に
「姐御!」
風丸がグイッと私を後ろに引っ張る。ユエルの斬撃で起きた風が顔に当たり、斬られかけたのだと知る。
「どうしてユエル? なんで私を?」
この世でいちばん愛している人から、急に剣を向けられて動揺する私に
「動揺している場合じゃねぇ! しっかりしろ、姐御!」
風丸の一喝で我に返る。さっきはつい狼狽えてしまったが、ユエルは明らかに自我を失っている。恐らくネフィロスに操られているんだ。魔法の影響だとすれば、精神的な状態異常を解除する魔法が効くかもしれない。唯一、使える水属性の『鎮静』をかけるが
「残念ですが、ユエル君は混乱しているわけではありません。あらゆる魔の影響を洗い流す『洗心』ならともかく、心の乱れを冷ます程度の『鎮静』では傀儡の術は解けません」
ネフィロスの言葉を証明するように、人形のように表情を失ったユエルが私に斬りかかって来た。
「ユエル、お願い! 正気に戻って!」
ユエルの剣を弾き返したり、バックステップでかわしたりしながら、何度も呼びかけるも反応は無い。
「くく……愚かな。いくら呼びかけたところで、魔法は魔法でしか解けません。ただし魔属性の私の術を解けるのは、そこで操られている当人だけですが」
ネフィロスは私を嘲笑いつつ、倒れ伏したままの自分の分身を掻き消した。それは単なる片付けではなく、アルゼリオたちの魂を取り出すため。ネフィロスは取り出した魂を、今度は3つとも自分の内に取り入れた。アルゼリオの火力とレベル。カイゼルの回復。クレイグの体力と防御力を併せ持つ厄介な存在になった。
「姐御、代われ。俺がユエルの相手をする」
ネフィロスも強敵だが、私にとってはユエルのほうが戦いにくい相手だ。風丸もそう考えたのか、交代を申し出てくれたが
「そうはいきません」
ネフィロスは魔法で炎の壁を作り、私と風丸を分断した。
「テメェ! なんでそこまでユエルに姐御を狙わせるんだ!?」
憤激する風丸に、ネフィロスは愉快そうな声で
「肉体の制御はできませんが、ユエル君の意識は存在し、この状況を見ています。主人であり婚約者でもある最愛の女性を自分の手で殺せば、ユエル君の自我は壊れて二度と傀儡から戻れなくなる。ですから和泉さんは、ユエル君に殺されてもらわなくては」
ユエルにかけた傀儡の術を完成させるために、ネフィロスは彼に私を殺させると言う。
「姐御、死ぬ気で持ち堪えろ。アンタがユエルにやられる前に、俺が必ずコイツを殺す」
炎の壁の向こうから、風丸が強く私を鼓舞する。分断されて、お互いのサポートはできない。だけど私は1人じゃない。風丸の言うとおり、術者が死ねば魔法の影響も消える。風丸が術者であるネフィロスを倒すまで、ユエルに私を殺させない。この場を生き抜くことに全力を尽くす。
聖属性のユエルには攻撃魔法が無いので、剣での攻撃だけになる。本来のユエルはもっと多彩な剣技を使うが、彼を操るネフィロスが今は風丸と交戦中だからか、細かい命令はできないようだ。
ただユエルは『剣聖の片りん』を持つほどの剣の天才で、レベル100だ。ユエルに単独で戦わせるために、たまにしか戦闘に参加しなかった私よりも実戦経験が豊富だ。私もユエルと同じ100レベルだが、この世界で天才的な才能を持っている設定の彼らと比べれば基礎のステータスが低い。それに加えて最強装備の彼と、そうでない私とでは装備による補正の差もあった。
地属性の支援魔法で防御力を、風属性の支援魔法で回避力を、それでも防ぎ切れずに傷ついていく体を水属性の魔法で回復させながら、なんとかユエルの攻撃を凌ぎ続ける。
「くっ……!?」
「ゆ、ユエル? どうしたの?」
とつぜん胸を押さえて苦しげに膝をついたユエルに、心配して声をかける。けれど私の問いに答えたのは
「私が射抜いたのは、ユエル君の心臓ではなく魂です。肉の鎧を貫いて無防備な魂に直接、魔属性の魔力を流し込むためにね」
ネフィロスの言葉とともに、ゆらりと立ち上がったユエルは
「ま、マスター。逃げ……」
苦しげな声を最後に
「姐御!」
風丸がグイッと私を後ろに引っ張る。ユエルの斬撃で起きた風が顔に当たり、斬られかけたのだと知る。
「どうしてユエル? なんで私を?」
この世でいちばん愛している人から、急に剣を向けられて動揺する私に
「動揺している場合じゃねぇ! しっかりしろ、姐御!」
風丸の一喝で我に返る。さっきはつい狼狽えてしまったが、ユエルは明らかに自我を失っている。恐らくネフィロスに操られているんだ。魔法の影響だとすれば、精神的な状態異常を解除する魔法が効くかもしれない。唯一、使える水属性の『鎮静』をかけるが
「残念ですが、ユエル君は混乱しているわけではありません。あらゆる魔の影響を洗い流す『洗心』ならともかく、心の乱れを冷ます程度の『鎮静』では傀儡の術は解けません」
ネフィロスの言葉を証明するように、人形のように表情を失ったユエルが私に斬りかかって来た。
「ユエル、お願い! 正気に戻って!」
ユエルの剣を弾き返したり、バックステップでかわしたりしながら、何度も呼びかけるも反応は無い。
「くく……愚かな。いくら呼びかけたところで、魔法は魔法でしか解けません。ただし魔属性の私の術を解けるのは、そこで操られている当人だけですが」
ネフィロスは私を嘲笑いつつ、倒れ伏したままの自分の分身を掻き消した。それは単なる片付けではなく、アルゼリオたちの魂を取り出すため。ネフィロスは取り出した魂を、今度は3つとも自分の内に取り入れた。アルゼリオの火力とレベル。カイゼルの回復。クレイグの体力と防御力を併せ持つ厄介な存在になった。
「姐御、代われ。俺がユエルの相手をする」
ネフィロスも強敵だが、私にとってはユエルのほうが戦いにくい相手だ。風丸もそう考えたのか、交代を申し出てくれたが
「そうはいきません」
ネフィロスは魔法で炎の壁を作り、私と風丸を分断した。
「テメェ! なんでそこまでユエルに姐御を狙わせるんだ!?」
憤激する風丸に、ネフィロスは愉快そうな声で
「肉体の制御はできませんが、ユエル君の意識は存在し、この状況を見ています。主人であり婚約者でもある最愛の女性を自分の手で殺せば、ユエル君の自我は壊れて二度と傀儡から戻れなくなる。ですから和泉さんは、ユエル君に殺されてもらわなくては」
ユエルにかけた傀儡の術を完成させるために、ネフィロスは彼に私を殺させると言う。
「姐御、死ぬ気で持ち堪えろ。アンタがユエルにやられる前に、俺が必ずコイツを殺す」
炎の壁の向こうから、風丸が強く私を鼓舞する。分断されて、お互いのサポートはできない。だけど私は1人じゃない。風丸の言うとおり、術者が死ねば魔法の影響も消える。風丸が術者であるネフィロスを倒すまで、ユエルに私を殺させない。この場を生き抜くことに全力を尽くす。
聖属性のユエルには攻撃魔法が無いので、剣での攻撃だけになる。本来のユエルはもっと多彩な剣技を使うが、彼を操るネフィロスが今は風丸と交戦中だからか、細かい命令はできないようだ。
ただユエルは『剣聖の片りん』を持つほどの剣の天才で、レベル100だ。ユエルに単独で戦わせるために、たまにしか戦闘に参加しなかった私よりも実戦経験が豊富だ。私もユエルと同じ100レベルだが、この世界で天才的な才能を持っている設定の彼らと比べれば基礎のステータスが低い。それに加えて最強装備の彼と、そうでない私とでは装備による補正の差もあった。
地属性の支援魔法で防御力を、風属性の支援魔法で回避力を、それでも防ぎ切れずに傷ついていく体を水属性の魔法で回復させながら、なんとかユエルの攻撃を凌ぎ続ける。
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