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第12話・99階にて

妨害者との再戦

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 由羽ちゃんと別れた翌日。私たちは魔王の再封印のために、ダンジョンに潜った。期日まではまだ間があったが、ネフィロスが次にどんな手を打って来るか分からないからこそ、一刻も早く封印の儀式を済ませるべきだと判断した。

 魔王は鎖に繋がれた依り代に宿った悪意の集積。それがあるのは地下100階。

 ネフィロスの目的は魔王の解放だと言う。それには封印の儀式を失敗させる必要がある。だとすれば魔王の居る100階に到達するまでのどこかで待ち構えているはずだ。

 全ての状態異常を無効にするアクセサリーのうちの1つは、クレイグによって破壊された。しかしお金はかかるが、部品が揃った状態なら専門の職人に修理してもらえる。ついでに簡単には壊されないように、合成アイテムを足して強化してもらった。

 その強化した全状態異常無効のアクセサリーを私と風丸が装備した。これで前回と違い、眠りや麻痺によってたびたび戦闘不能にされることはない。ただ、このゲームにはステータスダウンを防ぐ装備は無かった。弱体化を解除するには単純に、攻撃力を下げられたら攻撃力アップの支援魔法、またはアイテムを使うなどして反対の効果で打ち消すしかない。

 しかし『沈黙』さえ避けられれば、実は4属性持ちの私も、攻撃、防御、素早さ、賢さのステータスアップをかけられる。これで前回と違い、サポートのためにユエルが釘付けになることは無いだろう。

 私たちの推測どおり、ネフィロスは99階で待ち受けていた。彼は他の5人の騎士と違い魔術師で、本人に戦闘力は無い。前回はカイゼルとクレイグを唆し、手駒として操っていたが、今回は1人でどうするつもりだろう。無策で来るようにも思えない。彼が隠している策が気になった。

 私たちの前に姿を現したネフィロスは分身して3体に増えた。元の世界ではあり得ない現象に怯む私とは違い

「雑魚を増やしたところでどうするつもりだよ。魔術師のアンタじゃ、俺たちの動きについて来られないだろ」

 風丸の挑発に、ネフィロスは悠然と微笑んで

「なぜ魔属性の人間に、魂を奪うスキルがあるかご存知ですか? 魂を奪って無力化するだけではない。奪った魂を取り込んで自分の力に変えるためですよ」

 3体に増えたネフィロスは、それぞれ懐から赤、青、黄色の光を帯びた魂を取り出すと、私たちに見せつけるように飲み込んだ。

 アルゼリオたちの魂を飲み込んだ3体のネフィロスは、それぞれアルゼリオ、カイゼル、クレイグのステータスと能力を自分のものにした。魔属性の魔法しか使えないはずのネフィロスが、火、水、地の魔法を巧みに繰り出す。魔法攻撃を掻い潜って斬りかかれば、剣士のスキルで受け止められる。

 でも見た目がネフィロスだから混乱するが、要するに彼らはアルゼリオとカイゼルとクレイグだ。だとすれば、私たちが行うべきは戦闘の定石。回復手段を断ち、弱者から潰し、いちばんの大物を全員で叩く。

 硬い反面、動きの鈍いクレイグは一旦無視して、ユエルがアルゼリオの相手をしている間に、私と風丸でカイゼルを叩く。カイゼルの水属性を得たネフィロスは火が弱点になっていたので、私は魔法で風丸は物理で攻撃した。

 カイゼルを倒すと同じ要領で、クレイグの能力を得たネフィロスを攻撃する。クレイグが倒れる頃には、ユエルとアルゼリオの戦いも終わりかけていた。最初は面食らったが、冷静に対処すれば恐れるほどの敵じゃなかった。

「よし、これで」

 しかしユエルがアルゼリオの魂を食ったネフィロスを倒した瞬間。

「終わりです」

 言葉を継いだのは、私たちの中の誰でもなかった。まだ誰か居ると気づいた時には

「うあっ!?」

 どこからともなく飛んで来た矢が、ユエルの左胸に突き刺さった。

「ユエル!?」
「アイツ! まだ分身を残していたのか!」

 私たちは、この場で2体の分身を出したネフィロスを見たせいで、敵は3体だと思い込んでいた。

 ところが実際は私たちが来る前に、ネフィロスはすでに分身していた。私たちを待ち受けていたのはそもそも分身で、本物のネフィロスは安全地帯から隙を伺っていた。人がいちばん気を抜くのは、戦いを終えた瞬間だ。ネフィロスはその隙を作るために、自分の分身を犠牲にしたのだ。

 けれどユエルは自ら矢を引き抜くと、すぐに回復魔法で傷を修復して

「隙を突いたつもりかもしれませんが、矢で心臓を射抜いたくらいで僕は殺せませんよ」

 少年らしい華奢な外見とは裏腹に、ユエルはクレイグよりも実はタフだ。彼はここまでほぼ1人で戦って来たので、序盤はしょっちゅう死にかけていた。折れた骨が肉を突き破り、腕や足が千切れかけ、時に眼球が潰れた。見守る私もトラウマになるほどの苦痛に耐えて、ユエルは今ここに居る。本人の言うとおり、矢で心臓を射られたくらいで死ぬほどか弱くない。
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