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別れの足音
父との対話(カイル視点)
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聖騎士になるのをやめたのは、その場の勢いじゃなくて、以前から考えていたことだった。
さっきアニスに言ったとおり、自分にとって大事なものがハッキリ見えたから、道を変えるのは俺にとって自然なことだった。
ちゃんと話せば、きっと父さんだって分かってくれる。
決めたからには早く話しておこうと、父さんの部屋を訪ねると
「聖騎士にならないなんて、どうして突然。お前の力は神に与えられた才能だ。天から与えられたものは、全体の平和のために還元すべきだ」
「俺だって自分の力を、自分のためだけに使おうとは思ってないよ。もし傷ついた人が居れば癒やせるように、襲われている人が居れば護れるように、これからも剣や魔法の修行は続ける。でも人を助けるのに必ずしも、聖騎士になって掟に縛られる必要は無いでしょう」
俺にとっては逃げでも諦めでも無いので、堂々と説明すると
「この力はこれからも人のために使う。でも何をいちばんに護るかは自分で決めたいから、誰の下にも付きたくないだけだよ」
「……お前がいちばんに護りたいものとは、アニスさんのことか?」
アニスへの気持ちが、父さんにバレているとは思わなかった。俺はアニスが大好きだけど、俺は子どもで彼女は大人だ。
でも父さんは俺がアニスに懐いているのではなく、恋をしているのだと薄々気づいていたようで
「お前も人間だ。異性に惹かれるなとは言わないが、彼女のために生き方を変えるなんて絶対にダメだ」
「どうしてアニスのために生き方を変えちゃダメなの?」
父さんの言うことが本気で分からなかった。だってこの世に愛より大切なものはない。
家族でも恋人でも、愛する人のために生きることを、悪だと言う人は居ないだろう。
でも父さんは
「自分で分からないのか? 彼女はあまりに年上すぎる。いくら尽くしたところで絶対に、お前に振り向くことはない。夫婦として共に歩めるならともかく、彼女に尽くすことはただお前の時間と才能を浪費することだ。そんなことのために……」
「父さんは見返りが欲しいから人を愛するの?」
父さんは俺にも村の人たちにも、損得よりも真心を大事にするように説いて来た。幸せや喜びは心から生じるものだから、名誉や利得のために心を失ってはならないと。
それなのに今は見返りの得られない愛を、人生の浪費と言う。
俺の言葉に失望を感じたのか、絶句する父さんに
「俺もアニスが自分を好きになってくれたら嬉しいよ。でも一生同じ気持ちになれなくても構わない。ただアニスが二度と傷つかないようにしてあげたい」
俺は父さんに理解してもらえるように、ただ自分の本心を真っ直ぐに
「それで少しでも笑顔が見られたら、俺は最高に幸せなんだ」
言葉とともに自然と笑顔になった。アニスを想うと胸が熱くなり、目の前が明るくなって、なんでもできそうな気がする。
その感覚が俺に教える。俺の進むべき道は、やはりこっちだと。
だから俺は
「俺はこの気持ちを絶対に曲げる気が無い。できれば父さんにも分かって欲しいけど、無理ならアニスを連れて、すぐにここを出る」
「……決意は固いんだな?」
重々しく尋ねる父さんに、俺は無言で頷いた。
「……今は言葉が見つからない。少し考えさせてくれ」
父さんの部屋から出た俺は、閉じたドアを背に
(やっちゃった!)
勢いで家を出ると言ったことを早くも後悔した。うちを出て自活する自信が無いからじゃない。
俺は世間知らずの子どもだけど、力なら普通の大人よりある。今アニスとクォーツを集めているみたいに、物知りなアニスと力持ちの俺で、協力すれば人並みに生きていけるんじゃないかと前から思っていた。
でも、まだアニスに許可をもらってない!
アニスは村を出ようとしていたんだから、そこに俺が付いて行っちゃえばいいんじゃないか。そう勝手に思っていたけど、無許可で決めてしまうのはやはりよくない。
さっきアニスに言ったとおり、自分にとって大事なものがハッキリ見えたから、道を変えるのは俺にとって自然なことだった。
ちゃんと話せば、きっと父さんだって分かってくれる。
決めたからには早く話しておこうと、父さんの部屋を訪ねると
「聖騎士にならないなんて、どうして突然。お前の力は神に与えられた才能だ。天から与えられたものは、全体の平和のために還元すべきだ」
「俺だって自分の力を、自分のためだけに使おうとは思ってないよ。もし傷ついた人が居れば癒やせるように、襲われている人が居れば護れるように、これからも剣や魔法の修行は続ける。でも人を助けるのに必ずしも、聖騎士になって掟に縛られる必要は無いでしょう」
俺にとっては逃げでも諦めでも無いので、堂々と説明すると
「この力はこれからも人のために使う。でも何をいちばんに護るかは自分で決めたいから、誰の下にも付きたくないだけだよ」
「……お前がいちばんに護りたいものとは、アニスさんのことか?」
アニスへの気持ちが、父さんにバレているとは思わなかった。俺はアニスが大好きだけど、俺は子どもで彼女は大人だ。
でも父さんは俺がアニスに懐いているのではなく、恋をしているのだと薄々気づいていたようで
「お前も人間だ。異性に惹かれるなとは言わないが、彼女のために生き方を変えるなんて絶対にダメだ」
「どうしてアニスのために生き方を変えちゃダメなの?」
父さんの言うことが本気で分からなかった。だってこの世に愛より大切なものはない。
家族でも恋人でも、愛する人のために生きることを、悪だと言う人は居ないだろう。
でも父さんは
「自分で分からないのか? 彼女はあまりに年上すぎる。いくら尽くしたところで絶対に、お前に振り向くことはない。夫婦として共に歩めるならともかく、彼女に尽くすことはただお前の時間と才能を浪費することだ。そんなことのために……」
「父さんは見返りが欲しいから人を愛するの?」
父さんは俺にも村の人たちにも、損得よりも真心を大事にするように説いて来た。幸せや喜びは心から生じるものだから、名誉や利得のために心を失ってはならないと。
それなのに今は見返りの得られない愛を、人生の浪費と言う。
俺の言葉に失望を感じたのか、絶句する父さんに
「俺もアニスが自分を好きになってくれたら嬉しいよ。でも一生同じ気持ちになれなくても構わない。ただアニスが二度と傷つかないようにしてあげたい」
俺は父さんに理解してもらえるように、ただ自分の本心を真っ直ぐに
「それで少しでも笑顔が見られたら、俺は最高に幸せなんだ」
言葉とともに自然と笑顔になった。アニスを想うと胸が熱くなり、目の前が明るくなって、なんでもできそうな気がする。
その感覚が俺に教える。俺の進むべき道は、やはりこっちだと。
だから俺は
「俺はこの気持ちを絶対に曲げる気が無い。できれば父さんにも分かって欲しいけど、無理ならアニスを連れて、すぐにここを出る」
「……決意は固いんだな?」
重々しく尋ねる父さんに、俺は無言で頷いた。
「……今は言葉が見つからない。少し考えさせてくれ」
父さんの部屋から出た俺は、閉じたドアを背に
(やっちゃった!)
勢いで家を出ると言ったことを早くも後悔した。うちを出て自活する自信が無いからじゃない。
俺は世間知らずの子どもだけど、力なら普通の大人よりある。今アニスとクォーツを集めているみたいに、物知りなアニスと力持ちの俺で、協力すれば人並みに生きていけるんじゃないかと前から思っていた。
でも、まだアニスに許可をもらってない!
アニスは村を出ようとしていたんだから、そこに俺が付いて行っちゃえばいいんじゃないか。そう勝手に思っていたけど、無許可で決めてしまうのはやはりよくない。
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