先生、おねがい。

あん

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番外編 二月の夜⑦

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 「本当、お前といると……」
 「え……?」


 よく聞こえなくて首を傾げると、とっつーは柔らかい表情のまま、「なんでもねえ」と首を振った。そして、そっと俺の手を離して、先程あげた紙袋を小さく掲げてみせる。


 「これ、ありがとな」
 「あ……うん」
 「駅まででも送るか?」
 「や、だいじょぶ。なんかもう、タクっちゃおうかなって」
 「……分かった。じゃ、また」
 「うん……ばいばい」


 俺だけかもしれないけど。いや、99パーセント俺だけなんだろうけど。思わず首に腕を回して顔を寄せてしまいそうな、そんな名残惜しい雰囲気が漂っている気がした。


 (あぁ……もし……もし、俺たちが恋人だったら、ここでキスできたのかな……)


 セフレだったとしても、雰囲気的にワンチャンいけたかも。
 マンションに入ってくとっつーの背中を眺めながら、そんなしょうもないことを考える。
 

 (本当にしょうもない……)

 
 だって、俺たちは、ただの友だちなんだから。
 だから、手を離して、背中を見送ることしかできない。


 (でも、それでもいいんだ)


 無責任な応援しかできなくても。見送ることしかできなくても。それでも、君が前を向く手助けができたのなら、それで充分だ。


 「……頑張れ、とっつー」
 

 小さく呟いたその言葉は、彼に届くわけもなく、寒い風にかき消される。それと同時に、マフラーからふわりと漂った香りが鼻腔をくすぐった。
 まるで抱きしめられていると錯覚しそうなほど近くから感じる匂いと温もり。抱かれていたあの頃を思い出して、ほんの少し、胸がくるしくなった。

 そんな、苦くて、ちょっぴり甘くて、だけどやっぱり苦い、二月の夜。


 (とっつーが第一志望校に受かりますように。そして──)


 俺は夜空に浮かぶ月に向かって、彼の未来が明るくあるように、祈りを捧げた。

 
《二月の夜 完》
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