先生、おねがい。

あん

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番外編 みなりつ1

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戸塚と律が両思いになるまでの話です。

***


 「俺ももう立派な社会人な訳じゃん?快楽ばっかり求めてないで、そろそろ落ち着かないとなぁって」


 適当に街をぶらついて、食べたいとごねられたクソ甘ったるいパンケーキ屋に入って、俺はコーヒーでも飲んで暇を潰す。そんな日常の中、いつもの軽いノリで律は言い放った。


 「だから、とっつーと会うのは今日で最後にしよっかなって」


 気づいたときには、手を伸ばし、目の前の細い手首を掴んでいた。その拍子に、律の持つフォークからパンケーキが落ちる。


 「あー!最後の一口だったのに~!」


 律は紙ナプキンでテーブルを拭きながらプンスカと怒っていたが、俺はそれどころじゃなかった。


 (快楽?落ち着く?)


 頭の中を整理するように、律の言葉を反芻する。
 つまりはフラフラ遊ぶのをやめるということだろうか。しかし、それがなぜ、俺と会わないことに繋がるのかさっぱり分からない。


 「ちょっと、とっつー?何ぼーっとしてんの?俺怒ってんだけど?」
 「うるせぇな。奢ってやるから黙れ」
 「え、マジ?ラッキー!じゃあ代わりに、とっつーのコーヒー代は俺が払うねっ」
 「……」


 すぐに機嫌を直し、るんるんとカフェラテを飲む律を見てると、真剣に考えるのが馬鹿らしくなってくる。どうせいつもみたいに、俺のことを揶揄って楽しんでいるだけなのだろう。


 (なのに、なに熱くなってんだか……)
 

 冗談を間に受けて、とっさに引き止めようとした自分が恥ずかしくなった俺は、誤魔化すようにため息をつきながら頬杖をついた。


 「たっく……笑えねえ冗談言ってんじゃねえよ」
 「ん?冗談?何が?」
 「さっきの。お前がセフレ切るのは自由だけど、俺たちはそんな関係じゃねえだろ」
 「あっは。冗談なんかじゃないよ。今は違うけど前はそうだっだんだから、綺麗さっぱり清い関係ですなんて言えなくない?」
 「……おい、いい加減に──」


 まだこの茶番を続けるのかと思うと、苛立ちが募る。いい加減しつこいとキレそうになったところで、律はそれより先に言葉を被せてきた。


 「そんでさっ、これを機に、そろそろ心くんに告白したら?」
 「は?」
 「だいじょうぶだって!とっつーの方が、お似合いだと思うし!」
 「はぁ?何言ってんだお前」

 
 不可解な言葉の意味を尋ねてみても、律はヘラヘラと笑い返すだけ。
 コイツとの付き合いはかれこれ4年ほどになる。このムカつく表情は、これ以上話す気はないという意思表示であると、俺は経験上知っていた。
 

 「じゃーね、とっつー。心くんと上手くいくと良いね」


 そんな最悪な置き土産を残して、律からの連絡は一切途絶えた。

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