先生、おねがい。

あん

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番外編 二月の夜⑥

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 (だって、俺に勇気貰ってるって……)


 それは素直に嬉しかった。
 とっつーの力になれてることが分かって、すごく嬉しい。
 だけど、それだけじゃなくて、少しだけ心がモヤッとした。
 だって、いつもツンツンしてるとっつーがちょっと素直になっちゃう理由が、きっとあるはずだから。


 「……じゃあな。風邪ひくなよ」
 「あっ、待って!」


 マフラーを巻き終わり、エントランスに歩いていこうとするとっつーの腕を咄嗟に掴む。


 「なに?」
 「や、あの……」


 これを言ったら、強がりのとっつーは怒って帰っちゃうかも。だけど、放っておくこともできなくて、俺は、恐る恐る口を開いた。


 「試験、結構不安だったりする……?」
 「……」


 とっつーは怒らなかった。
 怒らなかったけど、少し驚いたように目を見開いて、そして、誤魔化すようにそっぽを向いてしまった。


 「別に……受験するやつ全員そうだろ」


 強がった返答。だけど、それは肯定を意味していた。


 (やっぱり)


 不安じゃないわけないよね。とっつーには夢があって、それを叶えるのは簡単なことじゃない。叶えるために今までいっぱい頑張ってきたけど、たった一回の本番で決まってしまうのは、きっとすごく怖いに違いない。


 「大丈夫!」


 俺は、ぎゅっととっつーの大きな手を握って、胸元に持っていった。願いを込めるように。


 「大丈夫!とっつー、ずっと前から、めちゃくちゃ頑張ってたもん!絶対受かる!」
 「んな無責任な……」
 「言霊とかあるって言うじゃん!とっつーなら絶対受かる!大丈夫!」


 本当に無責任。だけど、無責任上等だ。
 だって、これ以外、俺に何ができる?
 俺の取り柄は、いつでも前向きでポジティブなことなんだから、それをお裾分けしないでどうする。俺はこの子よりおにーさんなんだから、しっかり背中を押してあげないと。


 「ぜーったいに!大丈夫!」
 「……ふっ」


 ひたすらに“大丈夫”を繰り返していると、とっつーが耐えかねたように破顔した。


 (え……何その顔……)


 貴重すぎる眼差しを向けられ、思わず言葉を失ってしまう。今とっつーの目に映っているのは、果たして本当に俺なのかと疑ってしまいそうなくらい、物凄く優しい瞳だった。

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