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やっぱこいつクソクズだわ
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堀越との爛れた関係に悩んでいた、ある日のことだった。
「え?今日、俺のバ先で飲み会やんの?」
「そう。お前仕事中で悪いけどさ、雰囲気だけでも楽しめよ」
学食でカツカレーを食ってたら、透夜が隣に座って来てそう言った。
「え~、お前ら騒いで店に迷惑掛けんなよな。あといっぱい注文して店に貢献しといて」
「大丈夫大丈夫、任せといて」
そんなことを言って笑い合っていたら、俺の肩をポン、と叩くやつがいた。
振り返ると人のいい笑顔で堀越が立っていた。
「げっ!?ほ、堀越・・・」
「へ~?今日璃央クンのバ先で飲み会あんの?松原くん、俺も行きたいんだけど、いいよね?」
そう言われて透夜はぎこちない笑顔で頷いた。
「う、うん、もちろん!あ、会費3000円ね」
「分かった」
そう言って堀越は俺を振り返ると、ニコリと笑った。
「楽しみだな~。働いてる璃央クン見んの。一緒に働いてる先輩も今日いるんだよね?」
ドッと冷や汗が出て、心臓がドキドキして来た。
「お、おい、絶対、先輩に余計なこと言うなよ・・・」
「余計なことって?あ~、俺と璃央クンが『仲良く』してることとかかな?」
とぼけた顔でそんなことを言う堀越に、透夜はもちろん訳が分からないって顔をしてぽかんとしている。
俺は焦ってガタン、と席を立つと、
「ちょっと来い!」
堀越の腕を掴んで学食の端に移動した。大人しく付いて来た堀越は無表情で、何を考えているのか分からない
「おい、お前どういうつもりなんだよ?波風立てるようなことするつもりじゃねーだろうな?」
声を潜めながらも強く言うと、
「さあな?けどさ、お前が俺んち泊まりに来るなら、お前の先輩には全部黙っておいてやってもいいぜ」
堀越のやつはそんなことを言い出した。
「お、お前・・・ほんっと、クソクズだな!この・・・!」
思わず叫んでしまったら周りのやつらに驚いた目で見られて、俺は仕方なく途中で黙った。
けど、ホント、マジでこいつ、最低最悪な奴だ。ああ、あの時の俺に言ってやりたい。
こんな奴に相談なんかすんなよ!って。
堀越は俺の言ったことはスルーして、澄ました顔をしている。
「で?どうすんの?」
「う・・・」
俺は汗の滲む拳をぎゅっと握りしめた。
こいつ、絶対面白がってる。堀越が先輩を掴まえて『面白いこと教えてやろうか』なんて言いながら俺とのあれこれを暴露しているシーンが脳裏に過ぎって、絶望した。
「わ、分かったよ・・・!その代わり絶対、金輪際、先輩に俺とのこと、言うなよ!この前みたいに誤魔化さないでちゃんと約束しろ!」
「ああ、いいよ。何だったら録画でもする?」
堀越はあっさりとそう言って、「ほらスマホ出せよ」と戸惑っている俺からスマホを受け取ると、本当に録画しながら「璃央が俺んち泊まりに来てくれたら、俺は璃央とのことを先輩に言わないって約束する」と言った。
あまりに素直過ぎて、何か裏があるんじゃねーか?と逆に疑うくらいだった。
でも、録画したんだから何かあったらこれで乗り切ろう。
フォルダにしっかり残っている、堀越の動画を確認しながら思った。
「なぁ、今日バイト何時に終わるの?」
ふいにそう聞かれて、
「え?22時だけど」
怪訝に思いながら答えると堀越はニコッと笑った。
「じゃあさ、終わる頃迎えに行くから。それで俺んち行こうぜ」
「いきなりかよ!?」
ぎょっとしたけど、先延ばしにされてその間ずっと気になってんのも心臓に悪いから、さっさと済ませてしまった方がいいかもな、と思い直して、俺は渋々頷いた。
「・・・分かったよ。けど、絶対先輩に見つからないようにしろよな。店の前でなんか待つなよ。店出たらメッセージするから友達登録しといて」
「ん。おけ」
仕方なく堀越とメッセージアプリで友達になって、連絡が取れるようにすると、俺は「じゃあな!」と席に戻った。ああもう、せっかくのカレーが冷めちゃったじゃんかよ。
「璃央、大丈夫?堀越と何話してたん?なんか叫んでなかった?」
席で待っていた透夜が心配そうに聞いてくる。
ああ、もうあいつマジでクソクズでさ、って言いたいところだけど、言ったら絶対理由聞かれるしな。
「ん、んん~?そっか?いやぁ~話してたら興奮してつい、声がデカくなっただけだよ。アハハ・・・」
「ふーん、そっか?」
我ながら苦しい、と思う言い訳で誤魔化したけど、透夜も訝しそうな顔しながらも、それ以上追及してこなかったから助かった。
*****
バイトに行くのにこんなに緊張したことあったっけ?ってほど緊張して、俺は店に入った。店内の様子が見えないのがよけい、心配なんだよな。俺はキッチンで、先輩はホールだからさ・・・
俺がいない時に堀越がよけいなこと言わないかハラハラする。一応証拠の動画もあるし、約束はしたけど、あいついまいち信用出来ねーし。
「田中君。今日、君の大学のサークルの子達、予約入れてたよね。その子達来たらホールに代わる?」
「え・・・いいんですか?」
俺の所属してるサークルが何度かここで飲み会やってるから、気を遣ってくれたんだろう。店長にそう言われて俺は少しホッとした。
これで先輩を堀越に近付けないで済む。
落ち着いた俺は、キッチンでいつものように鳥焼いたり食材を用意したり、忙しく動き回った。そして、透夜たちがやって来た。
「おー、働いてる働いてる~」
揶揄うように言う透夜に「うるせー。ほら、飲み物のオーダー取るから言えよ」と返しつつ、目を走らせるとこっちを見ている堀越と目が合った。
分かってるよな?の意味でじっと見てやったけど、外面なのかニコッと人のいい笑顔を返して来る。
そして堀越の横には最近サークルに入ったらしい、見慣れない女の子達がいて、きゃっきゃっと楽しそうに堀越に絡んでいた。
堀越も内心どう思ってるかは知らねーけど、表面上は優しく笑って話している。
何だやっぱ、普通に女の子にもモテるんじゃねーか、あいつ。
クソクズのくせに生意気な!と思いながらオーダーを受けて、陸人先輩にドリンクを作って貰う。
「楽しそうだね。璃央のサークルの子達。璃央も一緒に飲みたかっただろ」
陸人先輩に言われて俺は首を振る。
「別に。先輩知ってるでしょ、俺、酒そんな強くないんだって」
「はは、そうだったよね。酔っぱらった璃央可愛すぎるから、他の人の前じゃ飲まない方がいいな。はい、出来たやつから持って行って」
「はーい」
こそこそとそんなことを話して、透夜たちの所に出来たドリンクを持って行った。
「はーい、ウーロンハイと、ビール、レモンサワー、角ハイボールお待たせしましたー」
「来た来たー」
「それこっちね」
俺はドリンクをテーブルに置きながら、ちらっと堀越を見た。
さっきの女の子たちに両脇を固められて話しかけられてる。あの、俺に対するクズぶりがウソみたいに穏やかそうに笑ってて、こいつホントに堀越か?と疑うくらいだった。
ゲイだって言ってたけど、女の子もいけるバイなんじゃねーの?
・・・まあいいや。
まだまだドリンク運ばなきゃだしな。
俺はまた陸人先輩の所に戻って、出来たドリンクを片っ端から運んで行った。
「ウーロン茶と、オレンジジュースの方ー」
最後の方にソフトドリンクを持って行ったら、「それ、俺の」と堀越が手を伸ばして俺からウーロン茶を受け取った。
こいつ、そういえばいつも酒は飲まないよな。車で通学してるからか。まあそこはクズじゃなくて良かったよ。そんなことを思いながら立ち去ろうとしたら、堀越が手を掴んで来た。
「ちょ、お客様ぁ、何ですか?」
人目があるから邪険に出来ずに、顔が引き攣ったけど接客用の笑顔でそう言うと、堀越は「トイレどこかな?」と聞いて来た。
そんなん聞かなくても、店内表示でハッキリ分かんだろが!
と思いながら、
「ああ、トイレならあちらの奥になりますぅー」と手で指示してやった。
「え?ごめん、俺酔ってるみたいで一人で行けそうにないから、連れてってくれないかなあ?」
「お前っ、まだ一口も飲んでねーだろが!それにっもが!」
頼んだのもウーロン茶だろーが、と言おうとしたら堀越に口を塞がれた。
「いいから連れてけよ。先輩にこんなところ見られていいの?」
こっ、このクソ野郎が!
ムカついたけど、客席でごちゃごちゃやってるのは良くない。俺は「分かったよ!」と言うと、堀越の腕を強く掴んでトイレまで引っ張って行ってやった。
奥まっていて客席からは見えにくい場所だ。
小声で「お前何考えてんだ!」と言うと、堀越はハァ、と溜息を付いて言った。
「だってさ、女に絡まれてウザかったんだよ。だからヤなんだよな、こういう場って」
あれ、女の子に囲まれて喜んでると思ったのは気のせいだったのか。やっぱこいつ女の子は好きじゃねーのかな。
「だからってたかがトイレくらい、俺に案内させることねーだろ」
呆れてそう言ったけど、堀越はそれをスルーして、「それよりさ」と口を開いた。
「あいつなんだろ。お前が付き合ってんのって。俺には負けるけど、あの茶髪のイケメン」
堀越が指差してるのは、まさに陸人先輩だった。
「な、なんで分かったんだよ?」
思わず言ってしまってから、やべぇと口を押えた。
「あはは、ほんとアホ可愛いなぁ、璃央は。なるほどねぇ、あれが陸人先輩か。ふーん。あいつといつもヤッてんだ。へーえ、そーかー」
好奇心なのか、何なのか、じっと先輩を見つめる堀越に釘を刺す。
「おい、分かってるだろうな。約束」
「はいはい、大丈夫大丈夫」
かるーく言う堀越に不安が募ったけど、早く仕事に戻らなきゃと焦って、俺は「大人しくしとけよ」と言い置いてドリンク運びに戻った。
それから怒涛のように忙しい時間が過ぎて、2時間くらいしたらサークルのやつらも飲み会を終えて帰って行った。
堀越は女の子がウゼーとか言ってたくせに、席に戻るとウソみたいに笑って話してて、こいつ二重人格かよと思った。
とりあえず約束は守られたみたいで、堀越が陸人先輩に話しかけたりすることもなくホッとした。
まあ、先輩も忙しくしてたから、声掛ける隙もなかっただろうけどな。
「え?今日、俺のバ先で飲み会やんの?」
「そう。お前仕事中で悪いけどさ、雰囲気だけでも楽しめよ」
学食でカツカレーを食ってたら、透夜が隣に座って来てそう言った。
「え~、お前ら騒いで店に迷惑掛けんなよな。あといっぱい注文して店に貢献しといて」
「大丈夫大丈夫、任せといて」
そんなことを言って笑い合っていたら、俺の肩をポン、と叩くやつがいた。
振り返ると人のいい笑顔で堀越が立っていた。
「げっ!?ほ、堀越・・・」
「へ~?今日璃央クンのバ先で飲み会あんの?松原くん、俺も行きたいんだけど、いいよね?」
そう言われて透夜はぎこちない笑顔で頷いた。
「う、うん、もちろん!あ、会費3000円ね」
「分かった」
そう言って堀越は俺を振り返ると、ニコリと笑った。
「楽しみだな~。働いてる璃央クン見んの。一緒に働いてる先輩も今日いるんだよね?」
ドッと冷や汗が出て、心臓がドキドキして来た。
「お、おい、絶対、先輩に余計なこと言うなよ・・・」
「余計なことって?あ~、俺と璃央クンが『仲良く』してることとかかな?」
とぼけた顔でそんなことを言う堀越に、透夜はもちろん訳が分からないって顔をしてぽかんとしている。
俺は焦ってガタン、と席を立つと、
「ちょっと来い!」
堀越の腕を掴んで学食の端に移動した。大人しく付いて来た堀越は無表情で、何を考えているのか分からない
「おい、お前どういうつもりなんだよ?波風立てるようなことするつもりじゃねーだろうな?」
声を潜めながらも強く言うと、
「さあな?けどさ、お前が俺んち泊まりに来るなら、お前の先輩には全部黙っておいてやってもいいぜ」
堀越のやつはそんなことを言い出した。
「お、お前・・・ほんっと、クソクズだな!この・・・!」
思わず叫んでしまったら周りのやつらに驚いた目で見られて、俺は仕方なく途中で黙った。
けど、ホント、マジでこいつ、最低最悪な奴だ。ああ、あの時の俺に言ってやりたい。
こんな奴に相談なんかすんなよ!って。
堀越は俺の言ったことはスルーして、澄ました顔をしている。
「で?どうすんの?」
「う・・・」
俺は汗の滲む拳をぎゅっと握りしめた。
こいつ、絶対面白がってる。堀越が先輩を掴まえて『面白いこと教えてやろうか』なんて言いながら俺とのあれこれを暴露しているシーンが脳裏に過ぎって、絶望した。
「わ、分かったよ・・・!その代わり絶対、金輪際、先輩に俺とのこと、言うなよ!この前みたいに誤魔化さないでちゃんと約束しろ!」
「ああ、いいよ。何だったら録画でもする?」
堀越はあっさりとそう言って、「ほらスマホ出せよ」と戸惑っている俺からスマホを受け取ると、本当に録画しながら「璃央が俺んち泊まりに来てくれたら、俺は璃央とのことを先輩に言わないって約束する」と言った。
あまりに素直過ぎて、何か裏があるんじゃねーか?と逆に疑うくらいだった。
でも、録画したんだから何かあったらこれで乗り切ろう。
フォルダにしっかり残っている、堀越の動画を確認しながら思った。
「なぁ、今日バイト何時に終わるの?」
ふいにそう聞かれて、
「え?22時だけど」
怪訝に思いながら答えると堀越はニコッと笑った。
「じゃあさ、終わる頃迎えに行くから。それで俺んち行こうぜ」
「いきなりかよ!?」
ぎょっとしたけど、先延ばしにされてその間ずっと気になってんのも心臓に悪いから、さっさと済ませてしまった方がいいかもな、と思い直して、俺は渋々頷いた。
「・・・分かったよ。けど、絶対先輩に見つからないようにしろよな。店の前でなんか待つなよ。店出たらメッセージするから友達登録しといて」
「ん。おけ」
仕方なく堀越とメッセージアプリで友達になって、連絡が取れるようにすると、俺は「じゃあな!」と席に戻った。ああもう、せっかくのカレーが冷めちゃったじゃんかよ。
「璃央、大丈夫?堀越と何話してたん?なんか叫んでなかった?」
席で待っていた透夜が心配そうに聞いてくる。
ああ、もうあいつマジでクソクズでさ、って言いたいところだけど、言ったら絶対理由聞かれるしな。
「ん、んん~?そっか?いやぁ~話してたら興奮してつい、声がデカくなっただけだよ。アハハ・・・」
「ふーん、そっか?」
我ながら苦しい、と思う言い訳で誤魔化したけど、透夜も訝しそうな顔しながらも、それ以上追及してこなかったから助かった。
*****
バイトに行くのにこんなに緊張したことあったっけ?ってほど緊張して、俺は店に入った。店内の様子が見えないのがよけい、心配なんだよな。俺はキッチンで、先輩はホールだからさ・・・
俺がいない時に堀越がよけいなこと言わないかハラハラする。一応証拠の動画もあるし、約束はしたけど、あいついまいち信用出来ねーし。
「田中君。今日、君の大学のサークルの子達、予約入れてたよね。その子達来たらホールに代わる?」
「え・・・いいんですか?」
俺の所属してるサークルが何度かここで飲み会やってるから、気を遣ってくれたんだろう。店長にそう言われて俺は少しホッとした。
これで先輩を堀越に近付けないで済む。
落ち着いた俺は、キッチンでいつものように鳥焼いたり食材を用意したり、忙しく動き回った。そして、透夜たちがやって来た。
「おー、働いてる働いてる~」
揶揄うように言う透夜に「うるせー。ほら、飲み物のオーダー取るから言えよ」と返しつつ、目を走らせるとこっちを見ている堀越と目が合った。
分かってるよな?の意味でじっと見てやったけど、外面なのかニコッと人のいい笑顔を返して来る。
そして堀越の横には最近サークルに入ったらしい、見慣れない女の子達がいて、きゃっきゃっと楽しそうに堀越に絡んでいた。
堀越も内心どう思ってるかは知らねーけど、表面上は優しく笑って話している。
何だやっぱ、普通に女の子にもモテるんじゃねーか、あいつ。
クソクズのくせに生意気な!と思いながらオーダーを受けて、陸人先輩にドリンクを作って貰う。
「楽しそうだね。璃央のサークルの子達。璃央も一緒に飲みたかっただろ」
陸人先輩に言われて俺は首を振る。
「別に。先輩知ってるでしょ、俺、酒そんな強くないんだって」
「はは、そうだったよね。酔っぱらった璃央可愛すぎるから、他の人の前じゃ飲まない方がいいな。はい、出来たやつから持って行って」
「はーい」
こそこそとそんなことを話して、透夜たちの所に出来たドリンクを持って行った。
「はーい、ウーロンハイと、ビール、レモンサワー、角ハイボールお待たせしましたー」
「来た来たー」
「それこっちね」
俺はドリンクをテーブルに置きながら、ちらっと堀越を見た。
さっきの女の子たちに両脇を固められて話しかけられてる。あの、俺に対するクズぶりがウソみたいに穏やかそうに笑ってて、こいつホントに堀越か?と疑うくらいだった。
ゲイだって言ってたけど、女の子もいけるバイなんじゃねーの?
・・・まあいいや。
まだまだドリンク運ばなきゃだしな。
俺はまた陸人先輩の所に戻って、出来たドリンクを片っ端から運んで行った。
「ウーロン茶と、オレンジジュースの方ー」
最後の方にソフトドリンクを持って行ったら、「それ、俺の」と堀越が手を伸ばして俺からウーロン茶を受け取った。
こいつ、そういえばいつも酒は飲まないよな。車で通学してるからか。まあそこはクズじゃなくて良かったよ。そんなことを思いながら立ち去ろうとしたら、堀越が手を掴んで来た。
「ちょ、お客様ぁ、何ですか?」
人目があるから邪険に出来ずに、顔が引き攣ったけど接客用の笑顔でそう言うと、堀越は「トイレどこかな?」と聞いて来た。
そんなん聞かなくても、店内表示でハッキリ分かんだろが!
と思いながら、
「ああ、トイレならあちらの奥になりますぅー」と手で指示してやった。
「え?ごめん、俺酔ってるみたいで一人で行けそうにないから、連れてってくれないかなあ?」
「お前っ、まだ一口も飲んでねーだろが!それにっもが!」
頼んだのもウーロン茶だろーが、と言おうとしたら堀越に口を塞がれた。
「いいから連れてけよ。先輩にこんなところ見られていいの?」
こっ、このクソ野郎が!
ムカついたけど、客席でごちゃごちゃやってるのは良くない。俺は「分かったよ!」と言うと、堀越の腕を強く掴んでトイレまで引っ張って行ってやった。
奥まっていて客席からは見えにくい場所だ。
小声で「お前何考えてんだ!」と言うと、堀越はハァ、と溜息を付いて言った。
「だってさ、女に絡まれてウザかったんだよ。だからヤなんだよな、こういう場って」
あれ、女の子に囲まれて喜んでると思ったのは気のせいだったのか。やっぱこいつ女の子は好きじゃねーのかな。
「だからってたかがトイレくらい、俺に案内させることねーだろ」
呆れてそう言ったけど、堀越はそれをスルーして、「それよりさ」と口を開いた。
「あいつなんだろ。お前が付き合ってんのって。俺には負けるけど、あの茶髪のイケメン」
堀越が指差してるのは、まさに陸人先輩だった。
「な、なんで分かったんだよ?」
思わず言ってしまってから、やべぇと口を押えた。
「あはは、ほんとアホ可愛いなぁ、璃央は。なるほどねぇ、あれが陸人先輩か。ふーん。あいつといつもヤッてんだ。へーえ、そーかー」
好奇心なのか、何なのか、じっと先輩を見つめる堀越に釘を刺す。
「おい、分かってるだろうな。約束」
「はいはい、大丈夫大丈夫」
かるーく言う堀越に不安が募ったけど、早く仕事に戻らなきゃと焦って、俺は「大人しくしとけよ」と言い置いてドリンク運びに戻った。
それから怒涛のように忙しい時間が過ぎて、2時間くらいしたらサークルのやつらも飲み会を終えて帰って行った。
堀越は女の子がウゼーとか言ってたくせに、席に戻るとウソみたいに笑って話してて、こいつ二重人格かよと思った。
とりあえず約束は守られたみたいで、堀越が陸人先輩に話しかけたりすることもなくホッとした。
まあ、先輩も忙しくしてたから、声掛ける隙もなかっただろうけどな。
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