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奢りならいくらでもいけます
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バイト時間が終わって、ロッカールームで着替えをしながら、堀越に『今終わったから、店の外に出たらまたメッセージする』と打ったら、すぐに既読が付いて『分かった』と返信が来た。
はぁ、と溜息を付いてアプリを閉じたところで、ガチャッとドアが開いて陸人先輩が入って来たから、あっぶねー!とドキドキしながらスマホをポケットにしまった。
「璃央お疲れ」
「先輩もお疲れ」
内心のドキドキを隠して笑うと、陸人先輩は申し訳なさそうな顔をして言った。
「璃央、あのさ、またしばらく忙しくて会えそうにないんだ」
「え、あ、ああ、そうなんだ・・・」
またかと思ったけど、その反面、ホッとした。
だって堀越とこんなことになっちゃってて、それで平然と先輩とあれこれするのは、やっぱり気まずいし。
「ごめんね。また落ち着いたら璃央の部屋行くからさ」
そう言われて俺は素直に頷いた。
「うん、分かった」
「それじゃ、またね」
この後用事があるんだ、と言って急いで着替えて出て行く先輩を見送って、俺は一呼吸おいてから店の外に出た。
暗がりを見回すけど、堀越の姿は見えない。よし。店には来なかったみたいでホッとする。
店から少し離れた所まで歩いてから、メッセージを送った。
『店出たけど』
その時、急に誰かに後ろからぎゅっと抱き締められて死ぬほどビビった。
「うぉおおおああ!?」
「なんつー声だよ」
振り向くと、呆れたように笑う堀越の顔が至近距離にあった。
「お、お前っ!変質者かと思ったわ!」
いや、ある意味間違ってねーな。
暴れたら、堀越はあっさり離してくれた。
「はは、ビビり過ぎ。ウケるわ」
「ったく!もういいから、行くならさっさと連れてけよ」
「ハイハイ。車こっち置いたから」
先を歩いていた堀越がふいに振り向いて言った。
「お前、腹減ってる?」
「え?まあ、全然余裕で入るけど」
一応店で賄い出るんだけどな。まだまだ育ち盛りだからさ、俺。
「ふーん、そっか」
堀越はニヤリと笑うと、俺の肩に腕を回した。
「じゃあ、お前が喜びそうな店に連れてってやるよ。もちろん俺の奢りで」
「え、マジ?」
それを聞いて不覚にもちょっと嬉しくなってしまった。抱かれた肩も気にならなくなるくらいだ。だって俺、堀越と違って貧乏学生だもん。人の金で腹いっぱい食える機会は逃さねーぞ。
俺が機嫌良くなったのに釣られたのか、堀越も上機嫌で「肉と魚どっちが好き?」なんて聞いてくるから俺は元気よく「肉!」と答えた。
「ん、分かった分かった」
店から少し離れたコインパーキングにやって来ると、堀越はあの例の高級車の助手席のドアを開けてくれた。
「ほら、乗れよ」
「おう」
やっぱり爽やかな匂いがする。そういえば、いつも堀越に抱きつかれるたび、それに・・・ヤッてる時もあいつからこの匂いがしてるよな。車内の芳香剤なのか、堀越が付けてる香水なのか知らねーけど。
何か、この匂い嗅ぐと堀越のこと思い出しそう。
って、何考えてんだ俺は!?
堀越が「じゃ行くか」とエンジンを掛けると、車は静かに走り出した。
「この車、ほんと静かだよなー。やっぱり高いだけあるよな」
何気なくそう言うと、堀越が冗談なのか何なのか、「運転してみる?」とか言い出した。
俺は焦った。冗談じゃねー、こんな高級車、俺が運転したら100%ぶつける自信がある。
「いいよ、俺ペーパーだし、こうやって助手席座ってる方が好きだし」
「ふぅん、じゃあ、いつでも俺の助手席に乗せてやるよ」
「あははっ、何そのセリフ!何の恋愛ドラマだよ」
堀越の奴、どんな顔して言ってんのかと思って横を見たけど、いつものように澄ました顔だった。
「はーぁ、お前って純愛なんかしたことねーんだろうな」
そう言うと、堀越はクスッと笑った。
「お前こそ、何のドラマだよ。純愛とかさ。やっぱそういうのに夢見るタイプなんだ」
「はぁ?夢見るとかじゃなくてさ、普通にあるだろ純愛!この人のことがめちゃくちゃ好きで、いつでも一緒にいたくて、その人のこと考えるだけで胸がきゅうっとして疼くとか、顔見るとぎゅってしたくなるとかさ!」
ムッとしてそう言うと、
「・・・じゃあお前、そういうのあの先輩に感じるんだ」
堀越は、何となく面白くなさそうな声でボソッと言った。
「そりゃ・・・」
そうだよ!と言おうとしたのに、何か喉に引っ掛かったみたいに言葉が止まってしまった。
堀越と色々あってからの最近の俺は、どっちかっていうと、先輩のこと考えるときゅっとして疼くっていうより、ドキッとして罪悪感ばっかり感じてるよな。会えないってなっても、がっかりするどころかホッとしたりしてさ。
先輩のこと思うだけで胸が甘く疼いてたのって、どれくらい前になるんだろう。
いやでもこれはさ。
堀越と今面倒なことになってるからであって、これが収束したらきっとまた先輩のこと思うだけできゅっとして、会いたくてしょうがなくなるに決まってる。
そうだよ、変なこと考えんな、俺。
「あ、ここ」
その時ちょうど目的の場所に着いたらしくて、堀越がそう言ったから、俺は小さく息をついた。
はぁ、と溜息を付いてアプリを閉じたところで、ガチャッとドアが開いて陸人先輩が入って来たから、あっぶねー!とドキドキしながらスマホをポケットにしまった。
「璃央お疲れ」
「先輩もお疲れ」
内心のドキドキを隠して笑うと、陸人先輩は申し訳なさそうな顔をして言った。
「璃央、あのさ、またしばらく忙しくて会えそうにないんだ」
「え、あ、ああ、そうなんだ・・・」
またかと思ったけど、その反面、ホッとした。
だって堀越とこんなことになっちゃってて、それで平然と先輩とあれこれするのは、やっぱり気まずいし。
「ごめんね。また落ち着いたら璃央の部屋行くからさ」
そう言われて俺は素直に頷いた。
「うん、分かった」
「それじゃ、またね」
この後用事があるんだ、と言って急いで着替えて出て行く先輩を見送って、俺は一呼吸おいてから店の外に出た。
暗がりを見回すけど、堀越の姿は見えない。よし。店には来なかったみたいでホッとする。
店から少し離れた所まで歩いてから、メッセージを送った。
『店出たけど』
その時、急に誰かに後ろからぎゅっと抱き締められて死ぬほどビビった。
「うぉおおおああ!?」
「なんつー声だよ」
振り向くと、呆れたように笑う堀越の顔が至近距離にあった。
「お、お前っ!変質者かと思ったわ!」
いや、ある意味間違ってねーな。
暴れたら、堀越はあっさり離してくれた。
「はは、ビビり過ぎ。ウケるわ」
「ったく!もういいから、行くならさっさと連れてけよ」
「ハイハイ。車こっち置いたから」
先を歩いていた堀越がふいに振り向いて言った。
「お前、腹減ってる?」
「え?まあ、全然余裕で入るけど」
一応店で賄い出るんだけどな。まだまだ育ち盛りだからさ、俺。
「ふーん、そっか」
堀越はニヤリと笑うと、俺の肩に腕を回した。
「じゃあ、お前が喜びそうな店に連れてってやるよ。もちろん俺の奢りで」
「え、マジ?」
それを聞いて不覚にもちょっと嬉しくなってしまった。抱かれた肩も気にならなくなるくらいだ。だって俺、堀越と違って貧乏学生だもん。人の金で腹いっぱい食える機会は逃さねーぞ。
俺が機嫌良くなったのに釣られたのか、堀越も上機嫌で「肉と魚どっちが好き?」なんて聞いてくるから俺は元気よく「肉!」と答えた。
「ん、分かった分かった」
店から少し離れたコインパーキングにやって来ると、堀越はあの例の高級車の助手席のドアを開けてくれた。
「ほら、乗れよ」
「おう」
やっぱり爽やかな匂いがする。そういえば、いつも堀越に抱きつかれるたび、それに・・・ヤッてる時もあいつからこの匂いがしてるよな。車内の芳香剤なのか、堀越が付けてる香水なのか知らねーけど。
何か、この匂い嗅ぐと堀越のこと思い出しそう。
って、何考えてんだ俺は!?
堀越が「じゃ行くか」とエンジンを掛けると、車は静かに走り出した。
「この車、ほんと静かだよなー。やっぱり高いだけあるよな」
何気なくそう言うと、堀越が冗談なのか何なのか、「運転してみる?」とか言い出した。
俺は焦った。冗談じゃねー、こんな高級車、俺が運転したら100%ぶつける自信がある。
「いいよ、俺ペーパーだし、こうやって助手席座ってる方が好きだし」
「ふぅん、じゃあ、いつでも俺の助手席に乗せてやるよ」
「あははっ、何そのセリフ!何の恋愛ドラマだよ」
堀越の奴、どんな顔して言ってんのかと思って横を見たけど、いつものように澄ました顔だった。
「はーぁ、お前って純愛なんかしたことねーんだろうな」
そう言うと、堀越はクスッと笑った。
「お前こそ、何のドラマだよ。純愛とかさ。やっぱそういうのに夢見るタイプなんだ」
「はぁ?夢見るとかじゃなくてさ、普通にあるだろ純愛!この人のことがめちゃくちゃ好きで、いつでも一緒にいたくて、その人のこと考えるだけで胸がきゅうっとして疼くとか、顔見るとぎゅってしたくなるとかさ!」
ムッとしてそう言うと、
「・・・じゃあお前、そういうのあの先輩に感じるんだ」
堀越は、何となく面白くなさそうな声でボソッと言った。
「そりゃ・・・」
そうだよ!と言おうとしたのに、何か喉に引っ掛かったみたいに言葉が止まってしまった。
堀越と色々あってからの最近の俺は、どっちかっていうと、先輩のこと考えるときゅっとして疼くっていうより、ドキッとして罪悪感ばっかり感じてるよな。会えないってなっても、がっかりするどころかホッとしたりしてさ。
先輩のこと思うだけで胸が甘く疼いてたのって、どれくらい前になるんだろう。
いやでもこれはさ。
堀越と今面倒なことになってるからであって、これが収束したらきっとまた先輩のこと思うだけできゅっとして、会いたくてしょうがなくなるに決まってる。
そうだよ、変なこと考えんな、俺。
「あ、ここ」
その時ちょうど目的の場所に着いたらしくて、堀越がそう言ったから、俺は小さく息をついた。
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