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泊まれば?

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「はー、満足満足。一週間分ゴチでしたぁ」

あのあと、散々ヤリまくってさすがに満たされた俺は、色んなものでベットベトになったベッドに転がったまま、溜息を付いた。

「殆どお前が出したものなんだから、ベッドシーツお前が替えとけよ」

雄大はそう言い捨てて、リビングに移動して行った。

「へーへー」

まあ、これくらいならしてやってもいいよ。
気持ち良かったしさ。

俺はクローゼットを開けると、慣れた手つきで棚に積んであるダークブルーのベッドシーツを手に取った。

こいつんち、週に何回かお手伝いさんが来て、家の事全部やってくれるんだってさ。
だから本人に片付ける気がゼロでも、家の中はいっつもきれいだ。

バサッとシーツをひっぺがすと、何かがベッドの脇に落ちた。

「ん?なんだこれ」

拾ってみると、それは銀のイヤーカフだった。

は~ん。昨日はお手伝いさんが来る曜日だったはずだから、今日誰か来てたんだろうな。
けっこういいデザインじゃん。俺もこういうの欲しい。

「なあなあ、雄大!これ誰の?」
「あ?なに」

キッチンで水を飲んでいる雄大に、今拾ったイヤーカフを見せる。

「ベッドのとこにあったよ」
「ふーん。誰だったか覚えてねー。捨てといて」

ヤるだけヤっといて興味ゼロかよ。
・・・かわいそ。

「要らないんなら、俺がもーらおっと。お、いいじゃん!どう?似合う?」

俺はイヤーカフを耳に着けて、リビングの鏡に映して見た。我ながら似合ってる。

にこにこで雄大を振り向いたら、雄大は渋い顔をして俺を見ていた。
かと思うと、つかつかと歩いて来てペッと俺の耳からイヤーカフを抜き取る。

「似合わねーし、他人のじゃん。捨てろよ」

ポイッとゴミ箱に放り込まれて、俺は絶叫した。

「あーーっ!!もったいないっ!これだから金持ちは!」

がさがさとゴミ箱を漁ったら、

「うわっ、誰のか分かんない変な液がべちょって!知らないやつのはさすがに嫌だよぉ」
「汚ぇな。やめろ」

眉間に皺を寄せた雄大に腕を引っ張られて、ずるずるとゴミ箱から引き離された。

「そんな欲しいんなら今度買ってやる」
「え!?」

今まで雄大の口から出た事がない言葉に、俺は驚きすぎて固まった。

「え?今、買ってくれるって言った?」

聞き間違いかと思って、もう一回聞いたけど、雄大は「ああ」と答える。

「えーーーーっ!!珍しい!雄大が俺に何かくれるとかさ!お前なんか変なもんでも食べたの!?あっ、それかさっきのプレイ、めちゃくちゃ気に入ったんだろ!?それでだ!」

そう言ったら、雄大はぷいとよそを向いた。

「別に、こんなの大した金額じゃねーし。精子まみれのゴミ箱漁るの見てたら、あまりにもお前が哀れになったんだよ。あと、今日のプレイは後半はいいとして、前半のいちゃらぶシチュは正直微妙だったぜ。お前のキャラ、ブレブレだったし」

きっぱりと言われて、俺は盛大にブーイングした。

「えー?えー?えー?なんでだよ、いちゃらぶシチュ最高だったのにさ!」
「おい、変なの付いた手で触んな!シャワー浴びて来い」
「あ、そっか。あはは、悪い悪い~」

嫌そうな雄大から離れて、俺は素っ裸のまま、バスルームに向かった。
せっかくだからお湯溜めてゆっくり入ろ。どうせあとは家帰って寝るだけだし。

湯沸かしボタンを押して『お湯張りをします』って機械音声を聞きながら、制服のことを思い出して、また素っ裸のままリビングに戻った。

「なー、お前に貸した制服どこ?今日持って帰るからさ」

雄大は変な顔をして俺の事を見てる。

「帰んの?」
「え?」

なに言ってんの、こいつ。

俺だってもう今から帰るのめんどくさいし、ホントは泊まりたいよ。だけど、雄大は他人がいるとゆっくり寝れねーとか言って、誰も泊まらせた事がないんだ。
いつも『終わったら帰れ』って追い出すくせにさ。

「帰るけど?お前、人泊まらすの嫌いじゃん。俺も明日1限からだしさ」

だからそう言ったら、雄大は壁の時計を指差した。

「もう電車ねーよ」
「ええマジかあ、じゃタクシー代くれよ。お前が後半しつこかったから、時間押したんだからね」

まあ俺も夢中になって何度もお代わりねだったし、雄大のせいだけには出来ないけど。
終電逃した時は大体タクシー代くれるからそう言ったら、雄大は一言「やだ」と言った。

「えっ!?なんで!?タクシー代くれないなんて、雄大いつからそんなケチになったんだよ?お前のいいとこは金持ってて気前いい所だけだろ!それ取ったらクソなんだから!」
「だけじゃねーだろ。テクがあって絶倫で顔も体もいいだろ」
「あっ、そうだね!・・・じゃなくてさ!タクシー代くれないなら、お前の車で俺んちまで送ってよ?」

雄大がそんな事するはずないよなって思いながらも、一応言ってみた。ダメ元で何でもやってみる、って大事じゃん?

でも案の定、雄大はカチッと煙草に火を点けながらダルそうに言い放った。

「は?めんどくせー。なんで今から俺が、わざわざお前を家にまで送ってやんなきゃいけねんだよ。絶対ヤだ」
「あーーっ、やっぱダメかよぉ!うう、もったいないけど自腹で・・・」
「だから、泊まれば」

頭を抱えて蹲った俺の耳に、ボソッと呟いた雄大の声が飛び込む。

あれ?
なんか聞き慣れない言葉が聞こえなかった?

「今、泊まればって言った?」

頭を上げて聞き直すと、

「言った」
と一言。

「えっ・・・まじ、どうしたのお前?やっぱなんか、変なもんでも食べた?えっ、ひょっとして何かの性病?やば、俺さっきお前と生でヤッちゃったじゃん、どうしよ」

心配になって狼狽えていたら、雄大に「アホかお前は」ってぱしっと頭をはたかれた。

「泊まりたくねぇなら、そのまま帰れば?」

ふーっと煙を吹きかけられて、咽ながら慌てて「泊まる!泊まりたい!」って言ったら、雄大はダルそうな態度のまま「そ」とだけ言って、リビングのソファに座り込んだ。

なんか今日、色々変な事が起こってるな。
でもまあ、いっか。
こいつんちの方が大学に近いし、泊まっていいって事は家のもの好きに使っていいって事だよね。
冷蔵庫にある高級食材使って、夜食作って食べちゃおうっと。

「あっと、その前に風呂風呂~」

バスルームに戻ろうとしたところで、最初の目的を思い出した。

「あ、なあ雄大、制服・・・」
言いかけたところで、

「明日ハウスキーパー来る日だから、置いとけよ。クリーニング出しといてやる」

そう言われて喜んだ。

「やった、さんきゅ!・・・あ、そうだ。俺のは他のやつとプレイに使ってもいいけどさ、お前に貸した方は使わないでね?」

一応釘を刺しておくと、雄大はスマホを見ながら「はいはい」と返事した。

「人生過ぎるの早いからって~そんなに全力出さなくてもいい~」
鼻歌を歌って踊りながら、俺はバスルームに向かったのだった。
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