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【第一章】一部
【呼び出されし者】06.治療
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奴隷商(仮)に捕まったらしい俺
幸い服は剥ぎ取られていないので、デニムパンツとコートは着たままだ。
ポケットのスマホもファスナーポケットだったお陰か取られていない。
物色された感じはあったが魔素結晶も内側のファスナーポケットに入れてて助かっている。
かといってこのままじゃいずれ剥かれるのは確定事項だから逃げ出さないと。
周りを見ると同居人は6人。
床に寝ている者や鉄格子にもたれ掛かり俯いている者。身なりはそれほど酷くはないがみなどこかしら怪我をしているようだ。
一番近くのおっさんをアナライズしてみる。
ダラ 43歳
人族
HP 14/22
MP 09/15
脱水症状 中度
栄養失調 中度
複雑骨折 右第9肋骨 右第10肋骨
うわ、肝臓傍の肋骨が折れてる。
奴隷は商品なのにこんな怪我させちゃ売れないだろ。俺らを捕まえた連中は奴隷商じゃないのか?商売人としちゃ商品傷物にするとかド素人だろ。
幸い単純骨折だから安静にしておけば、多少痛むだろうけど3ヶ月程度で治るだろうけど、それも十分な栄養の摂取と休養があっての話だ。
既に栄養失調だし、この先もまともな食事はさせてもらえないだろう。
ともかく一番不味いのは脱水症状だ。
人間、体脂肪がある限りそうそう食事抜きでも餓死はしないが、渇水状態だと数時間で意識が混濁、4日程度で体液の不足やその他様々な症状で死ぬらしい。
俺はおっさんに近付くと小声で声をかける。
「大丈夫ですか?水、飲めますか?」
おっさんことダラは、虚ろな目で俺を見つめると「水をくれ」と掠れた声を絞り出した。
「わかりました。魔術で水を出しますので両手で受けてむせないように落ち着いて飲んでくださいね。クリエイトウォーター」
ダラが両手を揃えて受ける形にしたので水を作り出す。
両手の平の上に10cmくらいの水玉が出現すると手の中に落ちる。
ダラは慌てずゆっくりと喉を鳴らしながら飲み干す。
「まだ飲めますか?」
頷くのを確認して再度水玉を作り出す。
飲み干すのを確認してから横になり休むことを勧める。
「ありがとう。助かった。そうさせてもらうよ」と呟くと横になろうとするとやはり右脇腹の骨折が痛むのだろう呻き声を漏らす。
痛むのは想像できたので首の後ろと背中を手で支えながら身体を横にさせる。
「右脇腹が痛いみたいですね。診てみますので痛かった言ってください」
服を脇腹に負担が掛からないようにめくると一番下の辺りの肋骨周辺がバットで殴られたような形でうっすらと痣になっているが外見上骨折しているかはわからない。
触るのは可哀想なので改めて痣周辺をアナライズしてみる。
おおお、仮想イメージなのだろうが折れた骨のイメージが皮膚表面に線で表示される。
それぞれの骨が2ヶ所ずつ折れている。
「骨が折れてるようですね。治るかわかりませんが試してみますね」と断りを入れてヒール(仮)を骨折している4ヶ所をロックして発動してみる。
アナライズをし続けて骨折の状況を確認し続けるとゆっくりとだが骨が元の位置に戻りながら接合していくのがわかる。
骨折にもヒール(仮)で対処可能なことが証明された。自分で痛い思いして確認しなくて済んだとおっさんダラに心の中で感謝をする。
「痛みが消えたよ。ありがとう」というと安定した寝息を起て始めたのでほっとする。
ダラ 43歳
人族
HP 22/22
MP 12/15
脱水症状 軽度
栄養失調 中度
アナライズで確認する。大丈夫そうだ。
同様に怪我や脱水症状の人達の治療や給水を行っていく。
最後の一人はフード付きのマントで身をくるんだ女の子だった。
逃避する前に遠目で見ていたときは寝ているのかと思ったが違った。
ぐったりと床面に転がって気絶している。
フードを捲って顔を覗いてみるとギョッとして思わず仰け反ってしまった。
「しまった。寝ていると思ったから最後に回したのが仇になった」
酷い。全身痣だらけ、左手はゴム手袋を空気で膨らませたみたいにパンパンに腫れ上がっている。至る所に骨折があり両腕は半ばであらぬ方向にネジ曲がり、ハッハッと浅く短い呼吸を繰り返している。両瞼と唇の腫れ上がった顔も全体的に真っ青だ。
クミン 10歳
獣人(混血) モモンガ種 蜘蛛種
HP 02/36
MP 02/22
脱水症状 重度
栄養失調 重度
臓器破損 肝損傷
粉砕骨折 左第2中手骨 左第3中手骨 左第4中手骨 左第5中手骨 左第5基節骨 左第5中節骨 左第5末節骨
複雑骨折 右尺骨 左尺骨 右第8肋骨 右第9肋骨 右第10肋骨
単純骨折 下顎骨
(全身滅多打ちで瀕死じゃないか。酷すぎる)
ギリリッパキンと奥歯から音がした。奥歯が欠けるほと無意識に噛み締めていた。
ふざけるなよ!こんな子供に、しかも女の子だぞ!
と心の中で叫びながら御者台を睨み付ける。
お前らがやったのか?違うとしても何故こんな状態で放置していたんだ!
やるせない想いから胃の底に重いものが溜まる感覚と共に頭に血が駆け登りアドレナリンが放出される。ふーふーと息が荒くなる。
これが殺意というものなのかよ!!
生まれて初めてだ、こんな惨いことをする奴を殺してやりたいと思ったのは!
この世界の人間はこんなことが平気で出来るのかよ!
ぶわっと溢れ出てくるのが自分でもわかるほど大量の涙が止まらない。
ともかくヒールを、今まで持ってたのが不思議なくらいなのだから急がないと。
一番急がないと不味いのは肝損傷だろう。
肝臓を意識してアナライズする。
肝臓のイメージが線で描かれると肝臓の中心内部で割れている。衝撃で肝臓内部が裂けてしまったようだ。
割れた部分をロックし、魔力制御で魔力を追加してヒール(仮)を発動する。
アナライズで経過観察を行うが、裂傷は塞がらないどころか裂け目が拡がる。
再生組織に溜まった血液が圧されて逃げ場を失い肝臓の裂け目を圧し拡げてているのだ。慌ててヒールをキャンセルする。
「くそ!このままじゃダメだ!」
気持ちが焦り、手の平に汗が吹き出る。
死ぬな!死ぬな!死ぬなよ!
裂けた部分に貯まった血液が邪魔しているのが原因のようで裂け目の再生を阻害しているようだ。
(あの貯まった血を先に取り除かないと再生が上手く働かないのか)
考えろ、考えろ俺、こんな小さな子をこのまま死なせてしまうのか?
邪魔なら排出させれば良いだけだ。
頭が冷えていき、冷静に欲しい魔術礎をかき集める。
形状シリンダー!材質銀!サイズ径3mm×300mm!
中空にするために内部にもうひとつ!
形状シリンダー!材質生理食塩水!サイズ径2.9mm×310mm!
「クリエイト インジェクションニードル!」
死ぬな!死ぬなよ!死なせない!生きてくれ!
作り出した針を肝臓の血溜まりまでの長さの部分を左手で握り針先を右手で固定しアナライズのイメージに併せて一気に挿し込む。
ぶつりと肉を貫く嫌な感触が手に伝わり背筋におぞけが走る。
ぶしゃっと針の中の生理食塩水が飛び散る。アナライズは継続したまま針先が患部まで到達しているのを確認すると再度ヒール(仮)を発動する。
組織の再生が始まるとそれに押し出されて貫通した肉片と溜まっていた血液が吹き出してくる。
再生組織が針を包み始めるのを確認して抜き取る。
吹き出した血液をもろに被って俺は血塗れだ。
クミン 10歳
獣人(混血) モモンガ種 蜘蛛種
HP 19/36
MP 01/22
脱水症状 重度
栄養失調 重度
粉砕骨折 左第2中手骨 左第3中手骨 左第4中手骨 左第5中手骨 左第5基節骨 左第5中節骨 左第5末節骨
複雑骨折 右尺骨 左尺骨 右第8肋骨 右第9肋骨 右第10肋骨
単純骨折 下顎骨
良かった。肝損傷は無くなっている。HPも瀕死から脱している。呼吸も少し落ち着いてきているし顔色も少し赤みが点してきた。多分肝臓が貧血と判断して血圧を上げようと脈拍を上げていたのが収まったのかもしれない。
しかしMPが減ってる。俺はMPが枯渇しても秒単位で回復するから平気だけど、もしこの子が魔術で生命を維持していたらMP切れが致命的になるかもしれない。そう思い至り急がないとと気を引き締める。
次に命に係わるのは脱水症状か。あちこちの骨折も痛々しいが今すぐ命に直結しないだろう。
しかしこの子は意識が無いから飲ませるわけに行かない。
点滴が出来れば手っ取り早いのだが、こんな揺れる場所で針を刺しっぱなしは怖いだろ。それに静脈注射なんて経験無いことをぶっつけ本番ではやりたくない。
喉を通すにしても適度に柔らかいチューブがないと難しい。柔らか過ぎてもダメだ。
「!」
魔術礎を漁る。
「あった」
メチルシリコンゴム、点滴のチューブやカテーテルとして使われてる素材だ。
姉に感謝だ。サンキュー酒乱。
俺がまだ小さい頃に看護学生だった酔っ払っいの姉がカテーテルの練習させろと夜中に乗り込んでひん剥かれるというトラウマになる出来事があったんだがその時に製品の袋に記されてた素材を見ていたのがこんなところで役立つとは。
俺の引き釣る表情をあの嬉しそうにニヨニヨしながら迫ってきた姉は絶対赦す気にはならんけど。
この世界の過去は相当進んでいたらしいが、俺の世界にもある素材もやはり存在して良かった。
どこも似たような科学進歩をするものなんだろうか?
魔術があると違った進化をしそうなものだけど・・・
チューブを挿入するためにまず瞼と唇にヒール(仮)を掛けて腫れを引かせる。腫れが引いたその顔はあどけない子供の顔だ。可愛い子じゃないか。また涙が溢れだす。・・・泣いてられない急がなきゃ。
先ほどの針と同じ方法で長めのチューブを作り、首の後ろから手を回して軽く持ち上げ喉を真っ直ぐに保ちながら鼻から喉を通していく。誤って気管に入らないようにアナライズで確認しながら挿入していく。
シリコンゴムはゴムと違ってある程度の硬さがあるので押し込むのに向いている。
慎重にチューブを押し込んでいく。噎せさせずに胃まで到達したようだ。
脱水症状が重度なので単なる水よりも電解質水溶液の方が良いだろう。
逼迫しているなら吸収は速い方がいい。
生理食塩水を少し薄めて血漿浸透圧よりも下げた方が吸収は速かったはず。
この際、栄養よりも水分補給を最優先すべきだからこれでいこう。
シリンダーを組み合わせて点滴台と点滴容器を作り、チューブを繋げる。
様子見で1リットルくらいで試してみる。
点滴の合間に残っている骨折だ。まずは顎の骨。単純骨折なのでヒール(仮)ですんなり治癒。
次は複雑骨折。まとめてロックしヒール(仮)でこちらも完治。
問題の粉砕骨折の左手の甲と小指だ。多分左手で身体を庇った為だろうが腫れ上がり骨はぐちゃぐちゃだ。再び怒りが込み上げてくる。いや、今は治療が先だ。冷静になれ俺。
ともかくヒールで綺麗に元に戻ってくれるかが心配だ。
もし綺麗に繋がらなければ指が上手く動かせなくなる可能性がある。
人の体は骨と骨を繋ぐ筋や腱が正しく繋がっていなければ正常に動かすことはできない。支えるための土台である骨が正常な形でなければ筋や腱も正常に機能しないのは当然だろう。
アナライズで骨片の状態を確認する。
惨い。
骨は細く鋭く砕けナイフと化して周辺の組織へ食い込んでいる。一部は外に飛び出しているものもある。
砕けた後も殴られ続けたのだろう。痛かっただろうに・・・よく、、頑張ったな。
粉砕骨折の場合の処置はどうするのか思い出す。
姉の話だと外からある程度押して形を整えてからとか言っていたな。
しかしそんな高等技術がド素人に出来るわけがない。
酷い場合は切り開いて芯を入れて骨が出来てきたら抜き取るだったか。
どっちにしても素人にゃ無理だ。
でも今なら魔術がある。何より今は胚性幹細胞による回復が出来る。
それなら
「ふぅ、綺麗な手に戻ったな」
深いため息を吐きながら床に腰を下ろす。
クミン 10歳
獣人(混血) モモンガ種 蜘蛛種
HP 36/36
MP 03/22
脱水症状 中度
栄養失調 重度
脱水症状も緩和してきている。一先ずは大丈夫だろう。
他の全員も脱水症状が緩和されたのを確認すると自分も一息いれるためクリエイトウォーターで喉を潤す。
あの砕けていた骨は、破骨細胞の魔術を使い一旦溶かして骨芽細胞と胚性幹細胞で手と指の骨や腱を作り直した。
オステオクラステス(破骨細胞)とフラクチャートリートメント(骨折治療)という魔術を作ってみた。
骨折に関してはヒールよりもハイブリッドのこちらの方が治りが速かった。
餅は餅屋ということか。単に同時進行だからかもしれんけども。
ついでにヒールも名称から(仮)を外した。リネーム機能があった。
クミンの瞼がふるふると震えるとうっすらと瞼を上げ、首を俺の方に向けて焦点の定まらない瞳の状態で乾いた喉から絞り出すように
「あぃ・・かと」
と呟くと再び目を閉じてかくっと首を力無く横に向けて寝息を起て始める。
「良く頑張ったな。生き延びてくれてありがとう」と手櫛で頭を鋤いてあげると少女の頬が少し緩んだように見えた。
直ぐに死ぬ世界と覚悟を決めたつもりだったが、俺は甘かった。自分自身の死は最悪でも受け入れざるをえない。それは俺の選択のミスだから。
でも他人のしかもこんな小さな子の死まで受け入れる覚悟までしていなかった。
そうだよ、簡単に死ぬのは俺だけじゃないんだ。この世界の人間すべてがあっさり死ぬんだ。神様の言葉『この世界は過酷だから』とはなにも俺だけのことじゃないんだと改めてこの過酷な世界で生きるということに覚悟を決めなければいけないんだ。
すべてに手を差し伸べることなんてそんなことは土台無理だが目の前の助けるべき者は助けたい。勿論この子をこんな目に合わせた奴が死にそうなら助けようとは思わないが、弱者の可能性の高い女性や子供を見殺しにだけはしたくない。
少なくともこれだけは俺の覚悟のための矜持としよう。
点滴も終わったのでチューブをゆっくり抜き取る。
ゾクゾクするのか身体を小刻みに震えさせてときどきビクっとなっている。
可哀想だがちょっとその反応が可愛いなと思ってしまう。
「とりま回復魔術はこれでなんとかなりそうだな」
あいつもこれくらいの頃は「にいちゃん、にいちゃん」て追い掛けてきて可愛かったなと思い出に耽る。
反抗期で憎ったらしい妹の幼い頃を思い出して穏やかな寝息を起てて寝ているクミンの顔を俺は見つめていた。
幸い服は剥ぎ取られていないので、デニムパンツとコートは着たままだ。
ポケットのスマホもファスナーポケットだったお陰か取られていない。
物色された感じはあったが魔素結晶も内側のファスナーポケットに入れてて助かっている。
かといってこのままじゃいずれ剥かれるのは確定事項だから逃げ出さないと。
周りを見ると同居人は6人。
床に寝ている者や鉄格子にもたれ掛かり俯いている者。身なりはそれほど酷くはないがみなどこかしら怪我をしているようだ。
一番近くのおっさんをアナライズしてみる。
ダラ 43歳
人族
HP 14/22
MP 09/15
脱水症状 中度
栄養失調 中度
複雑骨折 右第9肋骨 右第10肋骨
うわ、肝臓傍の肋骨が折れてる。
奴隷は商品なのにこんな怪我させちゃ売れないだろ。俺らを捕まえた連中は奴隷商じゃないのか?商売人としちゃ商品傷物にするとかド素人だろ。
幸い単純骨折だから安静にしておけば、多少痛むだろうけど3ヶ月程度で治るだろうけど、それも十分な栄養の摂取と休養があっての話だ。
既に栄養失調だし、この先もまともな食事はさせてもらえないだろう。
ともかく一番不味いのは脱水症状だ。
人間、体脂肪がある限りそうそう食事抜きでも餓死はしないが、渇水状態だと数時間で意識が混濁、4日程度で体液の不足やその他様々な症状で死ぬらしい。
俺はおっさんに近付くと小声で声をかける。
「大丈夫ですか?水、飲めますか?」
おっさんことダラは、虚ろな目で俺を見つめると「水をくれ」と掠れた声を絞り出した。
「わかりました。魔術で水を出しますので両手で受けてむせないように落ち着いて飲んでくださいね。クリエイトウォーター」
ダラが両手を揃えて受ける形にしたので水を作り出す。
両手の平の上に10cmくらいの水玉が出現すると手の中に落ちる。
ダラは慌てずゆっくりと喉を鳴らしながら飲み干す。
「まだ飲めますか?」
頷くのを確認して再度水玉を作り出す。
飲み干すのを確認してから横になり休むことを勧める。
「ありがとう。助かった。そうさせてもらうよ」と呟くと横になろうとするとやはり右脇腹の骨折が痛むのだろう呻き声を漏らす。
痛むのは想像できたので首の後ろと背中を手で支えながら身体を横にさせる。
「右脇腹が痛いみたいですね。診てみますので痛かった言ってください」
服を脇腹に負担が掛からないようにめくると一番下の辺りの肋骨周辺がバットで殴られたような形でうっすらと痣になっているが外見上骨折しているかはわからない。
触るのは可哀想なので改めて痣周辺をアナライズしてみる。
おおお、仮想イメージなのだろうが折れた骨のイメージが皮膚表面に線で表示される。
それぞれの骨が2ヶ所ずつ折れている。
「骨が折れてるようですね。治るかわかりませんが試してみますね」と断りを入れてヒール(仮)を骨折している4ヶ所をロックして発動してみる。
アナライズをし続けて骨折の状況を確認し続けるとゆっくりとだが骨が元の位置に戻りながら接合していくのがわかる。
骨折にもヒール(仮)で対処可能なことが証明された。自分で痛い思いして確認しなくて済んだとおっさんダラに心の中で感謝をする。
「痛みが消えたよ。ありがとう」というと安定した寝息を起て始めたのでほっとする。
ダラ 43歳
人族
HP 22/22
MP 12/15
脱水症状 軽度
栄養失調 中度
アナライズで確認する。大丈夫そうだ。
同様に怪我や脱水症状の人達の治療や給水を行っていく。
最後の一人はフード付きのマントで身をくるんだ女の子だった。
逃避する前に遠目で見ていたときは寝ているのかと思ったが違った。
ぐったりと床面に転がって気絶している。
フードを捲って顔を覗いてみるとギョッとして思わず仰け反ってしまった。
「しまった。寝ていると思ったから最後に回したのが仇になった」
酷い。全身痣だらけ、左手はゴム手袋を空気で膨らませたみたいにパンパンに腫れ上がっている。至る所に骨折があり両腕は半ばであらぬ方向にネジ曲がり、ハッハッと浅く短い呼吸を繰り返している。両瞼と唇の腫れ上がった顔も全体的に真っ青だ。
クミン 10歳
獣人(混血) モモンガ種 蜘蛛種
HP 02/36
MP 02/22
脱水症状 重度
栄養失調 重度
臓器破損 肝損傷
粉砕骨折 左第2中手骨 左第3中手骨 左第4中手骨 左第5中手骨 左第5基節骨 左第5中節骨 左第5末節骨
複雑骨折 右尺骨 左尺骨 右第8肋骨 右第9肋骨 右第10肋骨
単純骨折 下顎骨
(全身滅多打ちで瀕死じゃないか。酷すぎる)
ギリリッパキンと奥歯から音がした。奥歯が欠けるほと無意識に噛み締めていた。
ふざけるなよ!こんな子供に、しかも女の子だぞ!
と心の中で叫びながら御者台を睨み付ける。
お前らがやったのか?違うとしても何故こんな状態で放置していたんだ!
やるせない想いから胃の底に重いものが溜まる感覚と共に頭に血が駆け登りアドレナリンが放出される。ふーふーと息が荒くなる。
これが殺意というものなのかよ!!
生まれて初めてだ、こんな惨いことをする奴を殺してやりたいと思ったのは!
この世界の人間はこんなことが平気で出来るのかよ!
ぶわっと溢れ出てくるのが自分でもわかるほど大量の涙が止まらない。
ともかくヒールを、今まで持ってたのが不思議なくらいなのだから急がないと。
一番急がないと不味いのは肝損傷だろう。
肝臓を意識してアナライズする。
肝臓のイメージが線で描かれると肝臓の中心内部で割れている。衝撃で肝臓内部が裂けてしまったようだ。
割れた部分をロックし、魔力制御で魔力を追加してヒール(仮)を発動する。
アナライズで経過観察を行うが、裂傷は塞がらないどころか裂け目が拡がる。
再生組織に溜まった血液が圧されて逃げ場を失い肝臓の裂け目を圧し拡げてているのだ。慌ててヒールをキャンセルする。
「くそ!このままじゃダメだ!」
気持ちが焦り、手の平に汗が吹き出る。
死ぬな!死ぬな!死ぬなよ!
裂けた部分に貯まった血液が邪魔しているのが原因のようで裂け目の再生を阻害しているようだ。
(あの貯まった血を先に取り除かないと再生が上手く働かないのか)
考えろ、考えろ俺、こんな小さな子をこのまま死なせてしまうのか?
邪魔なら排出させれば良いだけだ。
頭が冷えていき、冷静に欲しい魔術礎をかき集める。
形状シリンダー!材質銀!サイズ径3mm×300mm!
中空にするために内部にもうひとつ!
形状シリンダー!材質生理食塩水!サイズ径2.9mm×310mm!
「クリエイト インジェクションニードル!」
死ぬな!死ぬなよ!死なせない!生きてくれ!
作り出した針を肝臓の血溜まりまでの長さの部分を左手で握り針先を右手で固定しアナライズのイメージに併せて一気に挿し込む。
ぶつりと肉を貫く嫌な感触が手に伝わり背筋におぞけが走る。
ぶしゃっと針の中の生理食塩水が飛び散る。アナライズは継続したまま針先が患部まで到達しているのを確認すると再度ヒール(仮)を発動する。
組織の再生が始まるとそれに押し出されて貫通した肉片と溜まっていた血液が吹き出してくる。
再生組織が針を包み始めるのを確認して抜き取る。
吹き出した血液をもろに被って俺は血塗れだ。
クミン 10歳
獣人(混血) モモンガ種 蜘蛛種
HP 19/36
MP 01/22
脱水症状 重度
栄養失調 重度
粉砕骨折 左第2中手骨 左第3中手骨 左第4中手骨 左第5中手骨 左第5基節骨 左第5中節骨 左第5末節骨
複雑骨折 右尺骨 左尺骨 右第8肋骨 右第9肋骨 右第10肋骨
単純骨折 下顎骨
良かった。肝損傷は無くなっている。HPも瀕死から脱している。呼吸も少し落ち着いてきているし顔色も少し赤みが点してきた。多分肝臓が貧血と判断して血圧を上げようと脈拍を上げていたのが収まったのかもしれない。
しかしMPが減ってる。俺はMPが枯渇しても秒単位で回復するから平気だけど、もしこの子が魔術で生命を維持していたらMP切れが致命的になるかもしれない。そう思い至り急がないとと気を引き締める。
次に命に係わるのは脱水症状か。あちこちの骨折も痛々しいが今すぐ命に直結しないだろう。
しかしこの子は意識が無いから飲ませるわけに行かない。
点滴が出来れば手っ取り早いのだが、こんな揺れる場所で針を刺しっぱなしは怖いだろ。それに静脈注射なんて経験無いことをぶっつけ本番ではやりたくない。
喉を通すにしても適度に柔らかいチューブがないと難しい。柔らか過ぎてもダメだ。
「!」
魔術礎を漁る。
「あった」
メチルシリコンゴム、点滴のチューブやカテーテルとして使われてる素材だ。
姉に感謝だ。サンキュー酒乱。
俺がまだ小さい頃に看護学生だった酔っ払っいの姉がカテーテルの練習させろと夜中に乗り込んでひん剥かれるというトラウマになる出来事があったんだがその時に製品の袋に記されてた素材を見ていたのがこんなところで役立つとは。
俺の引き釣る表情をあの嬉しそうにニヨニヨしながら迫ってきた姉は絶対赦す気にはならんけど。
この世界の過去は相当進んでいたらしいが、俺の世界にもある素材もやはり存在して良かった。
どこも似たような科学進歩をするものなんだろうか?
魔術があると違った進化をしそうなものだけど・・・
チューブを挿入するためにまず瞼と唇にヒール(仮)を掛けて腫れを引かせる。腫れが引いたその顔はあどけない子供の顔だ。可愛い子じゃないか。また涙が溢れだす。・・・泣いてられない急がなきゃ。
先ほどの針と同じ方法で長めのチューブを作り、首の後ろから手を回して軽く持ち上げ喉を真っ直ぐに保ちながら鼻から喉を通していく。誤って気管に入らないようにアナライズで確認しながら挿入していく。
シリコンゴムはゴムと違ってある程度の硬さがあるので押し込むのに向いている。
慎重にチューブを押し込んでいく。噎せさせずに胃まで到達したようだ。
脱水症状が重度なので単なる水よりも電解質水溶液の方が良いだろう。
逼迫しているなら吸収は速い方がいい。
生理食塩水を少し薄めて血漿浸透圧よりも下げた方が吸収は速かったはず。
この際、栄養よりも水分補給を最優先すべきだからこれでいこう。
シリンダーを組み合わせて点滴台と点滴容器を作り、チューブを繋げる。
様子見で1リットルくらいで試してみる。
点滴の合間に残っている骨折だ。まずは顎の骨。単純骨折なのでヒール(仮)ですんなり治癒。
次は複雑骨折。まとめてロックしヒール(仮)でこちらも完治。
問題の粉砕骨折の左手の甲と小指だ。多分左手で身体を庇った為だろうが腫れ上がり骨はぐちゃぐちゃだ。再び怒りが込み上げてくる。いや、今は治療が先だ。冷静になれ俺。
ともかくヒールで綺麗に元に戻ってくれるかが心配だ。
もし綺麗に繋がらなければ指が上手く動かせなくなる可能性がある。
人の体は骨と骨を繋ぐ筋や腱が正しく繋がっていなければ正常に動かすことはできない。支えるための土台である骨が正常な形でなければ筋や腱も正常に機能しないのは当然だろう。
アナライズで骨片の状態を確認する。
惨い。
骨は細く鋭く砕けナイフと化して周辺の組織へ食い込んでいる。一部は外に飛び出しているものもある。
砕けた後も殴られ続けたのだろう。痛かっただろうに・・・よく、、頑張ったな。
粉砕骨折の場合の処置はどうするのか思い出す。
姉の話だと外からある程度押して形を整えてからとか言っていたな。
しかしそんな高等技術がド素人に出来るわけがない。
酷い場合は切り開いて芯を入れて骨が出来てきたら抜き取るだったか。
どっちにしても素人にゃ無理だ。
でも今なら魔術がある。何より今は胚性幹細胞による回復が出来る。
それなら
「ふぅ、綺麗な手に戻ったな」
深いため息を吐きながら床に腰を下ろす。
クミン 10歳
獣人(混血) モモンガ種 蜘蛛種
HP 36/36
MP 03/22
脱水症状 中度
栄養失調 重度
脱水症状も緩和してきている。一先ずは大丈夫だろう。
他の全員も脱水症状が緩和されたのを確認すると自分も一息いれるためクリエイトウォーターで喉を潤す。
あの砕けていた骨は、破骨細胞の魔術を使い一旦溶かして骨芽細胞と胚性幹細胞で手と指の骨や腱を作り直した。
オステオクラステス(破骨細胞)とフラクチャートリートメント(骨折治療)という魔術を作ってみた。
骨折に関してはヒールよりもハイブリッドのこちらの方が治りが速かった。
餅は餅屋ということか。単に同時進行だからかもしれんけども。
ついでにヒールも名称から(仮)を外した。リネーム機能があった。
クミンの瞼がふるふると震えるとうっすらと瞼を上げ、首を俺の方に向けて焦点の定まらない瞳の状態で乾いた喉から絞り出すように
「あぃ・・かと」
と呟くと再び目を閉じてかくっと首を力無く横に向けて寝息を起て始める。
「良く頑張ったな。生き延びてくれてありがとう」と手櫛で頭を鋤いてあげると少女の頬が少し緩んだように見えた。
直ぐに死ぬ世界と覚悟を決めたつもりだったが、俺は甘かった。自分自身の死は最悪でも受け入れざるをえない。それは俺の選択のミスだから。
でも他人のしかもこんな小さな子の死まで受け入れる覚悟までしていなかった。
そうだよ、簡単に死ぬのは俺だけじゃないんだ。この世界の人間すべてがあっさり死ぬんだ。神様の言葉『この世界は過酷だから』とはなにも俺だけのことじゃないんだと改めてこの過酷な世界で生きるということに覚悟を決めなければいけないんだ。
すべてに手を差し伸べることなんてそんなことは土台無理だが目の前の助けるべき者は助けたい。勿論この子をこんな目に合わせた奴が死にそうなら助けようとは思わないが、弱者の可能性の高い女性や子供を見殺しにだけはしたくない。
少なくともこれだけは俺の覚悟のための矜持としよう。
点滴も終わったのでチューブをゆっくり抜き取る。
ゾクゾクするのか身体を小刻みに震えさせてときどきビクっとなっている。
可哀想だがちょっとその反応が可愛いなと思ってしまう。
「とりま回復魔術はこれでなんとかなりそうだな」
あいつもこれくらいの頃は「にいちゃん、にいちゃん」て追い掛けてきて可愛かったなと思い出に耽る。
反抗期で憎ったらしい妹の幼い頃を思い出して穏やかな寝息を起てて寝ているクミンの顔を俺は見つめていた。
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さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
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