水晶龍といっしょ ~ダンジョン巡って魔王の種もぎ~(仮題)

眠り草

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【第一章】一部

【呼び出されし者】13.5. ~傭兵たち視点~

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先ほどの武器をほいほい作り出すダイン殿にも驚愕したが、ナタルゥに与えた不可思議な機構の付いたあの弓の威力にも肝を潰した。

近距離からといえ頭蓋を易々と撃ち抜く威力は長年傭兵として生きてきた俺でも初めて見るものだった。
普通は当たり処が良くても反対側に突き抜け刺さった状態で止まるのが精々。

それなのにあの弓は額を貫き後頭部を抜け地面に半分近く埋まっているのだからどれ程の威力なのか。

ナタルゥは弓の名手ではあるが女性でしかもまだ若いためそれほど体ができているわけではないので膂力がずば抜けているわけではない。

そんな彼女が弓で最も力がいる引き絞った状態で安定して狙いを定めていられるのだから、あの弓が尋常なものではないのは理解できた。

しかも以前の左腕の怪我で弓を安定して支えられなくなっていたのだがそれが信じられないほどだ。



そして更に驚かされたのは、突然3台の馬車を大岩で呑み込んだ魔法だ。
なんだあれは? なんの前触れも無く物音ひとつせずに現れた大岩により馬車は丸ごと消えてしまった。

打ち合わせではダイン殿が馬車の奴等を魔術で排除するとは聞いていたが、丸ごと岩に変えてしまうとか意味が分からない。俺の頭は混乱する。

ダイン殿の魔法は桁が違いすぎるというか次元が違う。

昔、国同士の戦に駆り出された時に魔法部隊というのが居たが火球による爆炎程度が良いところだった。あれはあれで脅威ではあったが飛んで来るのが確認できるので対処できない訳ではなかった。

あんな小さな小屋程もある岩石を突然呼び出すことが出来れば陣地の構築から敵陣地を圧潰することも容易くできてしまうだろう。しかも唐突に出現するのだから対処のしようもない。

これなら我らに頼らずとも、奴等をこの大岩で囲んでしまえばこの魔法だけで済んだのではないだろうか・・・







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

自称、魔術師、ダイン。
依頼先の遺跡の新発見区画に居た人族の青年。
彼は私の魔法で寝ていた。

しかしここまで来るのにどれだけの魔物を倒してきたのか考えると何故此処に彼が居るのか不思議でならなかった。
もしかしてここの魔物たちはこの人族が呼び出したのではなかろうかと想い至る。
でなければこんなところに居られるはずもない。

ふと部屋の真ん中辺りに大型の魔獣の死骸が転がっているのが目に入る。
尻尾が蠍のようになっている。あれはマンティコアだ。しかもあの巨体、上位種!

この男が倒したのか?
彼の周りを精霊達が喜んで囲んで飛び回っている。かなりのマナを持っていなければ精霊たちがあんなにはしゃぐことはない。
精霊達は生物の生命力であるマナを好むらしい。強いマナに惹かれる彼等にマナを分け与えることで魔法を発現してもらえるのだ。

それにしてもそんなマナの持ち主に良く私の魔法が効いたものだ。彼からは私を遥かに凌ぐマナを感じる。

リーダーのダラにそのことを伝え連れていくことを進言した。

「彼、マナ、強い。助ける、損、無い」

リーダーも頷き承諾した。






そして今、全員檻の中だ。
遺跡の魔獣掃討の終わりにもうすぐ外だというところで奴等に襲われた。

私の魔力は度重なる戦闘で尽き掛けていたため石礫を数発飛ばすのが精一杯。
おまけに多勢に無勢、魔法を使ったので真っ先に狙われ、捉えられ二人の男に押さえ付けられたまま口を強引に開かされ舌を掴まれ短刀で切り裂かれた。
その時、仲間たちも既に制圧されていた。

激痛の中の気絶しそうになるも痛みで覚醒するのを繰り返す。
そのまま馬車の檻に放り込まれ、このままではそう遠くなく私は死ぬのだなと痛みを感じていた。血が止まらない。私は魔力を使い脈拍を落とし仮死状態になることで少しでも生存の可能性を増やそうと奇跡を願い意識を手放した。



奇跡は起きた。
全身を包む温かな感覚で意識が覚醒すると遺跡で拾った男が青い顔をして悲痛な表情で私の顔を覗き込んで様子を伺っている。

私が目を開けたのに気付いたのか、彼は安堵の表情を浮かべ、水を勧めてきた。

「脱水症状を起こしているから頑張って少しでも飲んで」 

と優しく語り掛けてくる。頷いて何処に持っていたのかコップに入れた水を受け取る。
水を口に含んで気が付く。舌が治っている。痛みもなければ動かすのに違和感も感じない。
今まで治癒術士に治して貰ったことは何度かあるがあれほどの傷を完璧に治してもらったことはない。
腕を骨折した際も完全ではなくそのせいで左腕は今も少し曲がってい・・・あれ?治ってる!!
骨折の後遺症で弓を安定して構えられなくなっていたのだけどこれなら再び。。。



目を覚ますと彼が飴玉をくれた。
「この丸薬飴5個で1日に必要な食事と同じ栄養が摂れますので、皆さんの回復に役立つと思います」

そう言うと仲間たち全員に5個ずつ飴玉をくれた。

(美味しい!ちょっと酸っぱいけどこんなに甘い物食べたこと無い!)

貴族の連中は砂糖とかいうそれはそれは甘い調味料があると聴いたことがあるが、この丸薬飴というのはその砂糖で作られているのではないだろうか。

今まで食べたことのある甘い菓子などは有ったはあったが、こんなに鮮烈では無かった。
こんな貴重そうなものをホイホイ配れるのだからダインは貴族なのだろうか。
しかもあの魔力に治癒術だ。下手したら貴族どころかどこかの王族かもしれない。

少しだけ空腹が紛れて眠くなってくる。

「体力回復のためにもう少し寝てた方が良いですよ」

彼は笑顔でそう言ったのを聞きながら私は意識を閉じた。




再び目が覚めると夜更けにダインはここから脱出するので武器を渡すから一緒に行かないかと言った。
私達が唖然とする。
(武器を取り上げられ檻に閉じ込められているのに何を言っているのか?)

すると彼は綺麗に磨かれたロングソードをどこからか突然取り出しリーダーに渡した。

みな驚愕している。私も唖然としてしまった。

私も魔法を使えるが私の魔法は精霊に願いを伝えて自分のマナを与えそのマナを使い精霊が代わりに魔法という奇跡を起こしてくれる精霊魔法だ。

あんな何もないところから突然に物を作り出す魔法なんて聞いたこともない。
精霊に由来する火を起こしたり水や石礫を出す程度なら分かるけど、それも与えたマナを使い切ってしまえば消滅するものだ。
あんなしっかりした人工物なんて見たことない。

彼は順番に仲間達の武器や盾を作り出していく。
そして私の番だ。
どんな武器が欲しいか聴かれ、何故か鞭を薦められた。私に鞭のイメージがあるとか言われた。解せぬ。
私のどの辺にどのようなイメージが鞭に繋がるのか問い質したい!

そんな気持ちを呑み込みどうせならと趣旨返しに一杯注文してやろうと要望しまくってやった。腕が治っていたので弓もお願いしてみた。

彼は気軽に承諾した。
なんとすべて用意して貰えるらしい。
彼はすぐにダガーに投げナイフにリーダーにも渡した不思議な黒い盾をくれた。

これだけでも購入したらかなりの金がかかるというのに、しかもこの品質だ買い取れと言われたら私では払えないかもしれない。後で返さなければいけないだろう。

そして彼は少し考えてから、不思議な形の弓を作り出してくれた。

思わずなんだこれ?と怪訝な顔をしてしまう。
大まかに見れば弓なのだろうがコウモリの羽を広げたような変な形で、しかも弦が不思議な張り方をされている。

彼はそんな私の表情に気付いたのか笑顔でこの不思議な形の弓の説明をしてくれた。

引き絞るまでは力が必要だが、引き絞りきる少し前までいくと滑車のお陰か途端に軽くなる。引き絞っている時の抵抗感が嘘のように軽い。

おまけに弦を引くのに指で直接引くのではなくリリーサーという手首に巻いた物に付いている金具を引っ掛けて引くため、指が痛くならない。
これならどれだけ射っても指が裂けることもない。

通常、何度も弓を引いていると指先に負担が掛かり指に赤切れができたり弦を支える間接の内側や指の腹の部分の皮が剥けるのだ。そのため普通は手袋をするものだが引っ掛かったりすることもあり、それで狙いがズレてしまうことがあるので私は普段使わない。
弓を多用する者からしたらこれは心底ありがたい機具なのだ。
これ天才の発想!

しかも狙いを定める照準(と彼は言っていた)も分かり易く、安定して構えていられる。

そして手首に巻いたリリーサーに付いているトリガーと言われるちょうど人差し指を引っ掛けるように出来ている部分を握り込むと矢が放たれるとのことだ。
総てが機能的で無駄の無い設計!



トスッ

「!!」

乾いた軽い音だけで私の放った矢は見張りの男の頭を貫通して向こうの地面に突き刺さり、頭を貫いたにも拘わらず地面に半分近く食い込んでいた。
その威力に思わずにやにやしてしまう。これ、本当に凄い弓。

でもきっと後で返さないといけないんだろうなぁ。





彼が檻を壊すというと、後部の扉部分の鉄格子を消し去ると代わりに鉄の矢が入ったこれまた鉄製の矢筒を私に手渡す。
かなり重い。

彼が一本が重いので射つときはそのために感覚が変わるからと注意をしてくれた。

一本引き出して手に持ってみると最初に貰った矢の倍以上の重さがある。 
でも大丈夫。この弓なら問題なく同じように扱えると長年の経験でわかるから任せて!

それにしても檻の格子を矢に変化させるってとんでもないことしてるのに本人自覚無いのか?





檻を抜け出して、彼の指示通り馬車の上に居た見張りの当直達を魔法で眠らせた。

「ナタルゥ、ありがとう」

と笑顔でお礼を言われた。
なんかそんな真っ直ぐに言われると思わず照れてしまう。

そして彼が馬車の方に向き直り口を開く。

真空ヴァキュームキューブ!」
ギギヤピャ

意味が解らない言葉と耳障りな音を発する。彼の詠唱なのだろうか?
すごく短い詠唱だが、目に映し出された光景はあんな短い簡単な詠唱から生み出された物とは思えない巨大な3つの岩だった。

何度も驚かされているが、突然のことにやはりびっくりしてしまう。

「岩、馬車、潰した!」

思わず口にしてしまう。
彼は苦笑いしながら違うと教えてくれる。
何でも馬車全体を岩で覆いその中の空気を抜いたのだそうだ。

「空気、抜く?・・・凶悪」

中を想像して身震いをしてしまう。
自分達が普通にしている呼吸が突然出来なくなるなんてどれ程の苦しみだろうか。考えただけで怖くなる。
しかも岩で囲まれてしまっているから馬車から逃げ出すこともできない。怖い怖すぎる。
この人を絶対に敵に廻しちゃいけない。そんな死に方なんてまっぴら御免だ。
彼の恐ろしさを実感した。


暫くしてから彼が馬車の連中が全員死んだと告げる。
岩はまだそのままだ。どうして中の状況がわかったのは私には検討も付かないが、そういうのを探る魔法があるのかもしれない。

そして残りのテントも彼の岩魔法が包み込む。

あれだけ警戒して装備を準備してたのに拍子抜けだったなぁと・・・


ドゴーーーーン


唐突に響き渡る轟音が開けた平野に響き渡る。
私は慌てて音の出所へ目を向ける。
一番前を走っていた馬車の入った岩から何かが突き出ていたところだった。
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