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【第一章】一部
【呼び出されし者】41.救急救命医療24時
しおりを挟む『マスター、既に心肺停止状態が続いてます!
このままでは脳が低酸素濃度に因るダメージを受けてしまいます!
至急人工呼吸と心臓マッサージをすることを推奨します』
ヴィマナが逼迫した声で警告とアドバイスをしてくれる。
しかしまだ横たわる彼女の口からは大量の水を吐き出している最中なので人工呼吸をしても良いのか躊躇してしまう。
「何か方法は・・・」
要は脳に酸素を含んだ血液を送れれば良いんだよな?
『ヴィマナ、脳に酸素が送れたらなんとかなるんだよな?』
『はい、マスター』
既にHPは10を切っている。
一時を争う危険な状態だ。
姉が疲れた時に飛び込む職場に設置された高圧酸素カプセルを思い出す。
有名サッカー選手が骨折を短期で治す際に使われたことで有名になったやつだ。
立方体、高気圧1.5気圧、酸素濃度35%をイメージして発動
俺等の周りに高気圧の結界が張られ、耳が気圧の変化でツンとする。
口を大きく開けて耳抜きをしているとアミラドさんも鼻を摘まんで唾を飲み込んだりしている。
でも・・・これだけじゃダメだ。これは自発呼吸をしてなきゃ効果は得られない。
命のカウントダウンは続く。
血液を循環させられれば・・・心臓で押し出すくらいしか理屈なんかわからない。
でも為すべきイメージなら俺にも出来る。
『ヴィマナ、サポートを頼む。これからするイメージのサポートと、それを実現する魔術式を作成出来るか?』
『マスター、・・・やっテミマス。オクタデカマルチプロセッシング起動』
途中から今までの声とはまるで違う機械音というか音声合成のような発音で淡々とした返事が返ってきて驚くが、もうそんなことを気にしている猶予はない。
・・3・・2・
俺は彼女の肺に空気を送り込み膨らませ血液に酸素を溶け込ませ、そして心臓を直接握りしめ、心臓から押し出された血液が全身の血管(ヴィマナ、全身の血管のイメージサポートを頼む!)に廻るイメージを『了解..完了シマシタ』する。
【一時的魔術:人工心肺蘇生 を作成しました。発動対象を選択してください】
間に合え!と心で叫ぶ。
「発動!」
彼女の胸全体が膨らみ、心臓が握られる。1、2、3、4、5回
自然と息が吐き出されるのを確認する。
「ゴボゴボゴボ・・」
音を立てて口から水が出てきたが水もだいたい出切ったようだ。
再度胸全体が膨らみ、心臓が1、2、3、4、5
・・・3セット目
・・・4セット目
・・・5セット目
『ヴィマナ、脳へのダメージは?』
『はい、マスター。残念ながら軽度の後遺症が出る可能性があります』
『そっか・・・』
ヴィマナの声が元に戻っている。
『でも命は取り留められそうですよ』
察したのかヴィマナが慰めの言葉を掛けてくる。
『マスター!心拍が戻りました!魔術のキャンセルをお願いします。
ただ、自発呼吸はまだなので、キャンセルしたら人工呼吸をお願いします』
『ヴィマナ、了解。ありがと』
既に顔に赤みが射してきているが、呼吸は止まったままだ。
魔術で人工呼吸らしきことが出来てたんだから、俺が人工呼吸しなくても魔術で良いよね。
とさっきの一時的魔術の式から心臓マッサージを省いた人工呼吸魔術を作成して再度実行する。
裸にしてしまっているので地面に敷いたコートで包み保温する。
『マスター、・・・意外です』
『心外です』
即答。そんなDTのようなこと考えませんから。
こちとら看護学校時代の姉に人工呼吸の練習台にされ、うちに飲みに来ていたその同級生にも面白がられて実験台にされた中学時代を過ごした俺に隙はない。
お陰で異性にゃ達観してるんだよ。
一番の理由は、魔術作るの楽しーだからですが。
で、効果あるか分からないけど脳への後遺症が治せるかもしれないので、脳全体に修復をかけておく。
『脳細胞が死滅したとか血管が破裂したとかは治せるけど、記憶に関しては修復でも治る保証は出来ないんだよね。
記憶はニューロンの繋がりの問題で常に変化し続けているからどれが正しい状態かというのが遺伝子からはわからないからね。
まあやらないよりはやっておいた方が後遺症が少なくて済むはずだよ』
『その辺は意識を取り戻してからの話ですからね。
問題はあれです』
と、水の精霊の方へ視線を移す。
状況変わらずまだ慟哭の叫びを挙げ続けている。
『マスター、魔力を表示します』
『ん?』
水の精霊に被せて高密度の魔素の渦だか柱だかが見えるその中から青い魔力の糸が目の前に横たわる彼女に繋がっている。
『水の精霊と魔力で繋がってる?
これが感情同調の原因かもしれないね』
気を失ったままの彼女にしてあげられることを考えてみる。
HPは先程の修復でだいたい回復しているが、MPは0のままだ。
MPを少しでも回復させられれば意識を取り戻す?
マナを注入してあげれば回復するんじゃね?
という思い付きから再度魔力感知で観察してみる。
良く見てみると水の精霊から繋がっている魔力の糸は天頂に繋がりそこから細く枝分かれして彼女の体全体に拡がっているのがわかる。
これが体内に流れる魔力の流れってやつなのかな?
『ヴィマナ、この人に俺の魔力を流し込んでMP回復させられないかな?』
『マスター、可能性としてはありえますが、対象の魔力とマスターの魔力を同調させないと反発されてしまうと思われます。
魔力はその人の性質その物ですから、同調するということがどのような影響を及ぼすかは予想できません』
『物は試しだ、ヴィマナ、魔力の同調サポートをお願いするよ。
イメージは俺から魔力の糸を伸ばして彼女の頭頂部へ繋げてそこで彼女の魔力の波長に変換して注入する。
これならお互いに影響はしないんじゃないかな』
『了解です。マスター』
『やっぱり君、面白いこと考えるね。
多分それでいけると思うよ』
盗聴魔から大丈夫そうとのお墨付きを頂いたので魔術のイメージを想い描きながら魔術式の生成を始める。
ヴィマナが対象の魔力の波長を読み取り同調させて行く。
物凄い勢いで意識だけが肉体から引き摺り出されるような感覚で脱力感に襲われる。
MPゲージが物凄い勢いで減っていき、あっという間に空になる。
「うわっわっ!ヴィマナ、ストップ!ストップ!」
思わず叫んでしまったが世界が暗転して行く。。。
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