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2 これ以上好きにさせないでくれ
しおりを挟む新しい婚約者のメルは、不思議な令嬢だ。リーシャの嫌がらせによって、彼女のメイドは全員やめてしまった。だが、メルはいたって元気で身の回りのことを全て自分でこなしている。
それだけでなく、メルは誰よりも美味しいクッキーを作る。彼女の作るデザートが美味しすぎて、俺は毎日メルのもとに通うようになっていた。
「アレックスは、、、暇なの?」
暇ではない。俺だって、ちゃんと騎士団副団長としての仕事がある。だが、メルに合うと自分が背負う罪を忘れられるのだ。
「ちゃんと働いているさ。今は休憩中だよ。」
だからこそ、騎士団の訓練場から少し離れたメルの屋敷に昼休憩の度に来てしまう。
「わざわざここまで来て休憩しなくてもいいのに。ほんとにアレックスは甘いものが好きね。」
もちろん、甘いものもすきだが、それ以上にメルが好きなのだ。彼女は俺が知らないことを沢山知っている。時々訳の分からない言葉を使うのも、面白くて好きだった。
「メルとお茶をするのが楽しくてな。嫌なことを忘れられるのさ。」
メルと、普通の婚約者の関係でいられたらどんなに良かっただろうか。時々、いやしょっちゅうそう思う。愛人などいない、一人の男として、彼女を愛してみたかった。
「ここまで来るなら、愛人さんのところまで行ったら良いんじゃない?」
メルが俺をちらりと見て言った。
「そう、だな。」
分かっている。東宮殿には、メルだけでなくリーシャが住んでいる。愛人であるリーシャに会いに行くべきなのだ。
(愛人、、か、、、。)
愛人は愛する人、と書くが、俺とリーシャの関係はそんな幸せなものではない。加害者と被害者。リーシャはずっと俺のことを責めている。
リーシャが怪我を負って歩くことができなくなったのは、酷い嵐の日。俺は、はぐれた犬を探すために嵐の中外に出たのだった。俺を心配したリーシャは、嵐の中俺に付いてきてそして大木の下敷きになった。
(あの時、もっと強く俺に付いてくるリーシャを止めるべきだった。)
今更後悔しても、意味のない話だ。結局、俺の身代わりになったリーシャの人生は滅茶苦茶になってしまったのだから。
「アレックス?」
いけない。ぼーっとしていた。
「すまん。なんでもないんだ。」
「なんか悩みがあるなら、何でも聞くからね。」
メルは俺の目をじっと見つめて言った。誰にも愛されたくない、というくせにメルは誰からも愛される行動を取る。料理人のミックだけでなく、東宮殿の多く人間がメルのことを愛していた。
「ありがとう。助かるよ。」
本当は、君のような人を僕の婚約者にしておくべきじゃないとわかっているんだ。だけど、それでも、メルに側にいてほしいと望んでしまう。
「また明日来る。」
もうすでに、メルと離れるのが寂しかった。誰のことも愛さないと誓っていたくせに、もうすっかりメルの虜だ。
「また明日もお菓子作っておくよ。」
メルは優しく笑って、手を振った。ねぇ、君は本当に狡いよ。愛されたくない、というなら、僕をこれ以上好きにさせないでくれ。
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