離婚前提の仮面結婚のはずが、妊娠してしまったのですが…?〜夫は最初から私じゃない誰かを愛していました。〜

五月ふう

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25. 僕のお嫁さんにしたいから、離縁してくれないか

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Side ブレイブ
 
 ティーナとリリーを残して城に戻ると、僕を呼び出したアドルフ王子は、優雅にお茶を飲んでいた。窓から差し込む月の光が、彼の金髪を輝かせ、その姿はまるで絵画の中の一場面のようだ。

「仕事は?」
 と尋ねると、アドルフ王子は肩をすくめてコップを置いた。

「あの場所から、ブレイブを連れ出そうと思っただけだよ」
 「…っ!そうだったのか!」
「ま、本当は屋台で酒飲もうと思っていたんだけどさぁ。」
「おいっ。単独行動は危険だっていつも言ってるだろ!」
「はいはい。」

 アドルフ王子と僕は、身分こそ違うが昔からの友人だ。家が没落しかけた時、僕を拾い上げ、救ってくれたのが彼だ。やや、王子らしくない行動をとることもあるが、(この男はよく城を抜け出し、居酒屋で酒を飲んでいる)、アドルフの存在がなければ、今の僕は城で地位を得ることはできなかっただろう。感謝してもしきれない恩があるし、一生ついていくと心に誓ったはずだった。

 しかし、次にアドルフが口にした言葉は、そんな誓いを揺るがすものだった。

「ティーナを僕のお嫁さんにしたいから、離縁してくれないか、ブレイブ」

「馬鹿がっっっ!」
 
 思わず叫んでしまう。

 ティーナを誰にも渡したくない。だってティーナは僕の妻だ。

「さっきも言ったけどさ、奥さんにあんな悲しい顔させるなんて、最低だぞ?」
「分かってる」
 と小さく答えながら、心の中で自分の未熟さを呪う。

「ほうほう、よかった。じゃあ来月にでも、僕がティーナを城に迎え入れようか?」
「だめだっ!!」
 
僕だけじゃない、アドルフもティーナのファンだった。それは僕らの友情を繋いできた共通点であった。僕の財力では手に入れられないティーナのレコーダーを聞くことができたのも、アドルフのおかげである。

アドルフはやれやれと首を振り、僕の肩に手を回した。

「いい加減“あの女”に関わるのをやめたらどうなんだ?」

“あの女”――リリーのことだ。アドルフはずっと、僕とリリーの関係を快く思っていない。

 だが、僕はまだアドルフに話せていないことがある。それは、僕と父に血の繋がりがないこと。そして、その証拠をリリーが握っているという事実。情けなくて、どうしても口にできなかった。アドルフが知るのは、僕が不倫相手の子供であるという噂だけ。”噂”と”事実”には恐ろしいほどの隔たりがある。

しかし、アドルフの言葉はいつも正しい。
 
 「…そうするつもりだ。今度、ちゃんと話そうと思う」

リリーの婚約者だったのは、もう10年も過去の話だ。しかも僕はすでにティーナと結婚している。これ以上、リリーとかかわっても良いことはないだろう。…わかっているのだが、夫を失ったばかりで傷ついているリリーを、どうしたら傷つけずに家に帰せるのかわからず、戸惑ってしまうのだ。
 
「その前に、僕がティーナを妃にしていいか?」
 とアドルフが茶目っ気たっぷりに言う。
「だから、だめだって!」

 この男は本当にやりかねない――。
 
「何かプレゼントを買って帰ろう」と、心に決めた。こんなことでティーナに許してもらえるかわからないけれど、今の僕にできることはそれくらいだ。

「なにやってんだ、僕は……」
 そう呟くと、アドルフが声を上げて笑った。

「ほんとそうだなっ」
 と、彼は肩をすくめながら答える。
 
「さっさと、愛想尽かされてくれ。」

 ぽんぽんと僕の肩を叩くアドルフが、酷く恐ろしかった。

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