離婚前提の仮面結婚のはずが、妊娠してしまったのですが…?〜夫は最初から私じゃない誰かを愛していました。〜

五月ふう

文字の大きさ
32 / 60

31. 僕を知って欲しい

しおりを挟む
Side ブレイブ

 家に帰ると、髪をひとまとめにして、エプロン姿のティーナが待っていた。家の中には、料理のいい香りが漂っている。思わず笑みが溢れた。
「おかえりなさい、ブレイブ様。」

(好きだな。)
 
  綺麗で、柔らかい。ティーナに初めて触れた日から、僕はティーナに触れたくてしょうがなかった。だが、僕は自分がリリーのことが好きだと噂されていることを知っている。リリーが僕に執着していることを知っている。それでも僕は、これまでリリーを放置して…さらにはリリーを勘違いさせる行動を取り続けていた。そこに理由があるとしても、ティーナを傷つけていることに変わりない。

 だからこそ、いつも罪悪感が付きまとう。だって、ティーナには僕と結婚する以外に選択肢がなかった。好きとか、嫌いとか、彼女の感情は一切無視して。

「ブレイブ様?なにかあったのですか?」
「…そんなことないよ。」
「…いいえ。ブレイブ様のお顔がいつもと違います。…悲しいことがあったのでしょう。座ってください。暖かいものを用意しますから。」
 
 そういうと、ティーナは僕の腕をとってソファーに座らせた。僕がぼんやりしている間に、ティーナは暖かいお茶をブレイブの手に持たせた。
 
「…飲んで、元気を出してください。なんでも聞きます。話したくなかったら、話さなくてもいいですから。」
 
 ああ、昔みたいだ、と思う。

  僕は、ティーナの肩に体を預けた。ティーナがびっくりしているのはわかっていたけれど、それでも動かなかった。その温もりに触れていたかった。ティーナは、この距離感を、僕に許している。

(僕を知って欲しい。)

「僕は…父と血が繋がっていない。いなくなった母が…愛人との間に作った子供が、僕なんだ。似てないだろ、僕と父。だから、僕は…この家を継いだらいけないと思ってた。だから、今まで…誰とも結婚しなかった。」

 ガキみたいな理由。本当はもっと、ただ単純に、結婚するのが怖かった。

「…ブレイブ様。」
「恩返しのために、この家を守ろうと思っていたんだけど…どうやらそれが上手くいきそうになくて。」

 恩返しなんて、綺麗な感情じゃなくて。家を継ぎたくなかったけど、捨てる勇気もなかった。だから、ヴィギルト家が犯罪組織に巻き込まれているかもしれないと知り、僕は調査を始めたんだ。…そして、父が犯罪にかかわっている証拠を見つけてしまったわけで。

「そう、だったんですね…私が力になれること、ありますか?」
「そばにいてくれると、幸せだよ。ティーナ。」
「傍に、います。ね、ブレイブ様。」
「なんだい?」
「昔、私が歌っていた、ブレイブ様を元気づけた曲の名前を教えてください。」
 
  昔、僕が救われたあの曲。よく覚えている。曲の名前を伝えると、ティーナは小さく笑って息を吸った。
 ティーナはブレイブの耳元で、鼻歌を歌った。かつて、ブレイブが聞いたあの歌のメロディを奏でる。途中、音が途切れる。それでも、ティーナは笑顔を絶やさずに、メロディを紡いだ。

 ティーナは目を閉じている。その足の先と、手の指の先が、蛍がくっついているみたいに微かに光る。

(ティーナのの歌だ。僕の、僕だけのために…ティーナが歌ってくれたんだ!!)

 光が少し大きくなった時、ティーナは少し顔をしかめて、歌を止めた。

「ありがとう、ティーナ。」
「いまは、これ以上は…歌えません。でも、絶対にまた、ブレイブ様のために歌いますから。」
 
 大切な妻。僕は、どんな複雑な状況があろうと、ティーナの夫になれたことを嬉しく思った。手放すつもりはない。

 愛しているよ、と言いたかった。だけど、今はまだティーナに伝えられないから。

「大切だよ。ありがとう、ティーナ。」

そう言ってティーナの頬に口付けをする。

(君が欲しいんだけど、ダメかな?)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...