離婚前提の仮面結婚のはずが、妊娠してしまったのですが…?〜夫は最初から私じゃない誰かを愛していました。〜

五月ふう

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42. ブレイブ様、今は私といましょう?

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Side ティーナ
 
「二人でどっか行っちまったぞ?」
レオンが呆れたように呟く。その声に、私は静かに頷いた。

「そうだね。」

気まずい沈黙が流れる中、レオンが不意に口を開いた。

「・・・てかさ、そもそもなんであいつと結婚したんだ?」

 その質問に、私は一瞬だけ言葉を詰まらせた。私自身、その答え胃を持っていない。あの時に戻れるなら、私はどんな選択をとっていたんだろう?
 
「ブレイブ様は、私を助けてくれたから。」
「そんなの、気まぐれだ。」

レオンの声には、棘がある。けれど、間違いなくそれが事実だ。

「ブレイブは、リリーのことが好きなんだろ?」
「うん・・・」
「こんな関係、虚しいだけだ。」

レオンはいつも、正直だった。愚直に、思った事をまっすぐに言う。そんな彼の性格は、私は昔から好ましく思っている。

「わかってるけど・・・。」

自分の声が、どこか遠くで響いているように感じる。嫌いなのは、中途半端で曖昧な自分だけだ。

「俺は、こんなの馬鹿だと思う。」
「わかってるよ。」

分かってるのに、分かりたくない。多分それは、分からないよりずっと馬鹿だ。

「でも、私だってどうしたらいいか分からないし・・・なんでこの選択を取ったのか、自分でも分かってないの。」
「くだらない。」
「知ってるよ。」

私は小さく呟く。レオンは、眉間にしわを寄せて私を見た。怒っている様に見えるけれど、その実怒っているわけではない。多分、レオンは私の事を心配してくれているだけだ。

「大丈夫だよ。なにもしなくたって、終わりは近いよ。」
「は?」

私は、肩をすくめてレオンに笑ってみせた。そういえば,今日の私の役目は、”ブレイブ様の妻”として、リリーとの疑惑を払拭する事じゃなかったっけ。このままではその役目を果たすことができない。
 
「ブレイブ様を・・・探してくるね。」

そう言って、私はレオンに背を向けた。

「おいっ。」

レオンは私をとめていたけれど、気にはとめなかった。考えるべきは、この世に生まれてしまった小さな命のことだけだ。


****

 パーティ会場の建物の隅、華やかな音楽が遠くから聞こえる中で、ブレイブとリリーが何やら話している。そこを通る人々が、時折二人に気づいてちらちらと見ている。

 私は大きく息をすった。口元に笑顔を固定させる。それから、二人に近づいた。

「ブレイブ様、今は私といましょう?」
「ティーナ!」

私はブレイブに後ろから声をかけると、ブレイブが驚いた様子で、勢いよく私を振り返った。リリーは一瞬、険しい表情を浮かべたが、すぐに意地悪く笑って、こちらを見た。

「関わってこないでくれる?」
「だめです。」

私は冷静に言い返した。いつ裏切られるかも分からない、形骸化したブレイブの父との契約。そんなものをなんで私は律儀に守っているんだろう?多分私は、ただ単純にブレイブを守りたいだけなんだ。

「ここでは、私とブレイブ様は夫婦なのです。怪しまれる行動はお控えください。」

その言葉に、ブレイブがハッとした顔をする。リリーの目が一瞬大きく見開かれたが、すぐに怒りの色に変わった。

「ティーナの言うとおりだ。」

ブレイブはリリーを静かに見つめ、きっぱりと言い切った。

「行こう。」

ブレイブが私の手を軽く引き、歩き出す。後ろで、リリーが苛立ち混じりに叫ぶ声が追いかけてくる。

「この浮気者!」

パーティ会場の廊下を歩きながら、ブレイブがふと立ち止まり、私を見つめた。

「ティーナ、信じて貰えないかもしれないけど・・・やっぱり伝えたい。」
「何でしょう?」

ブレイブは、まっすぐに私の目を見つめた。

「あの日のあれは・・・僕の意思ではない。」

私は目を伏せた。リリーとのキスのことを話しているのだとすぐに分かった。

「信じて貰えないかもしれないけど、上手くよけられなかったんだ。やましいことは一切ない。ティーナと結婚してから・・・僕はティーナ以外、見ていない。」
「・・・」

黙ってブレイブを見つめる私に、彼はさらに言葉を重ねた。

「信じて貰えないのは分かってる。それでも、どうしても言いたかったんだ。」

その言葉に、私は小さく笑った。ブレイブの言葉は本当かもしれない、と思った。だけど、多分あの日の出来事はそれほど問題ではない。

”リリーとの仲を守るための契約”とか、”元婚約者との約束”とか、”ブレイブの父との約束”とか、そういう隠し事を見ない振りして、本当の夫婦のふりして、曖昧に過ごしていた日々が、間違ってたんだと思う。

「ブレイブ様は、嘘つきです。」

その言葉を口にしたとき、ブレイブは酷く悲しい顔をした。そして、何かを言おうと口を開いたが、私は先に続けた。

「でも・・・私も嘘つきですから。」

 いつまでも、ここにいるわけにはいかないと分かっているのだから、終わらせる準備をしなくてはいけないのだ。
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