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8.二度と帰ってくるな!
しおりを挟む「お前がオリビアか。」
二人目の婚約者ランドルは40歳の太ったおじさんだった。
(なぜ父は歳上と婚約させたがるのだろう。)
ランドルはハリバート国の大商人で、一人目の妻に先立たれたらしい。おそらく父は、ランドルと血縁関係を結ぶことで金銭的に支援してもらおうとしたのだろう。
この婚約も上手く行かなかった。
「あの、、ランドル様、、晩御飯の間だけでもお香を止めてもらうことはできませんか?」
ランドルは大のお香マニアで、常に家の中にお香を炊いていた。それは個人の趣味であるし、構わないのだが、犬並みに鼻が効く私にとっては、地獄のような環境である。
「なぜだ?!こんなに良い匂いなのだから、すぐに慣れる!」
ランドルは私の頼みを一蹴した。ランドルの家に来て一週間も経つと、私の体は異常をきたしだした。
(頭がふらふらする。上手く前が見えない。)
そして、1ヶ月後、私はついに意識を失って倒れてしまった。
「病気の女を、私に押し付けるな!!」
ランドルはすぐに私を父のもとに追い返し、婚約破棄をすると決めた。元々若い女を嫁に欲しかっただけのランドルは、無気味な私を煙たがっていたのだ。
「オリビア、お前はなぜ役目を果たさない?!なぜいつも、私に迷惑ばかりかけるのだ?!」
「しょうがないじゃないですか!!私の鼻が敏感なのは、父上だって分かっているはずでしょう?!」
なぜ、医療団の人々のように個性を認めてくれないのか。つい、言い返すと父は激高して私を突き飛ばした。
「もう二度と帰ってくるな!!」
私は上着すら与えられず馬車から降ろされ、その場に置いていかれた。ランドルの屋敷からも、ジェームズ家からも遠い山道に私は一人取り残されたのだ。
「お父様!!」
そこからの日々は、地獄だった。食べるものも寝る場所もなく、私は物乞いをして必死に命を食いつなぎ、旅をした。
「オリビア!!何があったんだ?!」
医療団の皆に再会できたのは、父に捨てられてから半年が経った頃だった。げっそりとやせ細り、死にかけの私の姿は皆を大いに驚かせたのだった。
そして、その三年後、父は性懲りもなく私の元にやって来て言った。
「お前に新しい婚約者を見つけてきた。」
医療団の皆は必死で私を止めてくれたけど、私は皆に嘘をついた。父についていくことを決めたのだ。
「あの者たちに迷惑をかけたくないんだろう?」
ジェームズ家はハリバート国の名家であり、大きな力を持っている。父は権力を用いて医療団を潰すと脅してきたのだ。
(皆を守りたい。)
そして、私は"メイド殺し"の皇太子レオの婚約者として、この城にやってきた。
「きっと全部上手くいくわ。」
私は自分に言い聞かせる。いつかレオナにあって、強く生きたと胸を張って言いたい。
そのためには、こんなところでへこたれるわけにはいかないのだ。
◇◇◇
オリビアがハリバート城についた頃、大陸移動医療団のメンバーはいなくなったオリビアを探していた。
オリビアは早朝こっそりと抜け出したので、皆気づかなかったのだ。
「オリビアはどこに行ったんだ?!」
医療団のテントから血相を変えて飛び出して来たのは、ルイスという青年である。
ルイスは30歳の青年で、オリビアのことは昔から本当の妹のように可愛がってきた。
「どうやら、父親と共にハリバート城に行ってしまったらしい。儂らに迷惑をかけまいと思ったんだろう。」
医療団のリーダーはオリビアが残した手紙を読み、ためいきをついた。
「そんな?!あの恐ろしい皇太子と、オリビアが婚約するなんてありえない!!」
なぜ、オリビアは自分たちを信じてここに残ってくれなかったのか。
ルイスは荷物を背負い、ハリバート城に向かって走り出した。
「おいっ!ルイス!!」
「オリビアを連れ帰ってくる!」
オリビアはいつも他人の事ばかり大切にして、自分を守ろうとしない。ルイスはそんなオリビアが心配で仕方なかった。
(俺がオリビアを守ってやる。)
ルイスもまた、家族に虐げられ逃げ出してきた孤児であった。似た境遇であるオリビアのことを放ってはおけなかったのだ。
(待ってろ。オリビア。)
◇◇◇
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