【完結】婚約破棄を望む王子様にお飾りの正妃にして欲しいと頼んだはずですが、なぜか溺愛されています!

五月ふう

文字の大きさ
21 / 34

21.優しいのは君だよ

しおりを挟む


(なぜ皆、自分の命をなにより大切にしないんだ?)

オリビアから頼まれた医療本を手に、レオは考えていた。

結局、アダムズ、ジョシュア、エレリアは城を離れないと言って聞かなかった。

(もう時間は無いというのに。)

レオは王座の後ろにある本棚をそっと押した。そこに、レオとカルクしか知らない隠し部屋があるのだ。

オリビアはベットの上に大人しく座っていた。部屋に入ってきたレオを見るとにっこりと笑った。

「お待ちしていました。」

オリビアの言葉が妙にこそばゆく感じる。誰かに待たれ、笑顔を向けられることは、こんなにも嬉しいことなのか。

「これを。」

レオは医療書をオリビアに差し出した。

「ありがとうございます!」

弾んだ声でお礼を言い、オリビアは医療書を受け取った。オリビアの笑顔を見ていると、自分のことのように嬉しくなる。

「医者に、知り合いがいるのか?」

オリビアはハッとした顔で本を抱きしめた。

「私をここから追い出そうったって、そうはいきませんからね!私は何も言いません!」

レオはオリビアの隣に座って、大きく息を吐いた。

「なぜお前たちは、こうもハリバート城が好きなのだ?」

「はい?」

「アダムズやエレリアにも、逃げてほしいと頼んだんだが、どうしてもこの城を出たくないと言い張るんだ。そんなにこの城の居心地がいいのか?」

オリビアはゆっくりと瞬きをする。

「えっと、レオ様は勘違いしていると思います。」

「勘違い?」

オリビアは深く頷いた。

「アダムズ様は、場所に拘っているのではありません。守りたいものがあるから、出ていかないと言ったのです。」

(守りたいもの、、、。)

俯くレオに向かって、オリビアは言葉を続ける。

「あの馬小屋に暮らして、数日の私にだって分かるのです。レオ様にも、きっとアダムズ様達が守りたいものが何なのか分かっているはずです。」

レオは俯き、拳を握った。

(分かりたく、ない。)

「レオ様、貴方ですよ。」

オリビアはレオの顔を覗き込んだ。
オリビアの金色の目がレオを見つめる。その目はレオを捉えて、離そうとしない。

「もう、誰にも傷ついて欲しく無いんだよ、、、。頼むから、逃げてくれよ、、、。」

オリビアは小さく笑って、レオをゆっくりと抱きしめた。ふわりと、オリビアの長い黒髪がレオの耳をくすぐる。

「貴方は、本当に優しい人です。だからこそ、私はどうしても、レオ様にも傷つかないで欲しいと願ってしまうのです。」

「優しいのは、、君だよ。オリビア。」

レオの胸に、オリビアのことばがゆっくりと染みる。

(最後に君に会えてよかった。)

長い間、恐ろしい皇太子だと言われ続けたレオは生きることを諦めてしまっていた。自分がいなくなれば全てが上手くいく。その思いが常に頭の中にある。

「ねぇ、レオ様。」

「なんだ?」

「もしも、貴方が共に逃げてくれるなら、私は今すぐにでもこの城を出ますよ?」

レオはオリビアを抱きしめる腕に力を込めた。

「君を連れて、どこに逃げようか?」

「どこにでも、貴方が行きたいところに参ります。」

レオはゆっくりと、オリビアを自分から離した。

「俺が側にいる場所に、安寧はないさ。」

一瞬で、オリビアの目に涙が溜まった。目を真っ赤にして、オリビアは言う。

「あります。絶対に。私が、作ってみせますから。おねがいだから、諦めないでください。」

「ありがとう、オリビア。」

レオはそっと、オリビアの涙を拭う。

「お願いですから、いなくならないでください。レオ様。」

オリビアはそう言って泣いた。レオはその背中を長い間撫でていた。

(寝てしまったか。)

眠ってしまったオリビアをそっとベットに寝かせ、レオはそっと部屋を出た。



  ◇◇◇


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

後悔などありません。あなたのことは愛していないので。

あかぎ
恋愛
「お前とは婚約破棄する」 婚約者の突然の宣言に、レイラは言葉を失った。 理由は見知らぬ女ジェシカへのいじめ。 証拠と称される手紙も差し出されたが、筆跡は明らかに自分のものではない。 初対面の相手に嫉妬して傷つけただなど、理不尽にもほどがある。 だが、トールは疑いを信じ込み、ジェシカと共にレイラを糾弾する。 静かに溜息をついたレイラは、彼の目を見据えて言った。 「私、あなたのことなんて全然好きじゃないの」

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

氷の公爵は、捨てられた私を離さない

空月そらら
恋愛
「魔力がないから不要だ」――長年尽くした王太子にそう告げられ、侯爵令嬢アリアは理不尽に婚約破棄された。 すべてを失い、社交界からも追放同然となった彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と畏れられる辺境伯レオルド。 彼は戦の呪いに蝕まれ、常に激痛に苦しんでいたが、偶然触れたアリアにだけ痛みが和らぐことに気づく。 アリアには魔力とは違う、稀有な『浄化の力』が秘められていたのだ。 「君の力が、私には必要だ」 冷徹なはずの公爵は、アリアの価値を見抜き、傍に置くことを決める。 彼の元で力を発揮し、呪いを癒やしていくアリア。 レオルドはいつしか彼女に深く執着し、不器用に溺愛し始める。「お前を誰にも渡さない」と。 一方、アリアを捨てた王太子は聖女に振り回され、国を傾かせ、初めて自分が手放したものの大きさに気づき始める。 「アリア、戻ってきてくれ!」と見苦しく縋る元婚約者に、アリアは毅然と告げる。「もう遅いのです」と。 これは、捨てられた令嬢が、冷徹な公爵の唯一無二の存在となり、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転溺愛ストーリー。

処理中です...