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2.国王は帰ってこない
しおりを挟むそれから3ヶ月後の、トラストル国建国記念日。隣国アザール国に向かった国王リリックはまだ帰ってきていなかった。
「王妃様・・・!王様はどこにいらっしゃるんですか!」
「王様の女遊びに多額の税金が使われてるってほんとですか?」
「隣国で王様が娼館で遊んでいるという噂があるのですか?!」
広場で開かれた建国を祝うための式典。
そこには大勢の国民がつめかけ、フィリナにむかって声をあげた。
(皆が怒るのは、当然だわ・・・。)
建国記念の儀式で国王がいないだけでも大問題なのに・・・その理由が女遊びだなんて。
これまでも、リリックが愛人に会うために隣国に行くことは何度もあった。それでも、一週間ほどで帰ってきてくれていたのに。
ーー3ヶ月間彼は国に帰って来ない。
「本当に・・・ごめんなさい。」
質問に答えず、フィリナは深く頭を下げた。国民に真実を伝えたら、彼等の怒りを増大させてしまうことを彼女はよくわかっていた。
(私が甘かったわ・・・。)
お金がなくなったら、リリックはトラストル国に帰ってくるだろうと、フィリナは思っていた。
だが・・・リリックは信じられない方法を使ってお金を得ているとつい先日判明したのだ。
リリックはトラストル国で代々受け継がれてきた宝石の一部を持ち出し、それを売り払うことで女遊びの資金を得ている。まだ、しばらくあの男は帰ってこないだろう。
「謝らないでください。フィリナ様。」
「フィリナ様のせいではありませんよ。」
広場に集まった人達は口々に言った。
フィリナの尽力と悲しみを、皆、理解しているのだ。
トラストル国は貧しい国で、不作の年は食べるものにも困るほどだった。
「いいえ・・・私のせいです・・・。」
人々はフィリナを慰めようと声をあげる。
「フィリナ様のおかげで、飢え死ぬ奴がいなくなったんです!」
「王妃様のおかげで、この国への旅行客が増えましたわ!」
フィリナは顔をあげ、小さく微笑みを浮かべた。
「励ましてくれて・・・ありがとう。まだまだできてないことも多いけれど、皆にそう言ってもらえると力が出るわ。」
フィリナ王妃は困窮に苦しむ人々を減らそうと、様々な支援を行っていた。時には自ら街に行き、配給の食事を配ることもある。
「きっとリリック様は帰ってきて、立派な王になってくださるわ。もう少しだけ、それを待ってもらえないかしら。」
涙ながらにそう語るフィリナに、人々は何も言えなくなってしまった。
ーリリック国王は、きっともう変わらない。
フィリナ以外誰もがそう確信していた。
人々はただ王妃様の名前を呼ぶ。
「フィリナ様!」
「フィリナ様!万歳!」
だが夫を信じて待つ美しい王妃様を人々は傷つけたくは無かったし、彼女の幸せを望んでいた。
「皆さんいつもありがとう。これからもトラストル国を支えてください。永遠にトラストル国が繁栄していきますように。」
フィリナの言葉で建国記念の儀式は終幕を迎えた。人々はフィリナの為に、一度国王への不満を我慢することに決めたのだがーー。
残酷にも一週間後、新たな噂が街に駆け巡る。
「リリック国王は国宝を売り払って豪遊しているらしいぞ・・・?」
「なんですって!? 」
「もうあの最低な王をもう許せない!フィリナ様の為にと我慢していたが・・・リリックはこれ以上国王を続けるべきではない!」
元々トラストル国は小さな国で、人口も少ない。ほそぼそと続いてきたトラストル国にとって、国宝が失われた事は重大な事件だった。
"国王リリックを退位させるべきだ"
多くの国民がこの考えを支持した。一週間も経たないうちに、国民の半数以上の署名が集まった。
署名には書いていないが、人々はこう考えていた。
国王リリックを退位させ、フィリナ王妃が女王様になるべきだ。国王リリックが退位すれば、フィリナ王妃はリリックと離縁できる。さっさとあんな最低な王のことは忘れて、新しい伴侶を見つけてほしい。
だが、この思いは王妃フィリナには届いていなかった。
"国民がリリックの退位を要求している"
フィリナが知るのはこの恐ろしいほどに残酷な国民の怒りだけだった。
「ああ、私はどうしたらいいのでしょう?」
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