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3.王妃は一人ぼっち
しおりを挟むここはトラストル城。
バラが咲き誇る園庭を一人見つめ、フィリナは途方にくれていた。
(どうしたらいいのかしら・・・。)
気候が穏やかで、四季があるトラストル国には、毎年様々な花が咲き誇る。国の財政が苦しくても庭だけは綺麗に保つようにしていた。
「フィリナ様、こんにちは。」
庭師のアレックスが、フィリナを見つけて笑みを浮かべた。
「いつも庭を綺麗に保ってくれてありがとう。アレックス。本当はもっと貴方に報いてあげたいんだけど・・・。」
アレックスは腕のいい庭師。以前は海外の貴族の御屋敷で、専属庭師をしていたことがあるらしい。だが、フィリナは彼の力に見合わない少額のお金しか、支払うことができていなかった。
「いいんですよ。昔から、この城の庭を整備するのが夢でしたから。」
アレックスの父親もまた、トラストル国の庭師をしていた。小さい頃からアレックスはこの城にきていたため、フィリナは昔から彼のことを知っている。
「夢・・・。」
フィリナはぽつりと呟いて、視線をバラに移した。
(私も昔は・・・夢があったな。)
リリックの王妃としてトラストル国を豊かにしたい。そして・・・リリックと幸せな家庭が築きたかった。
(ずっと・・・憧れていたもの。)
フィリナはずっと昔から、リリックを慕っていた。茶色い瞳の優しい王子様。親が決めた許嫁ではあったけれど、彼女には関係なかったのだ。
「フィリナ様?」
心配そうな顔で、アレックスがフィリナを覗き込む。
(だめ。笑顔で、明るくいなくちゃ。)
王妃教育を受けてきたフィリナは、弱みを見せないよう常に心がけていた。
本当の自分は大人しくて心配性な女だと自覚していたが・・・いつだって彼女は明るく振る舞う。
「いえ。夢があるって、素敵だなって。このお庭、本当に素敵よ。見ているだけで元気が出てくるわ!」
パチリ
アレックスは黙って一輪のバラをハサミで切り、フィリナに渡した。
「フィリナ様を元気づけたくて、俺は庭を作っていますから。」
アレックスはまっすぐにフィリナを見つめた。
「あり・・・がとう。」
フィリナは強く唇を噛んだ。
思いがけないアレックスの言葉に、うっかり泣いてしまいそうになったから。
「フィリナ様。ただの庭師の俺でも・・・貴方の弱音を聞くくらいはできますよ?」
穏やかな口調でアレックスが言う。
私から目線をそらし、パチリパチリとバラ園を整える。
「・・・聞いて、もらおうかしら。」
そう答えたのはフィリナの心が悲鳴をあげていたから。小さい頃からよく知っているアレックスなら・・・話しても良いと思えた。
常に自分を偽り、完璧な王妃を演じるフィリナには、こういうときに頼れる親しい友人がいない。
「なんでも聞きますよ。」
だからこそ、アレックスの言葉が有難かった。
「国王様・・・リリックは、もう国民からの信頼を完全に失ってるわ。」
リリックの退任を要求する署名には、8割以上の国民が記名していた。
「はい。」
アレックスは柔らかく相槌を打つ。
「当然よね。3ヶ月間も国を留守にして、国宝まで売り払ってしまったんだもの。もう・・・かばいきれない。あの人は国王を退位するべき。アレックスもそう思うでしょう?」
「・・・そう思います。」
フィリナは自分を落ち着かせようと、アレックスからもらったバラの匂いを嗅ぎ、再び話し始める。
「リリックがいない今、私が国王代理なの・・・。私が署名を受け入れたら、正式に国王の退位を決定することができるわ。」
全てはリリック自身が撒いた種だ。
3ヶ月間もの間、国を留守にして全ての仕事をフィリナに任せる。
だが、そのせいで彼は国王の地位を放棄しているとみなされるのだ。
「迷って、いるのですか?」
「・・・ええ。」
フィリナだって、もうリリックに対する愛想は尽きている。だが・・・妻として王妃として、最後まで彼を支えるべきなんじゃないか。そんな思いがフィリナの決断を邪魔していた。
「フィリナ様は、優しすぎるんです。」
ぽつりと、アレックスは呟いた。
「いいえ。ほんとは優しくなんてないのよ。」
フィリナは悲しい顔で首を振った。
(私が言っているのは綺麗事だわ。支えるべきなんて・・・。本当は自分が惨めなだけなのに。)
王妃としての地位を失ったフィリナには何も残らない。
誰にも本当の自分を見せてこなかったから、親しい人も頼れる人も誰もいない。
「フィリナ様・・・。」
フィリナは大きく息を吸って、美しい笑みを浮かべた。
「ごめんなさい。まだ・・・私は王妃なのに・・・心配かけてしまうなんてだめね。ただでさえ、夫のことを止められない・・・最低な王妃なのに。」
「誰も貴方を最低な王妃だなんて思っていません。」
アレックスの言葉をフィリナは信じられなかった。
「ありがとう・・・アレックス。貴方の言葉に救われるわ・・・。」
自分の意図が上手く伝わっていない。
フィリナ王妃が自分を否定していることにアレックスは気がついた。
「フィリナ様。城を出て、街に行きましょう。」
「え?」
「誰も、フィリナ様を最低な王妃だなんて、思っていない。むしろ皆、貴方を救いたいんです。」
フィリナはゆっくりと瞬きをして首をかしげた。
「え?」
「嘘じゃありません。少なくとも俺は・・・貴方を救いたいとずっと思っていました。」
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