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1.浮気症の公爵様

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「わざわざ隣国から僕のお嫁さんに来てくれてありがとう。ユナ。君を全力で幸せにするよ。」

公爵リューク・イタルクはそう言って、ユナの指に指輪をはめた。キラキラと光る大粒の指輪。

恋ってなんだろう?
愛ってなんだろう?

何もわからないままユナはリュークの妻となる。

「よろしく、おねがいします。リューク様。」

ユナはおずおずと頭をさげた。

ユナがイタルク家のお嫁さんにと望まれたのは、実家が名家だから。その一点に限る。

大陸随一の名家ハクストル家の三女、ユナ・ハクストル、16歳。彼女の二人の姉はユリより先に各国の貴族に嫁いでいる。

だから、ユナがイタルク家の妻となるのも、自然なことだった。蝶よ花よと育てられ、自由は無かったユリ。

「とても、楽しみです。リューク様。」

ユナの心は踊っていた。

結婚したからには、もう実家から自由だ。色んな場所を旅して、色んな人と出会って・・・そしてきっと、リューク様と素敵な恋をするのだ。

「僕もだよ。」

リューク様は優しく微笑んだ。

青い瞳に金髪。
リュークはユナが思い描いていた王子様そのものだった。だから、素敵な恋が始まると信じて疑わなかった。

彼が酷い女好きだとわかるまではーー。


   ◇◇◇


「あ、リューク様・・・。」

結婚式から、一週間後。
街で見かけたリュークは見知らぬ女と手を繋いで歩いていた。

ユナに気づくことなく、二人の世界に入り込んでいる。

あれが、本当の愛なのかしら?

まだ誰にも恋をしたことがないユナには分からなかった。

「ユナ様。参りましょう。」

他の女といちゃつくリュークを見せまいと、護衛のゼトルが私に言う。

「そうねぇ・・・。」

少なくとも、リュークが私の運命の人じゃないことは確かね。ユナはそっとため息をついた。

少し調べると、リュークがあの女以外にも大勢愛人がいることが分かった。

「最低ねぇ。」

ユナは調査報告書をペラペラとめくる。

その頃にはリュークに対する期待や愛情が一切なくなっていたので、ちっとも悲しく無かった。

「まあ、そのうち離縁を告げられるんでしょう。」

ユナは大きく伸びをして、カバンを手に取った。

あの男がクズならそれで構わない。
この自由を全力で楽しむだけだ!


   ◇◇◇



「じゃあ行ってくるよ。今週は仕事で出張だから、帰れない。寂しい思いをさせてごめんな。」

「いいえ。おかえりを待っております。」

ユナは笑顔でリュークを送り出し、手を振った。パタンとドアが閉まると、ユリは両手をぎゅっと握る。

「旅行の準備をしましょう!今週もリューク様は愛人の家よ!」

満面の笑みを浮べて、ユナのメイドのカラと護衛のゼトルに声をかけた。

「ユナ様・・・リューク様が愛人のところにばかり行って辛くないですか?」

カラは心配そうな顔でユナに尋ねる。

リュークが優れているのは外面だけ。ユナを大切にしようとはしない酷い男だ。聞けば、リュークは昔から女遊びが激しいらしい。それはユナがお嫁に来てからも全く変わらない。

今週のように、ユナを放って愛人の家に泊まりに行くことはしょっちゅうだ。

リュークはユナが自分の浮気に気づいていないと思っているのだろうが・・・ユナはもうとっくの昔に知っている。

「あはは。いいのよぉ。彼が自由にすればするほど、私だって自由なんだし。」

ユナは手を振りながら答える。心の中は今週の旅行地のことでいっぱいだった。

(どうしようかしら。隣町の温泉に入るのもいいし、少し遠出して海に行くのもいいわね。)

「ユナ様。俺は納得できません。リュークの奴はもっとユナ様を大切に扱うべきなのです!!」

護衛のゼトルは顔を真っ赤にして怒っている。

「私も・・・心配ですよ。ユナ様にはもっといい旦那様がいるんじゃないかって。」

カラもユナをじっと見つめて言う。

ゼトルとカラは元々ハクストル家の従者だった。この家にユナがお嫁に来るときに着いてきてもらったのだ。

「ふたりともありがとうっ。」

ユナはカラとゼトルをまとめて抱きしめた。主人と従者という関係だが、カラとゼトルはユナにとって大切な友達でもある。

「ゆっ、ユナ様!」

「ユ、ユ、ユナ様・・・」

二人に心配をかけて申し訳ない気持ちはある。ユナだって、リューク様があんな最低男で、ちょっとは落ち込んだ。でも、あんな男の為に、大切な今を無駄にはできないのだ。

「だいじょうぶ。前向きに、よ!それにね・・・リュークの奴、私をないがしろにしてると後で後悔するわ。」

ユナはカラとゼトルの耳元で囁いた。

「何か、いい考えがあるのですか?」

ユナは楽しそうにウィンクをする。

「私がなにもできない小娘だと思っていると痛い目を見るわよ!」


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