クールな幼なじみと紡ぐロマン

緋村燐

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短編コンテスト

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「莉緒ちゃんってホントりないよね?」
「パクっておいて図太すぎ」
「ホント、また新作書くとかさ。いつになったらやめるんだろ?」

 学校での美乃梨ちゃんたちからの嫌味いやみはまた多くなってきた。
 例の酷評こくひょうレビューは玲衣くんがあまりにもひどいって通報してくれたおかげか、『ラブベリー』の運営さんが消してくれた。
 でも、美乃梨ちゃんたちはそれが気にくわなかったのか私への批判を強くするようになったんだ。
 レビューや感想だとまた消されるって思ったのかな?
 こうして学校でヒマがあればわざと私に聞こえるように私の悪口を話してる。
 直接言われたなら、『パクってない』くらいは言えるんだけど……。

「なに? あいつら。勝手なこと言い過ぎじゃない?」

 私の側で紗香が代わりに怒ってくれる。
 本当、紗香がいなかったら学校生活たえられなかったかも。

「ちょっと文句言ってこようか?」
「ううん、いいよ。言っても多分『聞き間違いじゃない?』って言われるだけだもん」

 不機嫌そうに美乃梨ちゃんたちのところに行こうとする紗香を止めた。
 すでに一回言ってみたあとだったから。
 あまりにもひどいって言う玲衣くんの言葉に勇気をもらって、あのレビューのあと嫌味を言ってる美智留ちゃんたちに止めてって言ったんだ。
 でも、返って来たのは……。

『なに言ってんの? 私たち何も言ってないよ?』
『聞き間違いじゃない? 変な難癖なんくせつけないでよ』

 って逆ににらまれちゃったんだ。
 そんな風にとぼけられたらもう何も言えない。
 モヤモヤとした不満が残るだけで、紗香にまであんな気持ち味わってほしくない。

「それよりほら、なんか楽しい話ししよ? 紗香と話していればあんなの気にならないからさ!」

 本当は少しは気になるからちょっと無理してるけど、明るい気持ちになりたくて話題を変えた。

「そう?……あ、そういえば」

 紗香はちょっと不満そうだったけど、何かを思い出したのか自分のスマホを取り出す。

「さっき『ラブベリー』のサイト見てみたんだけどさ。莉緒はこういうのに出さないの?」

 紗香は小説は読まないけれど、私が投稿とうこうしてるからってたまに『ラブベリー』のサイトを見てるみたい。
 スマホを操作して見せられたのは、『ラブベリー』サイト内のコンテスト詳細しょうさいページ。
 数日前から開催かいさいされた『ラブキュン短編コンテスト!』のページだ。

「うーん、興味はあるんだけどさ。まだそういうのに出せるレベルじゃないと思うんだよね」
「そうなの? 試しに出してみるとかはしてもいいんじゃない?」
「でも、自信ないから……もう何作品か書いてからにしたいかなって」
「そう?」

 不思議そうにスマホ画面を見ながら首をかしげる紗香に私は困り笑顔を向ける。
 ……自信なんて、あるわけないよ。
 人気作家なはずの美乃梨ちゃんですらコンテストでは最終選考に進んだことないって聞いたもん。
 ランクインどころか、読んでくれる人もまだまだ少ない私がコンテストなんて……まだ早いって。
 ……でも、そう思っていたのは私だけだったみたい。

***

「期末テストも終わったし、次の作品はこのコンテスト用にしよう」
「え!?」

 その週末、もはや定番になっている玲衣くんとの小説勉強会で告げられた。

「無理だよ! 落ちるに決まってるよ!」

 すぐに拒否きょひの言葉を口にする私だけれど、玲衣くんは真面目な顔でさとしてくる。

「落ちるかもしれない。でも、応募おうぼしてみなきゃわかんないだろ?」
「うっ……それは、まあ……。で、でも、このコンテスト一万文字以上の作品からだよね? 私、そんなに長いの書いたことないよ!?」

 そう、『ラブキュン短編コンテスト!』の応募要項おうぼようこうには一万文字以上三万文字以内っていう文字数制限がある。
 三作目でやっと五千文字の作品を書けたばかりの私に、一万文字以上なんて書けるとは思えなかった。

「でも五千文字の作品、プロットふくめて五日で書けただろ? 七月十五日の締め切りまでは二十日以上ある。莉緒なら書けるよ」

 そう言って玲衣くんは私の大好きなふわっとした笑みをうかべる。
 メガネの奥の目も優しく細められて、胸がキュンとなった私は言葉につまっちゃった。

「プロットのチェックとか、今回も俺が出来るところは手伝うから。やってみようぜ?」
「う……わかった」

 ほれた弱みってやつかな?
 頭をポンポンッてされたら、頑張ってみようって思えちゃったんだ。

「じゃあまずはプロットだな。コンテストの詳細ページには『きらめく恋のお話を募集ぼしゅうします』って書いてあるけど……莉緒、書きたい話ある?」
「……うん、書いてみたいお話はあるよ。書くとしてもまだ先かなって思ってたけど、コンテストに出すならそのお話がいい」

 さっそくコンテスト用の作品のプロットの話をする玲衣くんに、私は少し考えてうなずく。
 ちゃんと書きたいから、もっと上手くなってからって思ってた。
 でも、私にとっての『きらめく恋のお話』はこれしかないから。

「じゃあ、来週までにプロット作れるか?」
「うん、頑張ってみる」

 ドキドキと、色んな意味で高鳴る胸に手を当ててうなずいた。

***

「へえ、やっぱりコンテスト応募することにしたんだ?」
「うん、プロットのチェックとか下読みをしてくれてる幼なじみに説得されちゃって」

 休み明け、さっそく紗香に報告した。
 コンテストに応募なんて無理だって言ってたのに、結局応募することになったから苦笑いで伝える。

「いいんじゃない? やっぱりチャレンジしてみないと!」
「そ、そうだよね!」

 グッと親指を立てて『いいね』のジェスチャーをしてくれた紗香。
 玲衣くんに言われたからやってみようって感じもあったけれど、紗香の言葉でなおさら頑張ろうって思えた。
 そうだよ。チャレンジすることも大事だよね!

「え? もしかして莉緒ちゃんもあの『ラブベリー』の短編コンテストに応募するの?」
「っ!?」

 私が意志を固めていると、話が聞こえていたらしい美乃梨ちゃんの声が聞こえた。
 思わず警戒けいかいしていると、案の定美乃梨ちゃんの友だちが次々と私に嫌味を言って来る。

「えー? 莉緒ちゃん程度の実力で? うそでしょ?」
「やめてほしいよね。コンテスト自体の質も下がっちゃうんじゃない?」

 クスクスってあからさまにバカにした態度に、私よりも紗香がおこりだした。

「ちょっと! いつも思ってたけどあんたたちひどくない?」
「えー? なにがー?」
「本当のこと言ってるだけなんだけど」
「このっ!」

 悪びれない彼女たちに紗香が本気でキレそうになる。

「さ、紗香? 私は大丈夫だから――」
「莉緒ちゃん」

 紗香を止めようとあわてて声を上げたけれど、その言葉をさえぎるように美乃梨ちゃんが私を呼んだ。
 とてもこわい目で私をにらんでいる。

「本気で応募するつもり? 書くのやめた方がいいよって忠告してあげたのに……私の忠告も聞かないで書き続けてるし」
「美乃梨ちゃん?」
「たいして読まれもしないのに……莉緒ちゃんの小説が賞なんて取れるわけないじゃない」
「そ、それはそうかもだけど……」

 人気作家の美乃梨ちゃんに言われたらやっぱりそうだよねって思ってしまう。
 でも、紗香にあと押してもらった。
 玲衣くんにも頑張るって言った。
 受賞なんて出来なくても、チャレンジするって決めたんだもん。

「でも、何もしなきゃ成長出来ないと思うから……だから応募するよ!」
「っ!」

 美乃梨ちゃんはこわかったけれど、私は負けないように真っ直ぐ彼女の目を見る。
 自分で決めたことだもん。人に言われたからって曲げたくない。
 紗香と玲衣くんからの応援おうえんもあるけれど、それ以前に私は恋愛小説が好き。
 好きだから、書きたいって思った。
 好きだから、上手くなりたいって思った。
 玲衣くんに手伝ってもらいながら三作目まで書いて、その気持ちはもっと強くなってる。
 はじめて書いた作品をバカにされて、書きたいって気持ちを無くそうとしたあのころとはちがうんだ。

「ふん! どうせ最終選考にだって残るわけないんだから!」

 捨て台詞のように言いはなった美乃梨ちゃんは、友だちに「行こ」と告げてはなれて行く。

「やるじゃん、莉緒。スカッとした!」
「そうかな?」

 晴れ晴れとした様子で笑う紗香につられて、私も照れるように笑顔をうかべた。
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