クールな幼なじみと紡ぐロマン

緋村燐

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恋のロマン

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 玲衣くんに手を引かれてついたのは見覚えのある公園。
 広場の中央に小さな噴水ふんすいがあって、おくに子供が遊べる遊具がいくつかある場所だ。

「あ、ここって……」
「覚えてるか? 小1くらいのとき、親に連れられて一緒に来たよな?」
「うん。……でも場所までは覚えてなかった。こんな近くにあったんだね」

 あれはたしか小学生になって少ししたころ。夏前で、まだちょっと肌寒はだざむい日。
 たまにはちょっとはなれた公園に遊びに行こうかってお母さんに連れられて来たんだ。
 玲衣くんもお母さんに連れられて、四人でここに来たのを覚えてる。
 でも小さいころだったからどの道を通って来たのか覚えてなかったし、体感ではもっとはなれた場所にあると思ってた。

「莉緒の小説読んでここを思い出してさ、母さんにくわしい場所聞いといたんだ」
「そ、そうなんだ」

 私の小説を読んでってところでドキリとする。
 だって、その小学一年生のときにここであったことを思い出しながらエピソードの一つを考えたから……。
 もしかして、玲衣くんもあのときのこと覚えてるのかな?

「この噴水の近くで遊んでたら、莉緒、他の子に水かけられて泣いたんだよな?」
「うん」

 まだ水遊びするような季節じゃないのに水浸みずびたしにされて、このままじゃお母さんに怒られるって思って泣いちゃったんだっけ。
 寒いし、どうしていいかわからなくて泣いて。……あのときも玲衣くんがなぐさめてくれたんだよね。

「玲衣くん、自分が着てたパーカー貸してくれたよね? まだ寒かったのに、大丈夫って強がっちゃって」
「そりゃあ強がりもするさ。いつもとちがう公園で、他にたよれる上級生がいなかったし……母さんたちは世間話してるし。莉緒のことは俺が守らなきゃって思ったんだ」
「そうだったんだ……」

 私はあのとき、そうやって守ってくれる玲衣くんがヒーローみたいに見えた。
 あのときから私は玲衣くんにあわい恋心をいだいてたんだろうなって、今ならわかる。
 手を引かれて、その噴水に近づいて二人でふちに座った。
 真夏の今は水しぶきが心地いい。

「あの小説のヒーローとヒロインの初恋シーンって、あのときのことネタにした?」
「うっ……ごめんね? ピッタリだと思って」

 もし玲衣くんがあのときのことを覚えていたらそれをネタにしたってバレるよねって思ったけど……。
 でも、玲衣くんへの思いを作品にこめようって決めて書いたからどうしてもあのエピソードは外せなかったんだ。

「いいよ。自分の体験したことをもとにして書いたからあれだけリアルに書けたんだろうし」

 勝手にネタにしたことを怒ることもなく許してくれた玲衣くんにホッとする。

「それに、あのときのことをヒロインの初恋シーンにしたってことはさ……俺、ちょっとはうぬぼれてもいいのかな?」
「え?」
「莉緒が、俺に恋してるかもしれないって」
「っ!」

 言い当てられて、息が止まる。
 あのときのことを書いたんだってことはバレても、さすがに私の気持ちまではバレないよねって思ってたから。
 あくまで小説の中のヒロインが初恋を自覚したシーンとして書いたし。
 下読みしてもらったときも玲衣くん何も言わなかったから、バレてないなって安心してたのに!

「なあ莉緒……俺、自信もっていいか?」
「じ、自信?」

 私の気持ちまで玲衣くんにバレてたって知って、頭の中がグルグルする。
 そんな私に玲衣くんがなにを言いたいのかなんて考える余裕よゆうはない。
 なんだか真剣しんけんな目で私を見る玲衣くんにもドキドキして、彼の言葉をくり返すことしか出来なかった。

「ああ。……莉緒が、俺のこと男として好きでいてくれてるって自信」
「すっ好きっ!?」

 ああもう、これ完全に私の気持ちバレてるってことだよね!?
 え? これどうすればいいの!?

「うん。で、俺と莉緒が両思いだっていう自信」
「両おも……え?」

 今、玲衣くんなんて言った?
 私の聞きまちがいじゃなければ『両思い』って言った?
 信じられなくて、ポカンと口を開けたまま玲衣くんの顔を見る。
 メガネをかけたすずやかな顔は真剣そのもので、私の手をにぎる玲衣くんの手はとても熱かった。

「七年前にここで莉緒を守りたいって思ったときからずっと、莉緒をなぐさめるのも守るのも俺の役目だって思ってた。使命感みたいなものだと思ってたけど、ちがった」

 メガネのおくの目が、強く私を見つめる。
 その強さに引きこまれて、私は玲衣くんの言葉をただただ聞いた。

「莉緒の執筆しっぴつ手伝うようになって、一緒に過ごすことが多くなって気づいたんだ。俺、莉緒のこと女の子として好きなんだって。なぐさめるのも守りたいって思ったのも、好きな女の子だからなんだって」
「玲衣……くん」

 玲衣くんの言葉がうれしくて……でも、だからこそ夢なんじゃないかって信じきれなくて。
 どうしよう、言葉が出てこない。
 なにか言わなきゃって。私も伝えなきゃって思うのになんて言えばいいのかわからない。

「俺、これからも莉緒を守りたい。泣いてる莉緒をなぐさめるのは俺だけの役目でありたいんだ」

 にぎられていた私の手に、玲衣くんがもう片方の手も重ねる。
 包むようにギュッとにぎられて、私のドキドキも最高潮に達した。

「好きだよ莉緒。これからもずっと、俺はお前の薬でありたい」
「っ! れい、くんっ……わ、私っ」

 うれしすぎてなみだがこぼれる。
 私もちゃんと伝えたいのに、嗚咽おえつまじりになっちゃって言葉にならない。
 ちょっと落ち着こうって呼吸を整えようとするけれど、早くしようと思えば思うほどうまくいかない。
 玲衣くんはそんな私のほほを包むように手を当てて、親指で涙をぬぐってくれた。
 いつものように涙をぬぐってくれた玲衣くんは、まゆを下げて自信なさげな顔をしている。

「ダメか?」
「ダメじゃない!」

 その表情と消極的な言葉に私は反射的に答えた。
 玲衣くんにそんな悲しい顔させたくない。

「うれしいの。私も玲衣くんが好き……これからもずっと、玲衣くんといたい」
「……まじか」
「まじだよ?」

 ちゃんと伝えたのに、信じられないみたいな言葉をつぶやく玲衣くんに涙を止めて言葉を返す。
 すると玲衣くんは私から手をはなしてはずかしそうに自分の口元をかくした。

「やばい、メチャクチャうれしい」

 耳が赤くなって、照れてる玲衣くんがなんだかかわいく見える。
 そんな姿にもキュンとしてしまった私は、やっぱりどうしようもなく玲衣くんが好きなんだな。

「私もうれしい。玲衣くんがいれば、私なんでも出来そう」
「じゃあ、今度は長編を書いて大賞とるか?」
「へ!? さすがにそれは無理だよ!?」

 うれしすぎてふわふわした気持ちで口にした言葉に、玲衣くんがからかうようにとんでもないことを言い出した。
 さすがにいきなり大賞は無理だって!

「でも、挑戦ちょうせんはするんだろ?」
「うっ……また、手伝ってくれる?」

 書き続けると決めたからそりゃあ挑戦はするけれど……まだまだ未熟なのも自覚してるから玲衣くんにお願いする。

「もちろん。莉緒の執筆活動も応援おうえんしてるからな」
「ありがとう……あ、でも無理はしないでね? 私も玲衣くんのやりたいこと応援したいんだから!」

 玲衣くんが剣道を頑張がんばってるって知ってるから、邪魔じゃまだけはしたくない。

「ったく……本当、うれしいことばっかり言ってくれるよな」
「それは玲衣くんの方でしょ?」

 言い返すと玲衣くんは笑って私の頭をポンポンとたたいた。

「莉緒の頑張りを見てると俺も頑張ろうって思えるからいいんだよ。だから、これからは彼女としてよろしくな」
「っ! う、うん。よろしく」

 彼女って言葉にまた顔が熱くなってくる。
 ドキドキとかけ足になる鼓動こどうが、喜びのきらめきに満ちていた。

END
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